第13話 元カップルと腐れ縁の2人(奏目線)

「奏ちゃん、風花家にようこそ!」

「お邪魔します」


 とある日の休日。風花さんに誘われた私は、風花さんのお家に来ていた。

 目的は遊ぶことと勉強会、それに今日はお泊まりの予定。

 テスト前だししっかりと勉強しておかないと、この学校の赤点のラインって厳しいんだよね……。


「奏ちゃんはテスト余裕そうだよね、あたしもう不安でさ……」

「全然そんなことないけど、赤点は取らないと思う。勉強は嫌いじゃないから」

「うわぁ-! 優等生だ! 優等生がここにいる! 可愛くて勉強も出来る才女だ!」

「や、やめてよ! 私なんて全然だから! 風花さんの方が可愛いよ!」


 事実、私が可愛ければ、もっと自分に自信が持てたと思うし……いつも明るくて自信たっぷりな風花さんが羨ましいとさえ思うもん……。


「あはは、ありがと。でも、男の子は奏ちゃんみたいな子が好きだと思うよ? 大人しくて振る舞いが清楚。あたしなんていつも男友達みたいだって言われるし。男子がよく奏ちゃんの噂してるの知ってるよ?」

「そ、そんなことないってば! 私みたいな人付き合いが苦手で上手く会話が出来ないタイプよりも一緒にいて楽しい人が絶対いいよ! 風花さんみたいな!」


 風花さんは明るいし、可愛いし、お洒落だし、私の理想かも……少なくとも、私とは全くの真逆のタイプ。

 ……逢坂くんだって、風花さんみたいな子が好みなのかも。私たちは会話が得意じゃなかったから、会話が続かずに沈黙しちゃうことだって多かったし。

 私はあの時間、嫌いじゃなかったけど、逢坂くんがそうとは限らないから……。


「奏ちゃん?」

「……ごめん、ちょっとぼうっとしちゃってた! さ、勉強しよっか!」


 友達に嫉妬なんてよくないよね。反省しないと。


「とりあえずあたしの部屋に行こっか。2階だよ」

「うん」


 ぴょんっと弾むように歩き出した風花さんの後ろについていき、階段を上がって奥の部屋に入る。

 ぬいぐるみが多めで可愛らしい部屋……やっぱり私の部屋とは全然違うね。

 本が少ないだけですっごく違和感があるし、壁のコルクボードに貼られた写真の数々が風花さんの交友関係の広さを物語っている。


「風花さんはどの教科が苦手なの?」

「理数系……数式見てると頭が痛くなってくる……」

「じゃあ数学を先にやっちゃおうか」


 テーブルの上に教科書とノートを広げて、クッションに腰を下ろす。

 私は読書が好きだけど、どちらかと言えば理数系の方が得意なんだよね。文系はその趣味でなんとかフォロー出来てるって感じかな。


「大丈夫だよ。復習をしっかりすれば。赤点を取らなければいいんだから、ねっ?」


 上を目指していい順位を狙うわけじゃないならある程度復習して、授業をちゃんと聞いておけばいいんだから。


「……テスト範囲ってどこからだっけ?」


 やっぱりダメかも……教科じゃなくて、勉強する範囲を教えるところから私たちの勉強会は幕を開けた。


×××


「あれ? もうこんな時間!? かなり集中してやっちゃってたねー!」

「本当だ。そろそろ休憩にしよっか。これだけ勉強しておけばきっと大丈夫だよ」


 風花さんの声に私は顔を上げて、ぐぐっと伸びをする。

 

「これからどうしようか? ゲームでもする?」

「いいけど、私ゲームってあまりやったことなくて……」

「発言がもうお嬢様だよ! 似合うけど!」


 昔からゲームを買うぐらいなら本を買っていた私はとにかくゲーム機というものを触る機会がなかった。転校してくる前から友達も少なかったし。


「って言ってもあたしもそんなにいっぱい持ってるわけじゃないけどね」

「そうなんだ。私はよく分からないからお任せするね」

「んー……よしっ、ちょっと調達するね!」

「調達?」


 電話してくる、と言い残して風花さんはベランダに出た。

 誰に電話するんだろう……というか待ってる間何しようかな……お泊まりように持ってきてる本を読もうかな? それとももう少し勉強をしようかな。


「よし、勉強しちゃおう」


 本はあとのお楽しみ。ここである程度勉強を進めておけばあとで楽が出来るしね。

 風花さんが電話している間、私は英語の教科書を開いて単語をノートに書き始めた。


「お待たせー! あとで持ってきてくれるって!」

「誰に電話してたの?」

「んー……バカ?」


 結局それ誰なんだろう……でも、聞いても誤魔化したり言ってくれなかったりするってことはやっぱり言いたくないってことだよね。


「お菓子でも食べながらおお喋りしようよ!」

「うん、何話そっか?」


 私の言葉にキランッと風花さんの目が光ったような気がした。


「女子が集まってお泊まりするってなったら定番の話題……恋バナだよ!」

「こ、恋バナ!?」

「そそっ、好きな人じゃなくて、この人カッコいいなぁとか、気になってる人でも可! さあさあ! どうなの奏ちゃん! 恋してるの!?」

「え、えっと……その……」


 すぐ逢坂くんの顔が浮かんじゃった……恋をしてるのは間違いないけど……それはもう終わった恋で、私はただそこにしがみついてるだけ。

 それでも、やっぱり考えちゃうんだよね……。


「おっ、その顔……だれだれ!? 誰が奏ちゃんにそんな顔をさせてるの!?」

「い、言わない! 恥ずかしいもん! そういう風花さんは誰か気になってる相手とかいないの!?」

「えー? 教えてよぉ! そしたらあたしも教えるからさぁ!」

「だ、ダメダメ! ぜーったいダメ!」


 言えるわけないよ! 友達に過去あったことを引っ張り続けてるだとか、重い子だって思われちゃう! 信用はしてるけど、何かの拍子で逢坂くんに伝わっちゃったら……そんなの耐えられない!


「あ、ごめんLINE来ちゃった……ふーんそっかあ。ばれちゃったか……」

「え? どうしたの?」

「奏ちゃん。今から三柴の家にゲーム取りに行くけど、一緒に来る?」

「三柴君のお家? それって遠いの?」


 風花さんはふるふると首を振って口を開いた。


「この家の真正面。隠してたけど、あたしたち幼馴染みなんだ」

「そ、そうだったんだ……」


 驚いたけど、それ以上にやっぱりただ同じ中学の同級生ってだけじゃなかったんだって納得しちゃった。

 あ、さっきのバカって三柴君のことだったんだ。


「ちなみに逢坂クンも向こうにいるって」

「私たちと同じように勉強の為に集まったのかな? 待ってるのもなんだし、私も行く」


 私たちは風花さんのお家を出て、向かい側にある三柴君のお家に入る。

 チャイムを鳴らさなかったことを尋ねると、今はご両親は留守にしてるから勝手に入れって言われたらしいと風花さんは言っていた。

 流石幼馴染みだ……入り慣れてるなあ。


「やっほー逢坂クン。ごめんねー、突然押しかけちゃって」

「いや、僕たちも勉強終わって息抜きしようとしてたところだから」

「おいここ俺の部屋。押しかけたことは俺に謝れよ」

 

 またいつもの感じで言い合いが始まった。もうすっかり私にはお馴染みの光景になっちゃった。

 待っている間沈黙するのも変だし、何か逢坂くんに話しかける話題を……! そうだ!


「逢坂くんは今回のテストどうなりそう?」

「赤点はないぐらいじゃないか? そっちは?」

「私も同じ感じかな。やるからには頑張って上位にいきたいとは思う」


 会話が下手な私でも、共通の話題のお陰でちゃんと会話出来てる! ありがとう、テスト!

 思わずガッツポーズをしちゃって、怪訝な顔をする逢坂くんと目が合った。

 眉を顰めてる顔もカッコいい……写真撮りたい。


「せっかくだし4人でゲームでもするか?」

「このあたしに挑もうなんて三柴の癖に大きく出たね。受けて立ってボコボコにさせてもらうわ」

「ほざけ、お前俺に勝ったこと殆どねえだろうが」


 ああ、また始まっちゃった……。えっと、えっと……話題、話題……。


「それにしても2人が幼馴染みだったなんて……驚いたけど、納得しちゃった」

「ごめんね、奏ちゃん。どうしてもこれと幼馴染みだなんてことを知られたら周りの人が面白がると思って黙ってたの」


 逢坂くんに言ったつもりだったんだけど、私の言葉にいち早く反応したのは三柴君と小競り合いをしていた風花さんだった。


「ううん。大丈夫だよ」

「おーいお2人さん。イチャつくなら俺たちのいない所でやってくれ」


 手を取り合う私と風花さんを見て、三柴君が呆れたような声音で言った。

 イチャついてなんかないよ! ……多分。


「はいはい。どうせ奏ちゃんは今日うちにお泊まりだし、言われなくてもこの後イチャイチャしますよ」

「い、イチャイチャなんてしてないってば!」


 もうっ! 風花さん、もうっ!


「だったら逢坂もうちに泊まって今日は語り明かそうぜ!」

「えー……いいけど……」


 心の中で叫んでいる内に、逢坂くんと三柴君の方もお泊まりが決まったみたい。

 夜遅くまで起きておかないといけないことを覚悟した私たちは追加でお菓子や飲み物の買い出しに行くことになった。


×××


「悪かったわね。あたしのせいで幼馴染みだってことがバレたんでしょ?」


 前を歩く奏ちゃんと逢坂クンを眺めながら、三柴に謝罪をする。

 思わず拗ねたように口調になっちゃったけど。

 三柴の話を聞くと、逢坂クンの位置からたまたまベランダに立って電話をしているあたしが見えたらしい。


「ま、気にすんな。遅かれ早かれ気付かれてただろうからな」


 というかもう半分は気付かれていたと思うけど……。逆に言えばバレたのがそれだけでよかったって思うべきだよね。


「でも、あの事だけは本当にバレないようにしないといけないわよ」


 あたしたちの共通の秘密であるもう1つのことは例え奏ちゃん相手でも話すつもりはない。

「分かってるっての。って言っても普通に信じられないと思うけどな……」


 まあね。突然言われて誰がそれを信じるのって感じ。


「にしてもほんっと、なんで三柴なんかと……」

「それこそお互い様だろ。親のくだらない戯言でこうなっちまってるんだから。俺たちは被害者、違うか?」

「……そうね。ま、お互いにこれからもバレないように精々気をつけましょ」


 そう言って、あたしは前を歩く奏ちゃんの背中に抱き着いた。


「何話してるのー? あたしも混ぜて!」


 ――全く、どうしてあたしと三柴が親同士の約束で許嫁にされてるのよ。


 いくら婚姻届を捨てても本物が親の手の中にある以上、どうしようも出来ないし。

 あたしたちが結婚出来る歳になったら提出にいかされるとか勘弁してほしい。


 ――そのせいで、あたしは、いや……あたしたちは自由に相手を選んで普通に恋愛すら出来ないんだから。

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