第27話 ~ヒロキの変化~

一方、ヒロキはモテていた。

この見た目、笑顔、相談者の恋愛の悩みに真正面から真剣に向き合おうとする姿勢に胸をうたれ、ヒロキに惚れた相談者も多い。というか実際にアプローチを受けたこともあるが、ヒロキは全て断っていた。

今日もヒロキは恋愛向上委員会の仕事を終え、帰宅した。ヒロキは優海の家を出てから本田の家に住んでいる。

「おかえり。なにやら浮かない顔をしていますね。」

「本田さん、ただいまです。以前カウンセリングを行った相談者から告白されてしまいまして…。」

「優海さんの役目を終えて、恋愛向上委員会に来たのは三か月前でしたっけ?どれだけの相談者からアプローチを受けているんですか、あなたは。」

「うーん、確か、これで10人目だったと思います。正直困っているんですよ。『僕、アンドロイドですよ?』って言っているんですが、『それでもいいです!!』って言われちゃって。」

「ヒューヒュー。モテる男が羨ましい限りです。で、そんなにアプローチされているのに困っている理由は何です?アンドロイドでも良いと言ってくれているのに。」

「それが、なぜだかわからなくて。アプローチされても嬉しくないんですよ。なんか…こう、胸のあたりがモヤモヤするんですよね。」

「じゃあ、そのモヤモヤが解消すれば、アプローチされても困る本当の理由がわかるんじゃないんですか?」

「本田さん、アドバイスが雑すぎますよ。どうしたらモヤモヤが解消するのか教えてくださいよ~。」

「あなたはバカなんですか?あなたは、恋愛サポート型アンドロイドなんですよ?解消方法は、すでにあなたの中にプログラムされています。自分で色々確かめて、モヤモヤの正体を突き止めてくださいね。」

本田は、ニヤニヤしながらヒロキに言った。

「どうしてそんなにニヤニヤするんですか~!」

「結論を見出した時のあなたの顔を見るのが楽しみですよ、ヒロキ。」

「そんなぁ。」

本田はまるで、ヒロキのモヤモヤがわかっているようであった。


あれからヒロキはモヤモヤの原因を追求していたが、答えが出なかった。

「(色々やってみたけど、全然わからないよ。他人のことはわかるのに自分のことはこんなにわからないなんて…。どうしたらいいんだろう?)」

ヒロキは、今日、恋愛向上委員会に相談に来た人の情報を入力しながら、解決策をひたすら考えていた。そして、ある相談者の情報を入力したところ、誤った情報を記入してしまう。

「(やばっ、間違えちゃった。あっ、この人の性格タイプ、優海に似ているなぁ。そういえば、優海、弘貴クンと仲良くやっているかな。はぁ、優海に会いたいなぁ…。)んっ?今、何を考えていた?」

カチッ。

「あー!!またやってしまった…。」

ヒロキは相談者の情報を修正しないまま、システムに登録してしまったようだ。一度、登録してしまうと修正できない仕組みになっている。ヒロキは、しぶしぶ本田に修正したい旨を伝えた。

「本田さん、すみません。相談者の情報を間違えて登録してしまったので、修正したのですが…。」

「わかりました。どの相談者様ですか?」

「この人ですね。…本田さん、今日は機嫌良いですね。いつもより優しい気がします。」

「ヒロキ、そのような言い方ですと、普段の私は優しくないということですか?」

「普段ならもう少し嫌味を言うので。」

「そんなことを言う口はこれですか?」

本田は、ヒロキの頬を思いきり引っ張った。

「いははは!ほんあさん、ひゃめてふがさいよ!(いたたた!本田さん、やめてくださいよ!)」

「ははは。ほら、修正できるようにしておきましたよ。早くやってしまってください。」

「ありがとうございます!」

ヒロキは先ほど登録した相談者の情報修正にとりかかる。

「(僕、どうして優海に会いたいって思ったのかな?幸せを感じて生きているか気になるし、役目を終えて出ていったのはいいんだけど、やっぱり心配だし放っておけない。それに女性の相談者をカウンセリングしていると、ゆうもの様々な表情が浮かんでは消えていって。すべての表情が愛しく思えて…。)あぁ、そうか…。僕、優海のこと…。」

「ヒロキ、相談者の情報修正は終わったんですか?」

「すみませーん。考え事をしてました。すぐにやりまーす。」

「まったく。頼みましたよ。」

本田は呆れながら席へ戻っていた。

ヒロキは心の奥底で眠っていた恋心を自覚したが、物理的な距離と心理的な距離のギャップに戸惑っていた。今後、どのようなアクションを取るべきか、ヒロキに新たな悩みが生まれたのであった。

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