第18話 元カレとGW初日

「……あ、しまった。途中で寝てたのか」


 GW初日の前日、つまり昨日酔っ払い親父たちに捕まったあと、僕はなんとか逃げ出してひたすら本を読み漁った。

 ……栞すら挟んでないから何ページまで読んだか分からないな。


「よし、とりあえず続きを読む――」


 ――ピンポーン。


「……続きを――」


 ――ピンポンピンポーン。


「………………」


 ――ピンポンピンポンピンポンピンッポン。


「誰だ……人の家のインターフォンを連打する不届き者は……あと最後だけちょっと溜めて押してるのがまた腹立たしい」


 僕の交友関係の狭さからして、大体の想像は付くけどな。

 どうせ来客に応じ無かったらひたすらピンポン連打されるに違いない。


「……はあ」


 これでくだらない用事だったらどうしてくれようか……。

 顔の分からない来客者の姿を思い浮かべながら階段を下りて玄関のドアにチェーンをかけて開ける。


「よっ……なんでチェーンかけてんだよ」

「何があるか分からないからな。近頃物騒だし戸締まりはしっかりしておくに越したことはないだろ」

「そうか。ならもう大丈夫だな。早く中に入れてくれ」

「よし、チェーン外すから一旦ドアを閉めさせてくれ」

「おう」


 僕はドアを閉めてチェーンを外し、鍵をかけた。

 ふぅ、これでよし。さて、部屋に戻って本の続きを……。


 ――ドンドンッガチャガチャピンッポン。


「……そう言えば喉渇いたな」


 ――ドドドドン、ガチャガッチャン、ピピピピポン。


「おいこら人の家の玄関のあらゆる来客を伝える手段を使ってセッションを始めるな」

「だったら入れろよ! 何しれっと無かったことにしようとしてんだ!」


 チッ、仕方ない。

 僕は渋々三柴を引き入れることにした。


「何の用だ? 今日は本を読みまくるっていう大事な予定があるんだが」

「そんなのいつでも出来るだろ? 普通に遊びにきたんだよ。ほらゲームも持ってきてやったぞ」

「ゲームだっていつでも出来るだろ……」

「というかお前寝起きか? 髪ボサボサじゃねえかよ」

「寝起きのすぐにインターフォン連打を喰らわされた僕の身にもなれ。起きてたからまだ良かったが、これでお前の騒音で目覚めてたら絶対キレてた自信があるからな?」


 二日酔いで死んでる父さんもいるし、あまり褒められたやり方じゃないな。


「悪かったって、ほらこれ菓子折持ってきたから許してくれよ」

「その準備の良さ……君さては計画的犯行だろ。おい口笛を吹くな、誤魔化すな」


 入れてしまったものは仕方ないので、三柴を自室に通す。

 

「待ってろ。今ちょっと飲み物でも取ってくるから」

「おう、お構いなく」


 炭酸と果汁ジュース……あと三柴用に青汁かおしるこ……あいつどっちがいいんだ? ま、両方持っていけば間違いはないだろ。

 トレーとコップと飲み物数種類を持って部屋に戻る。


「……おい、何やってんだ。ベッドの下を覗き込んだりして」

「いやお宝本の散策をだな」

「今すぐやめろ。そんなもん置いてるわけないだろ」

「お、この本棚の奥とか……案外」

「やめろ」


 際どいラノベとかちょっと人には見られたくない物が棚の奥にはしまってある。

 昔は鳳がよく部屋に来てたから別れた今でもそういう物はしまったままなんだ。


「へいへい、そういうプライバシーを隠したい気持ちってのはよく分かるし、これ以上は触らないでおきますよっと」

「君が想像しているような物は一切無いぞ。誤解するな」


 持ちっぱなしだったトレーをテーブルに置く。


「三柴、青汁とおしるこどっちがいいか選ばせてやる」

「なんだよそのチョイス! 普通にジュースくれよ!」

「遠慮するな僕からのおもてなしだ」

「暗に帰れって言ってるだろ!?」


 流石にバレたか。

 こいつ頭の回転は速いっぽいからな。

 ……ん? 雨城からLINE?


『大空くん……どうやらわたしはギャルゲーの世界に紛れこんでしまったようです……!』

 

 その一言と一緒に送られてきた写真には肩を寄せ合いながら服を選んでいる鳳と風花さんの姿が。


『よく分からないけどよかったな』

『はい! 尊さのお裾分けです! 美少女2人がくっついて桃源郷が目の前に!』

『君、時々おっさんみたいだな』

『おっぱいはありますけどね!』

『はいはい』

『え? ぱいぱい?』


 やっぱりおっさんじゃないか。

 なんだこいつ。……お?


「誰からだ?」

「友達、ほら」


 三柴に新しく送られてきた写真を見せる。

 照れてはにかみながら控えめにピースをする鳳。

 満面の笑みを咲かせ、ダブルピースをしている風花さん。

 ぎこちない笑顔を浮かべ、ぎこちないピースをしようとしている雨城。

 そんな三者三様の笑顔を浮かべた3人の写真だ。

 

「ふーん、あっちはあっちで楽しそうにしてんだな。というかこの子胸でかくね?」

「でかいだけだろ」

「隣に風花がいるせいで余計に際立って見えるな」

「それは絶対風花さんの前では口にするなよ? 多分だけど君殺されるぞ」


 なんでか分からないけどそんな気がする。


「しかし、鳳さんだけじゃ飽き足らず……逢坂って見た目よりも肉食なのな」

「なっ……鳳は関係無いだろ。ただの同級生だ。雨城もただの友達だ。勘ぐられるようなこことはなにも……」

「まあまあ、今は俺しかいないんだし……実際のところどっち派だ?」

「人に聞かれて嫌なことはするなって教わらなかったか? そっちこそ風花さんとどうなんだって聞かれたら?」

「……あー、悪い。この話やめるか。どっちの得にもなりそうにないしな」


 それでいいんだよ。 

 鳳は元カノだし、雨城は友達……それ以外ないだろ。


「とりあえずゲームするか?」

「……仕方ない。三柴のおすすめはどれだ?」

「おすすめかー……1人でやるならこれ、多人数ならこれだな」

「このシリーズは流石の僕でも聞いたことぐらいはある」


 僕と三柴は時間の許される限りゲームをした。

 ちなみにその様子を雨城に送ると、服を見るよりもこっちに混ざりたかったとのこと。

 あいつ読書だけじゃなくてゲームもやるのか。

 多趣味なオタクだな。


 ……鳳にもたまにはLINEしてみるか。本を貸し借りして感想を言い合うぐらいいいだろ。

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