第23話 元カップルと遅刻した朝

「……ん? 朝、か」


 カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさを感じて、目を開ける。

 GWも終わって今日から学校だ。

 どうにも気怠い……これが5月病ってやつか。


「習慣で夜遅くまで本を読んでいたにしては、なんか目覚めがいいな……多分5時間ぐらいしか寝てないと思うんだけど……ん?」


 何気なくスマホを起動すると、画面に時刻が表示されて、まじまじと見つめてしまった。


 ――10時45分……!?


 今日、学校だったよな……? そうなると、6時頃に起きて……諸々の準備を済ませて8時までには学校に着いておかないといけないわけだけど……。


「……通りで目覚めがいいわけだ。9時間もぐっすりと寝たんなら」


 もう遅刻は確定か。

 特に狙ってはないけど、これで皆勤賞の可能性は潰えたな。

 

「さて、まあ行かないとまずいにしても……今から行ったとして、昼までに間に合うかどうかってとこだな」


 普通、人っていうのは遅刻したら2種類の反応に分かれると個人的には思う。

 時間を目にした瞬間焦って飛び出すタイプと開き直ってゆっくり準備していくタイプだ。

 僕は後者のタイプ。


 せっかくだから昼を食べて5時間目には着くようにしよう。

 もしかしたら反省文的な物も書かないといけなくなるかもだけど、それはそれだ。

 

「困るのは授業のノートだけど……まあ、鳳に写させてもらえばいいか」


 ……あれ? そう言えば、遅刻したのに誰からもLINEがきてないな。

 遂に孤立したのか?


「あ、思い出した。最近通知がうるさくて寝る前には切ってるんだった」


 早速LINEを開いてみる。

 通知5件。


〈連休明けから大遅刻とはやるなー大将〉――9:31

〈まさか、熱とかか?〉――10:32


 三柴の奴……わざわざ休み時間の時に連絡してきてるのか……。

 意外とマメだな。

 

〈今起きた。急いだところであれだし、優雅に飯食って行く〉――10:50


 三柴にはこれでいいな。

 次は……。


〈さっき教室を除いたら大空くんの姿が見えなかったのですが……〉――9:00

〈まさかサボタージュですか!? わたしを1人にしないで!〉――9:02


 雨城は授業中に2回送ってきてやがる……。

 真面目に授業受けてどうぞ。


〈普通に寝坊した。今から行く〉――10:52


 これでよし。

 最後は……風花さん?


〈逢坂クーン、なんか奏ちゃんも来てないし、LINE送っても反応がないんだけど……何か知らない? 報告求む!〉――9:35


 ……鳳が登校してない? まさか事故じゃないだろうな……?


〈今起きたところだから知らない。ちょっと鳳の家に確認して行く〉――10:53


 確か、風花さんには僕と鳳の家が隣同士のことを話したって言ってたし、これでいいだろ。 


「……ん? 今ベランダの方から音がしたな。……まさか、鳳も?」


 がらり、と窓を開けて、ベランダに出ると隣のベランダにはパジャマ姿で眠そうにしている鳳がいた。

 ちょっと後頭部に寝癖付いてて最高に可愛いじゃないか。

 ……寝ぼけたこと言ってんなよ、僕。


「おーい。鳳ー?」

「……逢坂くん? おはよぉ」


 ちょっと舌っ足らずとか可愛いかよ。

 ……寝ぼけるなって言ってるんだ。


「随分とのんびりしてるな」

「だって休日だよ? 今日もいい天気だねぇ」


 ……ダメだなあれ。完全に寝起きで頭が起きてない。

 そもそも、鳳が寝癖付いたままベランダに出てる時点で完全にアウトだ。

 身だしなみをきっちり整える鳳があんな無防備な姿で僕の前に出てくるわけがない。


「ところで、今日は何日だ?」

「え? えっと……5月の8日? ……あれ? あれ!?」


 お、気が付いたか。


「……大遅刻!? ど、どうしよう!?」

「まあ落ち着け。今更慌ててもどうしようもないだろ」

「逢坂くんは落ち着きすぎ! 急いで準備しなきゃ!」


 さっきのタイプの話をすると、鳳は完全に前者だ。

 あのままだと何も食べずに学校に行って、授業中に腹を鳴らす未来が見える。

 ……あと、あの寝癖付いた油断した姿を他の男に見せるのは、嫉妬とか独占欲だって分かってても癪だな。


「だから落ち着け。まずは深呼吸するんだ」

「う、うん! すぅーっ、はぁーっ!」

「よし、次は後頭部の寝癖をしっかり直して、そのあとしっかり飯を食う。OK?」

「うん……大丈夫」


 人はパニックになるととにかく思考が回らなくなる。

 まあ遅刻は遅刻だけど、どう足掻いても遅刻なら1週回って落ち着くことが大事だ。

 これが遅刻寸前で急げば間に合うとかならまた話は別だけど。


「……せっかくだし、学校まで一緒に行くか?」

「えっ!? 一緒に!?」

「……まあ、どうせ行く先は一緒だしな。ダメならいいけど」

「う、ううん! ダメじゃないよ! 全然! すぐ準備する!」

「すぐ準備されても僕だってまだ飯すら食ってないんだよ。ゆっくりでいいよ」


 ドタバタと家の中に駆け込んでいく鳳を見送って、家の中に入る。

 さーて、流れのまま登校に誘ったけど、これいいのか?

 ぶっちゃけ……絶対断られると思ってたんだけどな。


 ……何やってるんだよ、僕は。

 鳳のことだって、ちゃんと諦めるべきだって何度も思ってる癖に全く懲りないな。


「……もういっそのこと、諦めることを諦める方が……合理的だったりしてな」


 ま、僕が諦めなかったところで、鳳が僕のことを……なんて都合のいい話が待ってるはずがない。

 頭を振って、バカな考えを振り払い、僕は諸々の準備に入ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る