すれ違って別れたカップルがうっかり同じ高校に進学してしまいました。
戸来 空朝
第1話 元カップルは今日もすれ違う
「2人とも高校に受かって良かったなぁ!」
そう言って大喜びしている父親に対して僕、
「しかもかなりの進学校! お母さんも鼻が高いわ! さすが私たちの娘!」
そう言って大喜びしている母親に対して、僕と同じく愛想笑いをしている
そんな僕たちは今、お隣さんの鳳一家を誘って合同で合格記念パーティの真っ最中だ。本来なら喜ぶべきパーティで何で僕たちが乾いた笑いを漏らす羽目になっているのかという点については、僕と彼女のことを説明すれば一発で理解出来てしまうだろうと思う。
まず、僕と彼女は中学が一緒だった。中学2年生の時に彼女が転校してきたのだ。何故か家まで隣という奇跡染みた偶然によって、僕らの歯車は大きく交わり始めることになる。
転校生を迎え入れる為に、僕のクラスメイトたちがクラス会を開こうなどと言い出して、保護者数名同伴の元でカラオケに行ったりだとかファミレスに行ったりだとかが計画されて実行された。
僕は人付き合いがあまり得意ではなかったが、クラスの輪を乱して変な風に孤立したくはなかったので渋々参加して、大人しくしていたのだが、やはり慣れない環境にいたせいか疲れてしまい、途中で用事が出来た風を装ってその場を離脱した。
すると、何を思ったのか、彼女まで抜け出してきてしまったのだ。
――いいの? 君の為の歓迎会だよ?
――実は……あぁいうの少し苦手で疲れちゃって、引っ越しのお手伝いがあるからって言って逃げて来ちゃったの……。
話を聞くと、彼女は人見知りで目立つことはあまり好きじゃないらしい。家も隣で趣味が読書という点も一致し、僕と彼女はよく話すようになった。
まぁ、つまりあれだ。合コンに何かしら期待を寄せていて張り切っていた人よりも実は数合わせ同士で呼ばれた2人の方が意気投合の確立が高い的なやつ。
話を戻すけど、話すようになっても彼女の人見知りは筋金入りのようで、ついでに言えばとても恥ずかしがりな彼女は良くも悪くも地味という印象が強かった。
大き目な丸メガネに長めの前髪、どう見ても文学少女ですよという風貌の彼女と僕はそれはもう気が合った。
そして、中学2年生の夏休みに入った時期に付き合い始めて晴れてカップルになったのだ。
そこまで聞けば、ただの甘酸っぱい青春の物語に聞こえてしまうが、ちょっと待って欲しい。これはそんな簡単な話じゃないんだから。
「ねぇ、ちょっと外に出て話さない?」
「いいけど。あまり時間をかけると怪しまれるぞ」
「ちょっとだから」
記憶の中でとはすっかりと見違えた彼女が、盛り上がっている家族たちの目を忍んで僕を外へと呼び出した。
全く、人見知りで恥ずかしがりはどこにいったんだか。彼女に続いて外に出ると、気まずさを隠そうともせずに口を開いた。
「……あの事なんだけど、絶対に家族には内緒にしよ? 学校の人たちにも同じ中学ってだけってことで通そうね」
「あぁ、非常に面白いことに僕たちは同じ高校に受かってしまったわけだから……あの事を知られて面白がられるのだけは避けたいしな」
記憶とは違ってメガネを外して長めの前髪も切ってしまっている彼女は僕にとって奇妙な事に、同じ秘密を共有する羽目になっている相手だ。
あぁ、さっきの話に戻ろう。これが晴れて付き合いだしたカップルのなれの果て。
ここまで言えば分かると思うけど、僕にとって彼女は……。
――元カノなんだ。
いやいや、元カノって言っても、別にケンカして別れたわけじゃない。
でも、なんの冗談なのか……お互いに同じ高校に入学を果たしてしまったという奇妙な展開になってしまった。
別れて気まずくてしばらく話さなかったこともあったけど、まさかお互いに志望校が被るなんて……。
言ってしまえば、僕たちが付き合っていたことなんて親も含めて誰も知らない。知られるのは恥ずかしいし、なんとなく噂をされるのが嫌で周りにも言わずに付き合っていた。それだけのこと。
現状で1番の問題を上げるなら……。
――僕が彼女のことをまだ好きだってことだろう。
未練を絶つ為に入るのが難しい進学校に進学したって言うのにまさかの進学先被りってそんなことあるか!? わざわざうちの中学の奴らが選びそうにない進学先を選んだのに普通被るか!?
学校が被ったのはこの際いいとして、問題は絶対に僕の気持ちが鳳に伝わってはいけないということだ! 別れた彼氏が今も未練たらたらで関わろうとするとか絶対に迷惑がかかる! それだけは絶対に避けないといけない!
そりゃ愛想笑いもするだろ! 入学式に向かおうとして玄関を開けて外に出たら未だに好きな元カノが自分と同じ学校の制服着てたんだから!
鳳もきっと別れた元カレと顔を合わせてしまって気まずくて愛想笑いしてたんだろうなぁ……。
×××
「2人とも高校に受かって良かったなぁ!」
「しかもかなりの進学校! お母さんも鼻が高いわ! さすが私たちの娘!」
お母さんたちが私たちのこと褒めてくれている中、私こと鳳奏と同じく愛想笑いを漏らしている逢坂大空くんの心境はきっと他人に言っても分かってもらえないだろう。
「ねぇ、ちょっと外に出て話さない?」
「いいけど。あまり時間をかけると怪しまれるぞ」
「ちょっとだから」
そう言って、私は彼を外に連れ出して要件を伝えると、彼も全くの同じ意見のようだった。
記憶の中よりも少しだけ大人びた表情と伸びた身長はどうしても話していなかった時間の流れを感じさせる。
唐突だけど、彼は私の元カレで別れてしまった今となってはどうしても気まずい。
ケンカ別れをしたわけでもないんだけど……まさか学校が同じになっちゃうなんて思いもしなかった。
いや、この際それはもういいよね。それよりも1番の問題は……。
――私が彼のことをまだ好きだってことよね。
なんでなの!? 未練を断ち切る為に進学が難しそうな高校を選んだっていうのになんで被っちゃうの!?
と、とにかく! 別れた彼女がまだ未練たらたらだってことを知られたらきっと迷惑をかけることになっちゃうし全力で気持ちを抑えて隠さないと!
そりゃ愛想笑いもしちゃうでしょ! 入学式に向かおうとして玄関を開けたら同じ学校の制服を着た元カレが立ってるんだもん!
逢坂くんもきっと別れた元カノと顔を合わせてしまって気まずくて愛想笑いしちゃったんだろうなぁ……。
『――とにかく! この気持ちを知られるのだけは避けないと! 別れたのにまだ好きだとか……絶対に重いって思われるに決まってる!』
――こうして、同じことを考えている元カップルは今日も絶妙にすれ違う。
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