第27話 元カレと看病
「あれ? 逢坂クン、奏ちゃんは? もしかしてまた遅刻だったり?」
「違う。今朝鳳の親から言われたんだけど、熱出したらしい。今日は正真正銘の休みだ」
昨日は遅刻したばかりだというのに、今日は欠席か。
鳳も皆勤賞とか気にしてないだろうし、それは幸いだったかもな。
「えぇ!? 熱!? 奏ちゃんツいてないね……それにしても逢坂クンはすごく落ち着いてるね? 心配じゃないの?」
「まあ、熱ぐらいで大げさに騒ぐことでもないから」
……実際はめちゃくちゃ心配してる。
今日学校に来る時に、電柱にぶつかるし、赤信号を渡りかけて何度も車に轢かれそうになったぐらいには、だ。
そんなこと言えるわけないから余裕ぶったけど、穂花さんに言われた時は少し狼狽えた。
「あと、今日帰ったらお見舞いに顔出してみるつもりだし」
「それあたしも行っていいかな?」
「いいんじゃないか? 鳳もきっと喜ぶ」
僕たちが話していると、会話に混ざりたそうな顔で三柴が近づいてきた。
「何の話だ?」
「三柴には関係ない話」
「鳳が今日熱出して休むから、学校終わったらお見舞いに行くって話」
「ふーんそうか。なら、俺はパスだな」
意外にも、三柴は来ないことを選んだ。
……てっきり来るって言い出すと思ってたんだけどな。
「意外って顔すんなよ。流石に鳳さんとは友達だけど、女子の家においそれと上がり込むわけにはいかないだろ? あんまり人数多くなり過ぎんのもあれだしな」
「君、意外と気遣い出来るタイプだよな」
「三柴の癖にね」
「うるさいぞ風花。お前は騒ぎ過ぎて鳳さんに迷惑をかけないことだけ心配してろよ」
「何をーっ!?」
ファミレスの時にも思っていたけど、三柴は割と周囲の状況をよく観察して気を遣っているように思える。
まあクラスのあらゆるコミュニティに所属出来るタイプだし、世渡りが上手いんだろうな。
じゃれ合いというかいがみ合い始めた風花さんと三柴はともかくとして、鳳家へのお見舞いが決定した。
×××
「あら大空くん、いらっしゃい……そっちの子は……」
「初めまして、風花梨央と言います! 奏ちゃんのクラスメイトでお友達です!」
「ああ! あなたが梨央ちゃんだったの! うちの奏がいつもお世話になってます」
「いえいえ、とんでもない! あたしの方こそいつもお世話になっていて……あ、これつまらない物ですけど、良かったら――」
……長くなりそうだし、先に鳳の部屋に行ってよう。
女性の話は長いっていうのは母さんたち見てたから知ってるし。
お邪魔しますとだけ穂花さんに伝え、階段を上がって鳳の部屋の前に来た。
……なんかちょっと緊張する。
息を深く吸い込んで、扉をノックした。
「……どうぞ」
中から弱々しい声が聞こえてきたので、扉を開けて部屋の中に入る。
おでこに冷えピタを貼り付けた鳳がベッドに寝ていて、僕と目が合った。
「あ、ああ逢坂くんっ!? どうしてここにっ!? あっ、マスクマスク……!」
「どうしても何も……家隣なんだし、普通にお見舞いぐらい来るだろ。体調はどうだ?」
「う、うん……大分落ち着いた、かな……わざわざごめんね?」
鳳は口元が隠れるくらいまで布団を上げ、ぼそぼそと謝罪する。
その可愛い仕草に、少しドキッとした。
……いやいや、病人相手に不謹慎だろ、僕。
「プリント、机の上に置いておくぞ? あとはゼリーとか適当に買ってきた」
「ありがと……あ、これじゃお話し辛いよね?」
「いいから寝てろ。僕は気にしない。それとマスクしたまま布団を顔にかけてるの息苦しいだろ」
ベッドの付近に腰を下ろして、改めて鳳の部屋を見回す。
そう言えば、部屋に入るのは1年振り以上か……。
本棚は綺麗に整理されているし、全体的に大人っぽい感じの部屋なのは相変わらずだな。
……ちょっと背伸びしてる感があるけど。
「風花さんも一緒に来たんだけど……穂花さんと話し始めたから玄関に置いてきた」
「お母さん……あとで風花さんにも謝っておかないと……」
頭痛をこらえるようにっていうか……本当に頭痛があるのかもしれない。
だったら、あまり長居は出来ないな。
座ったばかりだったけど、すぐに立ち上がろうとする。
「……鳳? どうした?」
立ち上がろうとすると、腰の辺りに抵抗を感じる。
その部分を見ると鳳が裾を摘まんで僕を熱っぽい目でジッと見てきていた。
「……ごめん、もう少しだけ」
「体調悪化するぞ?」
あー、そうか。
病気になった時って心細いからな……鳳なんて根が寂しがりだから、特にそう感じるのかも。
「……もしかして、熱あまり引いてなかったのか……?」
「……ごめんね。大空くん、また迷惑かけちゃった、ね……?」
熱のせいで焦点が定まってない瞳で僕を見ながら、鳳はうわごとのように何度もごめんね、大空くんと呟き続ける。
自分が何を言っているのかも、きっと鳳は分かってない。
そうじゃなきゃ、僕の名前を呼ぶはずがないんだ。
「――奏はずっと悪くないよ。だから、謝らないといけないのは、ずっと僕の方なんだ。どこにも行ったりしないから……安心して眠ってくれ」
僕の腰を摘まんだ鳳の手を握ってやると、彼女は安心したようにすぐに眠りについた。
……こんなの、僕らしくもない。
多分、鳳の熱が移ったんだ。
「奏ちゃーん? 逢坂クーン? 入るよー?」
数分後、風花さんが扉を開けて静かに部屋に入ってきた。
「ありゃ、寝ちゃってる?」
「さっきまでは起きてたんだけど、あまり回復してなかったみたいだ」
「そうなんだ。……逢坂クン?」
立ち上がった僕を、風花さんが不思議そうに見てくる。
ああ、そうか……帰るって言わないとな。
「お見舞いの品とプリントは渡したし、僕はもうお
「うん。じゃあまた明日ね」
風花さんにあとを任せ、僕は足早に鳳家をあとにした。
「……家に帰る気分にはなれないな。ちょっと歩いてこよう」
繋いだ手の温もりを思い出すように、僕はぎゅっと拳を握りしめて、僕は歩き出す。
行く当ては無いけど、本屋にでも行けば……この暴れ出しそうな気持ちを抑える事が出来るかもしれない。
そう思った僕は、本屋に進路を決めたのだった。
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