第24話 元カップルと遅刻した朝(奏目線)

「んん……もう朝ぁ?」


 耳が鳥のさえずりを捉えて、私は目が覚めたことを自覚した。

 今日もいい天気だし……とってもいい休日になりそう。


「ふぁあ~……んん~!」


 大きなあくびをして、背をグッと伸ばすと背骨からポキポキと音がして、ちょっと気持ちがいい。

 昨日はずっと寝転びながら本を読んじゃってたから、体が凝ってるみたい……。

 10時50分か……逢坂くんはまだ寝ちゃってるのかな? 

 

 そう思った私は、ぼうっとした頭のまま自然とベランダへ出る。

 

「ふわぁ……」

 

 そこでもう1度大きなあくびをすると、隣の家のベランダががらりと開く音がした。


「おーい。鳳ー?」

「逢坂くん? おはよぉ」


 あくびをこらえながら言ったせいで、ちょっと間延びした感じになっちゃった。

 朝からこうして逢坂くんと会えるなんて……今日はいい休日になりそう……。


 でも……なんであんな呆れた表情してるんだろう?


「随分とのんびりしてるな」

「だって休日だよ? 今日もいい天気だねぇ」


 外に出て風に当たることで、ちょっとだけ目が覚めた。

 ……あれ? 目が覚めたのはいいけど、何か大事なこと忘れてるような感じがあるような?


 呆れたままの表情の逢坂くんがまた、口を開いた。


「ところで、今日は何日だ?」

「え? えっと……5月の8日? ……あれ? あれ!?」


 GWって……7日まで……だよね!? もしかして……私……!?


「……大遅刻!? ど、どうしよう!?」


 自分がとんでもない勘違いをしているって自覚した瞬間、一気に汗がぶわっと出てきた。

 急いで行けばまだお昼前には学校に着けるかも!


「まあ落ち着け。今更慌ててもどうしようもないだろ」

「逢坂くんは落ち着きすぎ! 急いで準備しなきゃ!」


 えっと……まずは、顔洗って……! 着替えて! それから、それから……私っていつも学校行く前どんな準備してたっけ!?


「だから落ち着け。まずは深呼吸するんだ」


 逢坂くんの発した言葉に、私はちょっとだけ落ち着いた。


「う、うん! すぅーっ、はぁーっ!」

「よし、次は後頭部の寝癖をしっかり直して、そのあとしっかり飯を食う。OK?」

「うん……大丈夫」


 いけない、私は焦るとどうも頭が回らなくなっちゃうから……逢坂くんがいてくれてよかった。

 完全に落ち着いたところで、逢坂くんを見ると、何かを言い辛そうにしてる。

 口の中であめ玉を転がすように、言葉を口の中で転がしている、みたいな感じ。


「……せっかくだし、学校まで一緒に行くか?」

「えっ!? 一緒に!?」


 もしかして、これは夢!? こんな大遅刻だし、夢であって欲しいけど……! でも夢だったら誘われたっていうことも夢になっちゃうよね? ……それは嫌!


「……まあ、どうせ行き先は一緒だしな。ダメならいいけど」


 いけない! このままだとせっかくのお誘いが無しになっちゃう!


「う、ううん! ダメじゃないよ! 全然! すぐ準備する!」

「すぐ準備されても僕だってまだ飯すら食ってないんだよ。ゆっくりでいいよ」


 あーもうっ! 遅刻したことはあれだけど! 寝坊して良かったって思っちゃうのはダメなんだけど……それでも嬉しい!


 ……って、この間諦めることも本気で考えたのに……こんなんでいいのかな?

 今はそんなことよりも準備することだよね! 


――あれ? もしかして、私逢坂くんにものすごいだらしない姿を見せちゃったんじゃ……!

 う、嘘っ! 寝癖付いてるのも見られたってことだよね!?

 ……わ、私のバカァッ!!!


×××


「……はぁっ、はぁっ……お待たせ……」


 色々と自暴自棄になってしまって、結局焦るように準備を終えた私は逢坂くんと家の前で合流した。


「……ゆっくりでいいって言ったのに、どうして汗までかいて出てくるんだ君は……」


 寝癖を直そうとシャワーを浴び、手早くドライヤーで乾かして、部屋までダッシュで戻って着替えたからかな!


「……その様子だと、禄に飯食ってないだろ?」

「禄にというか……全く……」


 だって食べる時間なんてなかったんだもん! 食べてたらこんな早く出てこれないよ!


「そんなことだろうと思ったから、ほら」


 逢坂くんが袋に入った何かを渡してきた。

 中身を確認すると、ラップに包まれた小さめなおにぎりが2つと小さめなサンドイッチが1つ入っていた。


「もしかして作ってくれたの?」

「ま、1人分も2人分も大して変わらないからな」

「あ……ありがと……」


 か、カッコいい……出来る男って感じが……!

 危うく惚れちゃうところだったわ……! 手遅れじゃない。


「思ったより早く行けそうだし、学校の近くの公園のベンチにでも座って食べればいいな。鳳はそういうの人目気にして歩きながら食べられないだろ?」

「う、うん……ありがと」


 か、カッコいい……気遣いの出来る逢坂くん……!

 もうっ! これじゃ諦めないといけないのに諦めようがないじゃない!

 勘違いさせるようなことして……うーっ! ずるいっ!


「……鳳? どうした?」

「えっ!? なんでもないよ!? うん、逢坂くんにはとにかく無関係の事だから気にしないで!」

「なんでもなくないじゃないか……まあいいけど」


 ため息を吐き、私を先導する様に逢坂くんが歩き出して、私は小走りで隣に追いついた。

 少し間を開けて、微妙な距離を保ちながら、私たちは学校に向かい始めるのでした。


 ……その際、逢坂くんがさり気なく車道側に移動したのを見て、私はまた密かに悶えることになったのは、秘密。

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