第33話 元カレとぼっち少女の苦悩

「はぁ……やっぱり実行委員なんて面倒なものに立候補するんじゃなかったな」


 放課後になって、僕と鳳は他のクラスの実行委員の面々と顔を突き合わせ、林間学校の運営についての話を聞かされることになった。

 話自体はそんなに長くなく、30分程度で終わったにしても……帰るのも遅くなるし、恐らく現状としてメリットなんて内申点が増えるだけのことだ。


 一応……雨城には遅くなるって言ったけど、あまり待たせるのも悪いし急ぐか。


 僕はいつものように放課後を図書室で過ごすべく、恐らく待っているであろう雨城を待たせない為に、走らない程度に早く歩いて図書室に辿り着いた。

 本棚に囲まれた出入り口から1番遠い窓際の席が、僕たちのいつもの席だ。


「……悪い、待たせたな。あまし……ろ?」

「…………………………」


 自称僕の大親友を名乗る、癖毛のミディアムヘアを持つ少女が真っ白に燃え尽きて座っていた。

 

「おい、どうした?」

「そ……大空くん……わたしは……もうダメです……」


 死ぬ1歩手前みたいなセリフを吐かれても困るが、こいつは割とポジティブ精神を持ち合わせているし、こうなるってことは相当な問題が起きたってことだ。


「何があったんだよ……もしかして、林間学校の班決めでハブられたのか? そうだったら僕がそいつらの上履き焼却炉にぶち込んできてやるから元気出せ」

「違うんです……班には割とスムーズに入れてもらえたんです……でも、知らない人や陽キャの多いノリで生きてるような人がそこそこ多くて……」


 あー……それは、ちょっときついかもしれない。

 雨城はこう言っちゃなんだけど、陰キャ寄りの感性でオタク属性を持つし、陽キャのノリに合わせようとしたらうっかり絶命してしまうかもしれない。


「……まあ班がスムーズに決まっただけいいだろ。死なないなら大抵のことはなんとかなる」

「うぅ……わたしも大空くんたちと同じクラスなら……」

「4人が最大人数だから、その場合僕たちの中から結局1人脱落者が出るわけだけどな」

「4つの椅子をかけて、5人でバトるわけですね……望むところです」

「望んじゃうのかよ」


 君意外と武闘派だな。


「ま、その展開が来ることは未来永劫としてないわけだけどな」

「パラレルワールドのわたしたちに期待ですね」

「バトることを期待するな」

「大空くんはパラレルワールドの存在についてはどう思います?」


 急に話題が変わったな。

 ……パラレルワールドねぇ。


「あったら面白いとも思うけど、所詮は想像上の産物だろうな」

「そうですね……もしかしたらわたしが貧乳の世界やリア充な世界があると思うと面白いんですけどね」


 僕が読書嫌いだったり、陽キャ寄りの感性を持ってたり……鳳とまだ付き合っていたりだとかがあるかもしれない世界……ね。

 やっぱ、しっくりこないな。僕は僕だ。


「んー……今日はもう帰りますか?」

「何か用事でもあるのか?」

「いや、大空くんちょっと疲れてるみたいなので」


 確かに慣れないことやったせいで気を張ってたから、思った以上に疲れがあるような気がする。

 雨城に疲れてるなんて言われるのがその証拠だ。


「悪いな」

「いやいや、そんな!」


 僕は来たばかりの図書室から出て、下校することを選んだ。

 ……今日はちょっと早めに寝るか。


×××


「しかし……お前本当にどうするつもりだ?」

「班のことですか?」


 雨城の返答に頷いて肯定の意を示す。


「まあ一生関わるわけじゃないですし、人生の一瞬のことだと思えば……それに、多分悪い人たちじゃないですから」

「……そうだな。陽キャ=悪い奴ってわけじゃないしな。僕たちみたいな人種が勝手に苦手にしてるってだけで」

「そうですね……まあいざとなったらおっぱいで……!」

「どうするつもりだよ」


 こいつ少しおっぱいを過信しすぎてないか?

 というか異性には効いても同性には効かないだろそれ。


「それにしても……こういう林間学校だったりとかぼっち殺しのイベントか突発するのが学校の悪いところですよね」

「学校や社会はぼっちに優しくないからな」

「嫌いな言葉1位は好きな奴と組めです」

「あるあるだな」


 その代わりぼっちは自分に対して時間を割けるから、割と多芸だったりハイスペックな奴も多いと思う。

 勉強が得意だったりとか、無駄にガタイがよかったりだとか……。


「ぼっちの大半は望んでぼっちになったわけじゃないのに、いつの間にか望んでぼっちでいることが多いですよね」

「まあもう君はぼっちじゃないけどな。少なくとも友達がいる」

「そうですね。高校に入学して早々3人も友達が出来て、大親友も1人出来ました!」


 ……まあ、こいつほどの図太さがあれば大体のことは乗り切れるだろ。

 僕は自分のことを心配しないといけないな。

 実行委員だとか、班長だとか、面倒なことを1度に抱えてしまったわけだし。


「それでは、わたしは書店に寄って帰りますので!」

「ああ。また明日」


 雨城と別れたあと、寄り道をする気分じゃなかった僕は真っ直ぐ家に帰って、自分の部屋に入った。


「――あの、お帰りなさい」

「……は?」


 部屋に戻った僕に声をかけてきたのは、何故か部屋の中にいた、鳳だった。

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