第17話 元カノと2人の友人(奏目線)

「……」

「キョニュウ……コロス……」

「う、うぅ……梨央さん怖いです……奏さーん……」


 この状況を一言で表すなら、カオス。

 せっかくのGW初日だっていうのに……。

 説明すると、今日は私と風花さん、そして雨城さんと一緒に遊ぶという話になって、私たちはこうして待ち合わせをして合流したわけなんだけど……。


 雨城さんと風花さんが顔を合わせた瞬間、風花さんの顔から表情という表情が抜け落ちてしまった。

 そして、私が誘った雨城さんと風花さんの自己紹介が終わった途端、風花さんはそれしか喋らなくなってしまった。


「ね、ねえ風花さん。この子私の友達だから……悪い子じゃないから、ねっ?」

「でも巨乳じゃん! 忌むべき存在だよ!」

「た、確かにわたしはFですけど! 初対面の人に巨乳だからってそこまで睨まれなきゃいけない理由が分かりません!」

「ああ!? 自慢した! 今この子自慢したよ奏ちゃん!」

「ごめん風花さん……雨城さんがFとか余計なことを言ったにしても、雨城さんの言い分が正しいと思う」


 確かに巨乳ってだけで人柄も確認せずに勝手に敵視するのはどうかと思う。

 

「それもそうだけど……うん。そうだよね! 柚葉ちゃん、ごめんね! 奏ちゃんと友達ならあたしとも仲良くしてくれると嬉しいな!」

「はい! よろしくお願いします、梨央さん! 流石奏さんのお友達! 胸は小さくても心は大きいです!」

「やっぱり前言撤回したいんだけど」

「はいはい、雨城さんも余計なこと言わない! 風花さんも仲良く出来ないなら今日は私帰るからね?」


 LINEで多少は話して分かったのは雨城さんは思ったことを口に出してしまう子ってこと。どうどうと風花さんをなだめながら、今日の目的を頭に浮かべる。


 確か今日は大型モールにウィンドウショッピングをしに行くのが目的だったよね?


「あの、奏さん……お誘いいただいてなんですけど……本当に今日わたし来てもよかったんでしょうか?」

「うん。せっかく連絡先を交換して友達になったんだし、そんなに遠慮しないで」

「か、感激です! 万年ぼっちだったわたしがこうしてお友達から遊びの誘いを受ける日がくるなんて……カレンダーに記して忘れないようにします! あと毎日奏さんの家の方向に向かって拝みます!」

「最後のはやめてね?」


 この子いい子なんだけどやることが極端なのよね……それに今日誘ったのは純粋な善意だけの行動じゃないから……気がかりなのはやっぱり雨城さんが気が付いていない逢坂くんへの好意。


 ……本来なら教えてあげる義理なんて私にはないし、ライバルを自分から増やしてどうするのかって自分でも思うけど、どうしても放っておけないのよね……。

 まあ私の恋はもう終わってるも同然だし、雨城さんなら逢坂くんも嫌じゃないと思うし。 ……誰に対して言い訳してるの……?


「風花さん、ごめんね。急に人呼びたいなんて言って……」

「ううん、奏ちゃんは悪くないよ……悪いのはあたしの発育だから……なんてー、あははー」

「本当にごめん……」


 遂に自虐まで挟み始めちゃった……。

 どうしようかな……あ、そうだ。


「じゃあ今日のご飯代は私の奢りで! どうかな?」

「……その言葉、忘れないでね? よーっし完全復活!」

「わたしも今日は誘ってもらった代わりにこの身は奏さんと梨央さんに差し出します! わたしは今日1日お2人の奴隷となり、手足です! さあ、ご命令を!」

「じゃあその大きな2つの塊をあたしの前で揺らさないで」

「すみませんごめんなさい揺らしたくなくても勝手に揺れるんですぅ! 奏さんお助けを!」


 ……本当に今日大丈夫かなあ……?


×××


「あ、この服とか風花さんに似合うんじゃないかな?」

「え、ほんと? じゃあ奏ちゃんはこっちとか!」


 紆余曲折あったけど、大型モールに着いた私たちは早速服を見て回っていた。

 中学の時は友達とこうやって服を見て回るのもちょっと苦手意識あったんだけど、今は普通に楽しいって思える。

 ……あれ? 雨城さんは? ……いた。なにやらマネキンの陰に隠れるようにして、私と風花さんの様子を伺ってる。


「ほら、雨城さんも一緒に見ようよ。これなんて似合うんじゃない?」

「ひ、ひやっ!? そんな恐れ多いです! わたしみたいなお洒落下級者の下々の者が上級者に混ざろうだなんて! わたしはここからお2人がお互いに服を選び合う尊い光景を目に焼き付けさせてもらっておくだけでありがたいです!」

「お洒落下級者!? というか下々!? あとめちゃくちゃ早口!?」


 そのままスマホを構えて連写をし始めた雨城さん。

 ……まあ、楽しそうだしいいのかな?


「ああ……! 尊い……! 美少女2人がわたしの前でこんなご褒美イベントを……! わたしはいつからギャルゲーの世界に紛れ込んでいたんでしょうか!?」

「よく分からないけどなんとなく柚葉ちゃんがオタク気質だってことは分かったかな」

「そ、そうなんだ? 私にはちょっとよく分からなかったけど……」


 私はサブカル系には疎いから雨城さんがどうしてあそこまで興奮してるのかは分からないなぁ。

 逢坂くんだったら的確なツッコミが出来るのかな?


「ああ!? あれは新作プライズ!? すみません、ちょっと離席します!」

「え!? ちょっと雨城さん!?」


 突然そう言うと、雨城さんはゲームセンターがあるコーナーへと猛ダッシュしていった。

 

「あはは……確かに悪い子ではないけど、ちょっと変わってるね」

「悪い子じゃないんだけどね……私たちも行こっか」


 ゲームコーナーへと足を踏み入れると周りの音が一気に賑やかなものに切り替わった。

 ……やっぱりうるさいのはちょっと苦手かも。


「やりました! 美少女フィギュアゲットです!」

「雨城さんってこういうの上手いんだね」

「はい! お友達がいなかったので、自分の私利私欲を満たすためにゲームセンターに通ってたらいつの間にか出来るようになってました!」

「腕前はともかく理由が悲しすぎる!? ……柚葉ちゃん、あのぬいぐるみとかって取れたりする?」

「はい! 任せてください!」


 あ、でも2人がちょっと打ち解けたかもしれない。

 2人が並んで筐体の前に立っているのを見てると、頬が緩んできた。

 これだけでも、GW初日からいい思い出が出来たって思える1日でした。

 

 ……逢坂くんは何をして過ごしてるんだろ?


 それに、結局雨城さんに逢坂くんへの気持ちについては言うことが出来なかった。

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