第7話 元カップルの片割れは見た(奏目線)

「はー楽しかった! 付き合わせちゃってごめんね」

「私も楽しかったし、別に大丈夫だよ」


 学校に入学してから初めての休日。

 私は風花さんに誘われて一緒にショッピングをしてきたところ。今は一息吐く為にカフェで休憩中です。


「この後どうしようか? まだ時間大丈夫?」

「うん。まだまだ遊べるよ」

「良かった! それなら……ん? あれ、逢坂クンじゃない?」

「え?」


 本当だ、一体何してるんだろう?

 風花さんが指した方向には書店があって、その前に私服姿で立っている逢坂くんがいた。


「どうする? 声かけに行く?」

「そ、そうだね! せっかく会ったんだし……ん? あれ?」


 書店から誰か出てきて、逢坂くんに話しかけた? え!? 一緒に歩き始めたんだけど!? なんで!? どうして!?


「おー逢坂クンも隅に置けないねえ! どういう知り合いなのかなー? ……奏ちゃん?」

「どうしてなんでだれなのそれわたしというものがありながらなにしてるのねえ」

「あ、あのー奏ちゃん?」

「……はっ!? ご、ごめん。私今何か言ってた?」

「いや、なんか凄い顔して小声でぶつぶつ呟いてたのは分かったけど……声が小さくて聞こえなかったよ。それがまた怖かったんだけど……」


 と、とにかく! あの2人がどういう知り合いなのかはすっごく気になる! もしかして新しい彼女だったりとか……そうだったら……私は……。

 い、いや! 私はもう別れてるんだから! 逢坂くんが幸せなら!


「そんなに気になるなら尾行する?」

「だ、ダメだよ! 逢坂くんに迷惑になっちゃうし、なんだかそういうのって悪い事してるみたいだし……それにもう落ち着いたから」

「でも、奏ちゃん……さっきから紅茶に何個砂糖入れてるの? 動揺しまくってるよね?」


 言われて手元を見ると、シュガーポットの中の砂糖が半分消え、代わりに私が頼んだ紅茶のカップの中に角砂糖の島が出来上がっていた。


「ほら、追うよ! 早く行かないと見失っちゃう! 私も気になるし!」

「う、うん! でも待って! 流石にこれ飲んでからに……う゛っ……あまっ……」

「そんなの飲んだら身体壊すよ!? それにそれカロリーの暴力っていうか……乙女的にはちょっとどうなんだろーみたいな……」

「そ、それでも! 粗末には出来ないし! ……あまっ……」


 なんとか気合で飲み下し、急いで会計を終えて逢坂くんと謎の女性が歩いていった方向に向かって走る。

 カロリーの暴力については……今からと明日死ぬ気で走ろう! うん! 

 水を飲んだばかりでお腹が苦しいのをこらえながら、密かにダイエットを決意した私と私の胸中など知る由もない風花さんは逢坂くんの姿を探し始めた。


×××


 数分後、私たちがいたのとは別のカフェに座って話している逢坂くんと女性を発見。早速店内に入って2人が見える位置に座る。実質カフェの梯子みたいになってしまった。

 それにしてもなんだかすごく楽しそうにお話してますねぇ、これは……。


「なんだかいい雰囲気だね。逢坂くんってあぁいう顔もするんだ」

「そ、そうだね……あはは」


 あれは……! あれは好きなことを話してる時の逢坂くんだ! 私には分かる! 私と本の事を話している時あんなんだったし! 


 正直、風花さんが言ってる事は殆ど耳に入ってこない。


「あ! 笑った! 微笑んだよ! 奏ちゃん!」

「言わなくても見えてるよ……」


 それにしても、デートをするにしても……逢坂くんがカフェを選ぶなんて意外だ。あ、ここのカフェってレジでまず注文して受け取ってからでも席に座れるんだ……良い所を見つけた。


 いやいや……そんなことより。今はあの女性の事。

 少々ボリュームのある癖毛のミディアムヘアで私たちと同年代っぽい? そして、何よりも目を引いたのが……。


「あの子……おっぱい大きくない? 服の上からであの膨らみ方って……」

「うん……あれはすごいね……」


 そう! 何よりも胸が大きい! 

 

 私はあそこまで大きくないけど、まあ……無くはない方だよね! でも、風花さんが胸に手を当てて切なそうな顔をしてるのがもう、なんて声をかけたらいいのか分からなかった。


「逢坂クンも、あれにやられちゃったのかな?」

「私たちが見てる分には何も言えないね。推測で決めつけて言うのはダメだよ」

「でもなぁ、逢坂クンってむっつりスケベ疑惑あるしー?」

「うっ……それは……」


 全くもって否定出来ない……! いや、好きな人にそういう目で見られないっていうのもそれはそれで複雑だけど! ……逢坂くんもやっぱりあれぐらいあった方がいいのかなぁ? これでも中学の頃に比べれば育った方なんだけどなぁ……。


「あ、スマホ取り出した! あれ絶対連絡先交換しようとしてるよ! 知り合いじゃなかったんだ」


 うっ!


「あ、密着した! 女の子が逢坂くんの傍に!」


 ぐっ!


「くっ……スマホを振る度胸も揺れて……!」

「えっ!? そんな親の仇を見るような顔しなくても!?」

「――あぁ!? 女の子が連絡先を交換出来てとっても嬉しそうだよ!」

「う、うん。全部見えてるから……」


 風花さんが状況を逐一口に出してくれたおかげで、私の胸がとっても痛んだ。わざとやってるんじゃないかって疑いたくなるぐらい的確な攻撃だった。


「あ! 2人とも会計して出るみたい! どうする?」

「……もうここまででいいんじゃないかな?」


 これ以上は……もう、泣いてしまいそうだから。見てられない……。


「そっか。よっし! それじゃ気を取り直してカラオケに行こっ!」

「……うん! よーし、歌うぞー!」

「どっちがいい点数取れるか勝負だね!」


 尾行はやめて、私たちはカラオケに行ってとにかく歌いまくったのだった。

 ……あの子、一体誰だったんだろう……?


×××


「――あ」

「え、えっと……こんばんは」

「そっちも出かけてたのか?」

「うん。風花さんとね……」


 ちょうど家の前で逢坂くんと鉢合わせしてしまった。恨むらくは、家が隣の環境。

 うぅ、さっきの今だから顔合わせ辛いよ……でも、迷うぐらいなら……聞いた方がいいよね?


「実は、さっき書店の前で立っているところ見たんだけど……」

「え? あー見てたのか」

「うん、女の子と話してるとこまではね」


 私は少し嘘を吐いた。まあ、流石にずっと見てたなんて言える訳がないから。


「あの子誰だったの?」

「僕もあの店で初めて会ったんだよ」

「へえ、そうなんだ……」

「僕が買おうとした本がラスト一冊で彼女もそれが欲しかったみたいでさ。譲ってあげたらなんかお礼をしたいから店の前で待っててくれって言われたんだよ」


 ふむ、それならあの状況と合致してるし……逢坂くんがこんなとこで嘘を吐くわけないし……。


「お礼って?」

「うーんなんかお茶を奢りたいって言われて着いて行ったらカフェで、そこまではいいって言ったんだけど、そうしないと気が済まないって言うから有難く奢られてきた」

「それでこの時間までカフェにいたの?」


 そこまでは見たから、重要なのは2人が移動した後の話。今は夕方だし、あの後こんな時間になるまで一体どこで何をしてたのか……。


「いや、カフェから移動してからその人の家にお邪魔してた」

「――は?」


 口から気が抜ける音が聞こえた気がした。あぁ、これ私が言ってるのか……って!? 今なんて言った!?

 

「今、なんて?」

「え? だから、その人の家にお邪魔してたって……」

「えぇええええええ!?」


 思わず聞き返してしまったけど、結局返ってきたのはさっきと同じ言葉で、脳が言われた言葉を理解した瞬間、私の口から大音量の叫びが空に向かって放出されて辺りに響き渡ったのでした。


 ――何々!? 一体、どういうことなの!? 何があったの!?

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