第32話 元カップルと班決め

「あー6月頭にある林間学校の為に、皆には今から班を決めてもらうよ。基本的にはその決めた班で行動することになるからねー」


 林間学校……入学した時から先生が言っていたけど、高校に入学してもう2ヶ月経つことになるんだな。

 最初は鳳と進学先被りになって、ちょっと大変だったような気もするけど、今にしてみれば大分慣れたな。


 会話だってもう割とスムーズに出来るようになってきたし、僕たち2人を取り巻いていた気まずい空気はかなり緩和されていると言える。


 ……あれ? これ、諦めるとは全く逆方向に進んでないか!?

 思い返せば、手を繋いだり名前を呼んだりと、むしろ関係がいい感じの方面に進展してしまっている。


 ――ここは1度気を引き締め直して、初志貫徹……諦める為に、この林間学校では鳳と別の班に……。


「さて、俺たちの班は逢坂、俺、風花、鳳さんの4人でいいな?」

「うん。大丈夫だよ」

「三柴がいる以外は問題なーし!」

「……てめえ」


 別になれるわけがなかった。

 いつものように、舌戦を始める三柴と風花さんを見て、項垂れる。

 同じように項垂れている鳳が気になったけど、僕たちの班は決まった。


「班が決まったところで、次は何を決めればいいんだ?」

「他の班みたいに雑談でもしてればいいんじゃない?」

「そうだな。お、キャンプファイヤーとか肝試しとかあるぜ!」


 どうやら班長を決めて、クラスごとに実行委員を男女で2人選出する必要があるみたいだ。

 その他には肝試し係を決める必要があるらしい。


「班長と副班長はどうする?」

「んー、奏ちゃんと逢坂クンでいいんじゃない?」

「私!? まとめるのは向いてないというか……苦手で……」

「僕もそういうタイプじゃない。どっちかって言えば、三柴と風花さんの方がそういうの得意だろ」


 そう言うと、三柴と風花さんが顔を見合わせて……同時に顔を顰めた。

 なんだ、やっぱり息ぴったりじゃないか。


「三柴と組むぐらいだったら、舌を噛む」

「自殺を図るレベルで嫌なの!?」

「誠に遺憾だが、風花と同じく」

「大変だ。僕らの班から死者が2人出そうだ」


 君らゲームを貸し借りする仲、というよりも三柴が一方的にゲームを貸す中じゃないのか? やっぱ仲のいい幼馴染みなんて想像上の産物なのかね?


「まあ、実行委員会に選ばれるわけじゃないし……話も進まないから、面倒だけど僕がやる」

「私は……副班長なら……」


 まあ鳳は副班長タイプだしな。

 ……でも、班長と副班長って夜になると会議というか報告があるのが面倒なんだよなぁ。


「よしっ、じゃあ決定! あたしは肝試し係とかやってみたいなー」

「お前ホラー苦手だからって驚かす側にいきたいだけだろ」

「そ、そんなことないし!」


 話し合いの結果、僕が班長で鳳が副班長になった。

 肝試し係は三柴自体にする気はないらしく、すんなりと風花さんに決まった。


×××


「誰か実行委員やりたい人……いないかー」


 そりゃそうだよねーと頷く先生。

 まあ、わざわざ面倒なことを自分からやる奇特な奴なんてそうはいないだろう。


「あ、鳳さんやってみない?」

「え!? 私ですか!?」

「うん! 鳳さん成績優秀だし、先生の間でも評判いいんだよー? どうっ? やってみない?」


 先生の言葉にクラスメイトが、鳳さんなら大丈夫だの、頑張れーだの、賛成ーだの無責任な言葉を投げかけ始める。

 ……お前らはただやりたくないだけだろうに。

 

 先生も先生だ。鳳の性格を考えれば、注目されるのが苦手なタイプだっていうのも分かるだろうに……。

 特に、こんな大勢の目の前に晒されて、断り辛いだけじゃないか。

 こういうのは大衆の面前じゃなく、個別に頼むべきだ。


「あっ……うっ……」


 人見知りが改善されつつあるっていっても、この状況は厳しいだろう。

 周りがどんどん鳳が委員長をすることを望んで、断るのに勇気がいる空気になってきてるし、それに鳳は何より……恥ずかしがりだ。


 こんな大勢に注目されて、上手く応答なんて出来るはずがない。


「うぅ……わた、私は……」


 声はどんどん尻すぼみになっていき、どんどん俯いていってしまう鳳。

 でも、僕の席は鳳の隣で……僕の席からは唇を固く結んで、目の端に涙を溜めている鳳の顔がよく見えてしまった。


「――先生、僕やります」

「えっ?」


 挙手をして、立ち上がる。

 鳳が驚いた顔をして、こっちを見てるのが視界の隅に映った。


「やってくれるの? じゃあ男子の実行委員は逢坂君で決定でいいかな?」


 ぱちぱちぱちと、クラスメイトたちが賛同の拍手をして、黒板に逢坂大空という名前が刻まれた。


「それで、鳳さんはどう?」

「えっ? あっ……わ、私もやります!」

「本当に!? じゃあうちのクラスの実行委員は逢坂君と鳳さんで決定でいいかな?」


 三度、クラスメイトたちが賛同の拍手をし始める。

 鳳奏という文字が逢坂大空という文字の横に刻まれたのを確認して、僕は席に座った。


 席に座って、数分後……先生が林間学校についての退屈な説明をし始めたタイミングで、鳳の方から小さな紙が僕の机に渡ってきた。


『――どうして、立候補したの?』


 どうして、か……。


『気まぐれ。内申点もあるみたいだし、やっておいた方が得になると思ったからだ』


 紙を鳳の机に置く。

 鳳が小さく笑うのが、見えなくても空気で分かった。


『――ありがと』


 そう書かれた紙が僕の机に置かれたけど、僕はそれには返信せずに、ポケットの中にしまった。

 

 どうして、ね……。

 面倒な事も、目立つ事も、僕は大嫌いだけど……。



 ――あのまま何もしないのは、もっと嫌だった。それだけのことだ。


 

 はぁ……また諦めるとは別の行動しちゃったな。

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