第22話 元カノとGW最終日(奏目線)

「はい、これ。お土産」

「ありがとー! どうだった?」


 GW最終日、私は一昨日行った観光で買ったお土産を渡しに、風花さんのお家に遊びに来ていた。

 

 どうだった……かぁ……実は名前呼ばれたりだとか、手を繋いだりだとかが衝撃的すぎて観光のこと自体の記憶って曖昧だったりするんだよね……。

 それにあの写真ときて、完全にうろ覚えになっちゃった。


 ……流石にそのことを言うわけにはいかないよね。


「楽しかったよ。えっと、潮風の香りがしてね?」

「うんうん! それでそれで?」


 辛うじて覚えている記憶をどうにかそれっぽく伝える。

 それにしても、逢坂くんの手ってやっぱり男の子ってだけあって大きいんだよね。

 私の手なんかすっぽり包んじゃうくらいだもん。


「えへへ……」

「どしたの? 何か嬉しいことでもあった?」

「えっ!? いや何もないよ!?」


 危なかった。うっかりトリップしてしまっていたみたい。

 それでも、あの手の安心感だったり、名前を呼ばれた時の温かさを思い出すだけで頬が緩んじゃう。

 あー……! すっごく自慢してしまいたい……! 

 ってどれだけ浮かれてるんだろ、もう一昨日のことだっていうのに。


「やっぱり何かあったでしょー? 何々~? 何があったの~?」

「何もないってば! 風花さんは何してたの?」

「あたし? 別の友達と遊びに行ったりだとかかな?」


 なるほど、風花さんは友達が多いタイプだもんね。 

 私は風花さんと雨城さんぐらいしか一緒に行動する友達がいないし、予定が友達関連で埋まることは殆どないけど、風花さんはきっと多方面から引っ張りだこだったんだろうなぁ。


「そう言えば、今日柚葉ちゃんは?」

「えーっと……声はかけたんだけど……溜まった本を少しでも消化したいからって断られちゃった」


 読書家として、その気持ちはよーく分かってしまうから、それを言われたら何も言えない。お土産は一応日持ちする物を選んだけど……あとで渡しに行ってあげようかな。


「そうなんだー。この一昨日ぐらいに三柴と一緒に逢坂クンの家に遊びに行ったらしいよ?」

「知ってる、本人がLINEで言ってきたから。何でも逢坂くんの親友の座を勝ち取ったとか……」


 三柴君と雨城さんに挟まれてため息を吐いてる逢坂くんの顔が目に浮かぶ。

 ……というか雨城さんは本当にそのポジションでいいのかな?


 なんて、人に気を遣ってる場合じゃないよね……。

 私も名前ぐらい気軽に呼べるように……いや、そうじゃないってば。

 諦めるどころか、気持ちがどんどん大きくなってるけど、それじゃダメなんだ。


 別れた元カノが……これ以上元カレの恋路に出しゃばって行くような真似は出来ない。

 きっと、逢坂くんに新しい彼女が出来れば……私もそれでようやく諦めることが出来る気がする。


 ――だとしたら、私は……私がやるべきことは……。


 ……ダメ。自分の気持ちを終わらせる為に、友達の恋を利用するなんて……そんなの絶対やっちゃダメなことだよ。


「奏ちゃん? どうしたの? 急に黙ったりして」

「あ、ごめん。明日から学校だなぁ、って思ったら……ね」

「分かるー! 早起きしんどいよぉ!」

「私もお昼まで寝ちゃってることが多かったから、明日から起きられるか心配だなぁ」


 でも、友達の恋を応援したいって気持ちも私の中にあるのは……確かだから。

 もし、雨城さんの好意を逢坂くんが受けたなら、私は諦めることにしよう。

 

 ――じゃあ……受けなかったら? 


 その答えは……まだ出せそうにないね。


×××


「感激ですっ! まさか奏さんがわざわざお土産を渡しに来てくれるなんて……! 今日を記念日としてカレンダーに記入しておきますっ!」

「このぐらいのことで記念日にしてたら雨城さんのカレンダーは変な記念日だらけになっちゃうでしょ」


 風花さんにお土産を渡し終わったあと、雨城さんのお家に寄らせてもらった。

 どちらかと言えば、お土産を口実に彼女の気持ちをちゃんと確認しようとしてるんだけど……。


「そうですね……一昨日なんて大空くんの親友になったDAYですから!」

「そ、そうなんだ……」


 この様子だと、一生気が付かなそう……。

 ……どうしよう。


「えーっと……雨城さんは、その……」

「なんですか? あ、いくら奏さんでも大空くんの親友ポジションは譲りませんからねっ? 柚葉、だけに! ドヤァ!」

「ち、違うから! ……あと今のだじゃれは聞かなかったことにしてあげるね」


 うーん……切り出し辛い……! 

 

「……雨城さんは、その……逢坂くんの……彼女になりたいだとかは考えたりしないの?」


 言ってしまった。

 でも、当の雨城さんは、目をぱちくりとさせている。

 まるで何を言われたのか理解が出来ないって顔。


「……えぇ!? わたしが大空くんの彼女!? お、恐れ多いです! お友達すらまともに作れないわたしが誰かの彼女だなんてそんな大それたことを……!」


 理解が出来ないって言うか……理解が追いつかなかっただけみたい?


「そういう気持ちは……あるの?」

「あはは……ありませんよ。大空くんはわたしの初めてのお友達で、大切な親友ですっ! ……でも大空くんが傍にいないと落ち着かなかったりするのに……傍にいるのはいるので落ち着かない気持ちになる時がありますね」


 思ったより重症っぽい……!

 その段階に行ってるのに、それが恋だって気付かないのはどうしてなの!?

 多分、初めて人を好きになって、その気持ちを心は分かってるのに、頭では理解出来ていないだけなんだろうけど……。


 まあ、でも……それを聞ければ十分。

 雨城さんの恋が成就すれば、私は諦める。

 まずは……雨城さんに逢坂くんへの気持ちについて自覚させるとこからかな?

 

 私自身も考える時間が欲しいし……今日のところは何も出来そうにない。

 結局その後、他愛もない談笑をしてから、私は家に帰った。


 ――この時の私は……この応援するという行為さえも、矛盾だらけで自分の気持ちを諦める為の都合の良い利用だという事に、気が付いていなかった。 

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