第21話 元カレと2人の自称親友

「ほら、お土産だ」

「わぁ……ありがとうございます! それで、プチ旅行はどうでした?」


 ドライブから帰ってきて、時間は経って翌日。

 お土産を渡す為に雨城を家に迎え入れた僕は、聞かれたことに答えようとしたけど……思い出されるのは名前で呼んだことや呼ばれたこと、手を握ったことや握り返されたことだった。


 ……流石に、これを話すわけにはいかないからな。


「写真ならあるぞ。ほら」

「スチルですか! 拝見します!」

「写真をスチルって言うのはやめろ。現実はギャルゲーじゃないんだぞ」


 そもそも雨城はそういうゲームやったことがあるのか? ラノベも読んだりしてるし、アニメも円盤を買ってるタイプだし……ありそうだな。


「わぁ……奏さんがいい笑顔です……! お美しい……! 大空くんは相変わらずですね」

「ほっとけ。写真に撮るからって僕が笑顔なんて浮かべると思うか?」

「本読んでたり、本棚に囲まれてる時は結構笑ってるんですけどねえー」

「それに関しては僕にやってる自覚がないからな」


 鳳も前に言っていたような気がする。

 僕は本を読んでる時は割と表情が緩んでいるって。


「あ、それはそれとして……アニメ見てもいいですか?」

「ん、また持って来てるのか」


 僕の自室にはテレビやブルーレイレコーダーが置いてある。

 殆どテレビなんて見ないから、リモコンには若干埃が付いてるけど。

 一応申し訳程度に置かれてるって言葉がこれほど当てはまるのも珍しいと思う。


「では、大空くん……失礼します」


 雨城はそう言って、ソファに座る僕の膝に仰向けで頭を乗せて足を外に投げ出した。

 これが雨城にとってのリラックスポーズらしい。


「僕が返事をする前から頭を乗せるなよ」

「大空くんなら良いって言ってくれたと信じてますよー。ああ、やっぱりジャストフィットですねー」

「……はぁ、そりゃどうも。ってか言い忘れてた。今日もう1人呼んでるんだけど」

「奏さんですか!?」

「違う。というか近い」


 膝枕状態で急に起き上がったもんだから、雨城の顔が僕の近くにきた。

 鳳と仲良くなったのは分かるけど、男の顔の近くで鼻息を荒げるのは一乙女としてどうなんだ?


「なぁんだ、違うんですか」


 雨城が再び僕の膝にぽすりと頭を預けると、ちょうど部屋の扉が音を立てて開いた。


「うぃっす、逢坂。お土産貰いにきた……ぞ……」

「ああ。そこにあるから勝手に取ってくれ」

「あ、ああ……じゃねえよ! そんなんスルー出来るか!」

「何がだよ」


 部屋に入ってきた三柴は僕の姿を視界に入れると、慌てふためき始めた。

 一体何を騒いでるんだ……。


「友達が巨乳の子に膝枕してる状況を黙ってスルー出来るか!」

「それで別に何かあるわけじゃないし、別にいいだろ」

「え? お前ら付き合ってたりするのか?」

「いえ……わたしと大空くんは付き合ってませんよ。わたしは雨城柚葉、大空くんの親友をやらせてもらってます」

「いつから親友になったんだ」


 堂々と嘘をぶっこいて、どや顔で胸を張るな。

 

「ほーう……? 真の親友であるこの三柴夕陽を差し置いて親友を名乗るなんて……良い度胸してるじゃねえか」

「嘘に嘘で張り合うな。あと自然な流れで自己紹介済ませたな」


 僕に親友なんていない。

 なんか、雨城と三柴の間にばちり、と火花が散ったような気がする。


「ふっふっふっ……! それならば、大空くんの親友の座をかけて、勝負です!」

「臨むところだぜ!」

「僕を巡って勝手に争うのやめてくれない?」


 こうして、本人も許可していない僕の親友の座をかけた、三柴夕陽と雨城柚葉の戦いが幕を開けてしまった。


 ……僕は僕の話を聞いてくれる人を親友にしたい。


×××


「勝負内容はどうしますか?」

「だったら、シンプルにゲームで勝負といこうじゃねえか」

「君いっつもゲーム持ち歩いてるのか?」


 今度から歩くゲームセンターってこっそり呼んでやろうかな。


「このわたしにゲームで挑もうなんて……見誤られたものですね」

「このゲームやったことあるのか?」


 自信ありげに笑う雨城。

 結構オタクだし、やり込んでたりするのか?

 

「いえ、1度もありません!」

「よくそれでそんな自信ありげに笑えたもんだな。大したもんだよ」

「やったことはありませんが、動画では幾度となく目にしたことがあります!」

「……さては君、料理番組や親が料理してるの見てるだけなのに自分が料理出来ると思ってるタイプだな?」


 そういう奴は実質エリートメシマズ系女子になるんだぞ。


「ふん、どうやらこの勝負は俺の勝ちのようだな!」

「そういう三柴はこのゲームどれだけやったことがあるんだ?」

「俺もないけど」

「ないのかよ」


 それでよく自信満々に勝ちとか言えたな。


「本当はお前とやろうと思って買ってきたんだよ! 俺だって動画は見たことある!」

「……さいで。暇だから僕も参加させてもらうぞ」

「おー、いいですね! 是非一緒にやりましょう!」

「手加減はしないからな?」


 ま、見てるだけっていうのは退屈だからな。

 この2人の勝敗なんてそれこそ死ぬほどどうでもいいけど、全員やったことないなら良い勝負になると思う。


 ――数分後、コントローラーを置いて打ちひしがれている雨城と三柴の姿が。


「僕が何に驚いてるか分かるか?」

「なんだよ……自分の才能か?」

「それとも自分が勝ってしまったことですか?」

「君らが弱すぎて驚いてるんだよ」


 動画を見たことがない僕に負けてどうするんだよ。


「どうしてそんなに上手いんですか!? あ、さては事前にやり込んでましたね!?」

「ゲームどころか本体すら無いのにどうやってやり込めって言うんだよ」

「それはほら……店頭に置いてある体験コーナーでひたすらと!」

「そんなお金が無くてゲーム買えない子供みたいなことするか」


 高校生の男がそんなことやってたらおしまいだろ。

 そんなことに時間を使うぐらいなら本読んでるに決まってる。


「というか三柴もあまり上手くないのはどうしてだよ」

「俺はひたすらやり込んで上手くなるタイプなんだよ! くそっ、まさか最後の最後に逆転されるなんて……」

「いい感じに言ってるけど、ビリになるかそうじゃないかの争いだったからな?」


 僕が悠々と1位を取っている間に、この2人は後ろの方で醜すぎる争いをしてたからな?

 

「ふふんっ! 勝ちは勝ちです! これで大空くんの親友はわたしということになりますね!」

「負けてるんだっての」


 ……こうして、暫定的にだけど、僕の親友はひとまず雨城ということになった。

 面倒だしもう好きにしてくれ。

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