第16話 元カノとGW前日(奏目線)
「奏ちゃんは明日からのGWって何か予定とかあるのー?」
放課後、私と風花さんはカフェでお茶をしていた。
GWかー。うーん……。
「本読んで終わりかな」
「えー!? せっかくの長期休暇なのに何もしないなんてもったいないよ! どこか遊びに行こうよぉ!」
今読書って言ったし何もしないわけじゃないんだけど……今まで付き合ってきた友達は皆インドア派だったし、集まってどこかに行くなんて考えがそもそも無かった。
「うん、行く行く。あ、でも1つ予定が入るかもしれない」
「え!? 何々!?」
「……あー、いやえっと……」
「もしかして誰か男の子とデート!?」
「そうじゃないよ! そんな相手いないから!」
どうしよう……逢坂くんと私の家が隣で家族ぐるみで仲がいいってこと、まだ風花さんには話してないんだよね。
それでこういう長期休暇の時は親同士が遠出を企画するんだけど……。
「実はね……私と逢坂くんってお家が隣同士で……親同士がすっごく仲が良くてね? GWもどこかドライブに行こうってお父さんと逢坂くんのお父さんがすごく盛り上がってるの」
「そうだったんだ! もーっ、水くさいなぁーっ! そういうことは早く言ってよ!」
「うん、ごめんねー? わざわざ自分から言うのもなって思ってたらタイミング逃しちゃって」
早く話しておけばよかったね。
今年はどこに行くことになるのかなぁ……。
×××
「で、幸介さんがねーっ?」
「それならうちの謙吾君だって……!」
時間が経って、私は家に帰ってきた。
家の中では私のお母さんと逢坂くんのお母さんである愛菜さんがお互いの夫のいいところを惚気合っていた。
……やっぱりね、いつものことだもん。
「あら、奏お帰りー」
「お邪魔してます」
「ただいま。……私、上に行ってるね?」
惚気話に巻き込まれるのは大変だもん……いつもこう。
私のお父さんと逢坂くんのお父さんが逢坂くんのお家に行ってる時は、
「親の惚気話を聞かされる娘の気持ちにもなって欲しい……」
家族仲が良好なのはいいことなんだけど、毎回だと流石に厳しいっていうか……もう殆ど覚えちゃってるから。
逢坂くんの方も大変だろうなぁ……ちょっとベランダに出てみようかな?
着替えてからコンタクトを外し、眼鏡をしてから窓を開ける。
「……まだちょっと冷えるなぁ」
そんな呟きはすぐに風に攫われていっちゃったけど、その直後に隣の家のベランダからがらりと音が聞こえてきた。
「……鳳?」
「え、あ。こんばんは」
まさか逢坂くんがベランダに出てくるなんて思ってなかったから、一瞬呆けてしまって、慌ててお辞儀をしてしまった。
スウェット姿で風に当たる逢坂くんが格好良すぎる件について誰かと小一時間ほど語り合いたい。
「そっちに母さんたちいるか?」
何秒間沈黙していたのか分からないけど、逢坂くんは私から目を離してベランダからの景色を見ながらそう聞いてきた。
「うん、いるよ……そっちにお父さんたちいる?」
「ああ。いるよ。いつも迷惑かけて悪いな」
「ううん。どっちかと言えば迷惑かけてるのはお父さんの方だと思うし……」
毎回吐くまで飲んで、酔っ払って絡まれて大変なのは逢坂くんの方だよね。
あ、そのしかめっ面……やっぱり。
「……ふふっ」
彼の癖の1つ、割と無表情なことが多い逢坂くんだけど、嫌なことがある時やあった時はポーカーフェイスは崩れて肩眉が上がって、ちょっと顔が引き攣る。
「どうした? 急に笑いだしたりして」
いけない、つい笑っちゃって逢坂くんが怪訝な顔してる……無表情に見られがちな逢坂くんだけど、よく見ればその実表情豊かだったりするんだよね。
変化が分かり辛いってだけで。
「ごめん、なんだか懐かしくて。逢坂くん、嫌なことがある時はいつもしかめっ面してたよね」
「……そりゃ、40越えた父親たちに酒で酔っ払って絡まられたりしたらこういう顔になるって」
まあそれはそうかも。でも、それだけじゃないんだよね。
「次の体育でマラソン大会がある時、先生に呼び止められて頼まれ事をされた時、お父さんたちが酔っ払ってお部屋で吐いちゃった時」
「……よく見てるな」
驚いたような顔する逢坂くん。ほら、やっぱり表情豊かだ。
「そうかな? 意識したことないけど、自然と覚えてたのかも」
気が付いたら無意識に見ちゃってて、好きな人のことだから尚更、覚えていようと思ったのかな? まあ本当に覚えようとして覚えたわけじゃないんだけど。
「……当たりの本を見つけた時」
「――え?」
「弁当に好物が入ってた時、テストの点が良かった時、嬉しいことがあったら鳳は必ず小さく鼻歌を歌うんだよ」
……え!?
「え!?」
思いもよらないことを伝えられて、思わず心の声が口から出てしまった。
鼻歌!? 誰が!? 私が!? ……嘘ッ!?
「私そんなことしてたの!? 逢坂くんに聞かれてるってことは……他の人にも聞かれてるの!? う、うぅ……恥ずかしい……!」
穴があったら入りたい! 私のバカ! 何やってるのよ、もうっ!
「ま、大丈夫じゃないか? 大体辺りが騒がしいか周りに人がいない時にしか聞いたことないから」
……多分、私のことだからそれだけじゃないよね? そこまで気が緩んでたりリラックスしてたってことは……。
「……きっと、それは……逢坂くんが近くにいたから嬉しかったんだよ」
「え!?」
逢坂くんは私の言葉に顔を赤くして、驚いていた。
ふふっ、私だけ恥ずかしい思いするなんてフェアじゃないもんね!
「なんてね! お返し!」
逢坂くんは俯いちゃったけど、これってなんだか……付き合ってた頃みたいかも。
あの頃はよく、こうやってベランダに出て顔を合わせてお話したっけ。
なんだかもう遠い昔のよう。
……もし別れてなかったら、今もこうやってベランダで話してるような幸せな未来があったのかな? ううん、もうそんなこと考えても仕方ないよね?
でも、最近はちょっといい雰囲気だし……また、付き合えたりは……しないよね?
「……ほら、早く入らないと体冷やして風邪でも引いたら大変だ。お休み」
「う、うん? お休みなさい……?」
急に話を切り上げて、部屋に戻るように示唆してきた逢坂くんは俯きがちなままで、細かい表情は読み取ることが出来なかった。
なんだか急いで話を切り上げないといけないことでもあるのかな? あ、お父さんたちの絡み酒から逃げる為かな? それだったら拘束するみたいなことになっちゃって悪かったなぁ。
「奏ぇー! 奏には気になる人いないのぉー?」
「もうっ! お母さん! もしかして酔っ払ってるの? あんまりお酒強くないのに飲み過ぎないでよ!」
「ほらほら、うちの大空とかどうなの奏ちゃん!」
「えぇ!? 大空くんは私にはもったいないですよぉ!」
……こういう時だったら、名前で呼べるのになぁ。
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