第4話 元カップルの高校生活(奏目線)
私には中学2年生の夏休みから半年間の間だけ彼氏というものが存在した。
決してケンカ別れじゃあなかったけれど、別れたあとはやっぱりそれなりに気まずかったと思う。
家が隣なおかげ……いや、隣なせいでうっかり顔を合わせてしまった時なんてそれはもう空気が凍ってしまった。
ついでに言ってしまえば、私の両親が彼の両親と仲が良く、私たちが付き合っていたことなんて伝えてなかったせいで、家族ぐるみの食事という別れたカップルが経験するには少々荷が重すぎる事態が高頻度で発生してしまっていたけれど。
そんなこともありながらも、別れてしまったあとも私は彼のことが好きなままだった。
このままじゃダメだよね、と勉強に集中した結果私の中学からは誰も行かないであろう進学校に進学を決めることが出来た。
やった……これで、逢坂くんのことを忘れられる! 家が隣だし家族ぐるみの食事もあるだろうけど、それでも高校が違うんだから顔を合わせる頻度は今までより抑えられるはず!
せっかく高校に受かったんだから、この際だしイメチェンでもしてみようかな? 高校生になるんだし……コンタクトして、髪をちゃんと整えて……! 逢坂くんと別れてからこれでも人見知りは多少改善出来たんだから!
私は所謂、高校デビューというやつを未練を絶って心境を変える為に目指し始めた……のは良かったんだけど。
――どうして同じ高校に受かっちゃってるの!? ねぇ、一体どういうこと!?
×××
入学式から1日経って、今日は半日授業で終わる。あ、欲しかった本が今日発売だ。帰る時に買って帰ろっと。
スマホで新刊の情報を集めて、盗み見るように前を見ると、本を読んでいるせいなのかちょっと猫背気味になった私の元カレこと
……読書に夢中な姿、カッコいいなぁ……はっ!? ダメダメ! 未練退散!
なんて思っていると、私の周りに人が集まってきた。
「ねえねえ鳳さんってどこの中学だったの?」
「え、っと……」
うぅ、ダメだ……! やっぱり人と話すのは緊張する!
「趣味とかってあるかな?」
え!? まだ前の人の質問に答えられてないのに次の質問が!?
「ど、読書が」
「入試からトップ10入りの成績ってすごいね! 頭いいんだね!」
だからまだちゃんとお話し出来てないのに! あぁ、もう!
「そ、そんなことは……!」
「はいはい、皆ー! 鳳さんが困ってるでしょー? 質問はちゃんと1人ずつすること!」
た、助かった……えっと、この人は……うぅ、名前がまだ分からないからお礼も言えないなんて!
「鳳奏ちゃん、だよね? 私は
「あ、うん! 風花さん、ありがとう」
「いえいえどういたしまして、だよ! あっ、奏ちゃんって読んでもいいかな?」
「ど、どうぞ」
えぇ、なにこの人!? すごく自然に名前呼びに!? これが私みたいな付け焼刃コミュ力じゃなくて本物のコミュ力なの!?
あ、逢坂くんの方にも誰かが話しかけに来てたんだ……うわぁ、あの人と話すのが面倒そうにする感じ、なんだか懐かしいなぁ。
「このクラス結構イケメン揃ってない?」
「うんうん! ラッキーだよね! 誰か気になる人でもいたの?」
「私は三柴君かな。全体的な雰囲気はちょっと遊んでそうだけど、あぁいうタイプって実は付き合ったら彼女のことを大切にしてくれそうだし!」
三柴君……あの人たちの目線的に今逢坂くんとお話している人かな? 確かに身長は高めでちょっとモテそうな感じ。でも、逢坂くんの方がカッコいいね。……ってダメだってば!
「えー? 私は逢坂君かな」
「へ? うーん、なんか大人しそうだけど暗そうっていうか……」
はぁ? あの雰囲気の良さが分からないなんて一体どこに目を付けてるの? 物静かで他の男子とは違って落ち着いているし、それに笑った時なんてめちゃくちゃ可愛いんだから!
「いやいや、なんか文学青年? って言うのかな? あれで伊達メガネをかけてちょっと髪とか眉毛を整えたら化けると思うよー彼」
あなたとはいい友達になれそう。逢坂くんの良さが分かる人に悪い人はいない。
是非とも連絡先を交換したい。
「というわけで親睦も兼ねてこの後飯でもどうよ?」
「面倒くさいし、帰って本を読みたい」
「よっし、決まりな!」
「君さては僕の話聞く気ないだろ」
ふと聞こえてきた会話からして、逢坂くんたちはこの後ご飯を食べに行くみたい。
いいお友達が出来そうでなんだか私は嬉しい。……親か。
「なになに? 逢坂クンたちご飯食べに行くの? あたしも混ぜてー! あっ、奏ちゃんも一緒に行こうよー!」
「えっ!? あの……えっと……」
ど、どうしよう!? 個人的には逢坂くんとご飯行きたいけど……絶対元カノがしゃしゃり出たら迷惑するに決まってるし……!
「なんだ? 風花も来たいのか? だったらそれ相応の態度ってもんがあるだろ?」
「ははっ、ウザッ。別に三柴はいなくてもいいけど? あたしと奏ちゃんと逢坂クンだけで行くから」
「おいおい、逢坂は俺が誘ったんだぜ? 俺がいないと行くわけねえだろ。なっ?」
「いやどっちに誘われても行かないと思うけど……三柴、この人と知り合い?」
あっ、それ私も気になってた。初対面の人が集まってるクラスの中でなんか顔見知りと話しているようなやり取りだったし。
「中学が同じってだけだ。にしてもこいつと学校が被るとかな」
「そうそう。ただの腐れ縁だよ。あ、そうだ。あたしは風花梨央! よろしくねっ!」
へー、私たちと似たような人がいるんだ……あ、ご飯行くかどうか答えないと……せっかく誘ってくれたんだし、行きたいんだけど……悩ましい。
「あのっ……私まだ行くって言ってないんだけど」
「えーっ!? 行こうよぉ! せっかく同じ学校に受かって同じクラスになれたんだからさ!」
うわわっ! 風花さんが猛スピードで私の周りを回り始めた!? なんだか目が回りそう! 小柄だし益々小動物みたい。あ、三柴君に捕まった。
「にゃっ! ちょっと離してよー! 女の子に対してセクハラだからね!」
「へいへい。女を語るならもっと清楚さを身に着けてから言えってんだ」
「なにをーっ!」
2人がわいわいし始めたのを逢坂くんと一緒に見守る。あ、逢坂くんが席をチラチラ見てる。座りたいのかな? ……それなら、少しだけお話しておきたい、かも。
「……なんか、2人とも仲が良いんだね」
「そうだな。それで鳳は飯、行くのか?」
えっと、うん。決めた。
「せっかく誘ってもらってるわけだから行こうかな。逢坂くんはどうするの?」
「どうせ帰っても本読むだけだからな。いつでも読めるし」
もうっ、素直じゃないなぁ。なんだかんだで誘われると断れないのに。
「ふふっ、その言い方。逢坂くんは変わらないね」
「人なんてそう簡単に変わるもんじゃないからな。って思ったけど、そっちは結構変わったよな」
「そうかな?」
「人見知り、前より直ったじゃないか。それに見た目も……」
見た目も……なんだろう? だけど、しまったという顔をした彼が言葉を区切ってしまったから、その先は聞くことが出来なかった。
……って、思ったより普通に話せてる? ち、違う! 嬉しくない! あ、でも名前呼ぶのも呼んでもらえるのも久しぶりで……嬉しくない!
「あ、ありがとう。逢坂くんもちょっぴり大人っぽくなったよね」
「さっき変わってないって話したばかりだろ」
「中身の話じゃなくて外見の話!」
「それこそ気のせいだろ。変わってないって」
むっ、もうっ! ほんっとう素直じゃない!
「絶対変わったもん!」
「わ、分かったから。落ち着け、な? 周りの目もあるし」
「おうおう、お2人さんこそ随分仲が良いんじゃねえか?」
「ひゃあ!?」
思わずムキになっちゃって言い返してるところ見られちゃった!? は、恥ずかしい! ん? なんだか逢坂くんが口を押えて三柴君の方を向いた。なんか睨んでる、のかな?
「逢坂クンだけずるい! あたしも奏ちゃんとお喋りしたい!」
「残念ながら、風花。時間切れだ」
三柴君の言葉を同時に予鈴のチャイムが鳴った。よ、良かった……これ以上話してたら絶対何かやらかしちゃってただろうし……。
――結局、その後の自己紹介で私と逢坂くんが同じ中学校ってことはバレちゃったんだけどね。
あと、教壇の上に名前が書いた紙が置いてあって、話しかけてきた人たちがどうして私の名前を知っていたのかが分かったのでした。
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