第8話 ~自分と向き合う Part2~

一週間後、この日も優海は自身が見つけた良いところを報告していた。

「よし、じゃあ今日もこれで終わりね。」

「…ヒロキ、私、気がついたことがあるの。」

「んっ?」

「あまり周囲が気にならなくなった。自分に意識が集中しているからだと思うんだけど。良い部分を見つけていくうちに、『あぁ、自分にも良いところってあるんだなぁ。うん。私は私で良いんだ。』って思えるようになったのは大きいかも。自分が満たされていると、周りの人がどんな人であっても比較しなくなったし、逆に相手の良いところを受け入れることが出来るようになってきたの。」

「うんうん。」

「仕事でも、今までは上司や後輩に気をつかいすぎて、わからないことを聞くまでものすごく時間がかかったし、仕事を振ることが出来なくて一人で頑張ってた。でもね、そんなの自分を苦しめるだけだったんだよね。だから、自分が出来ていない部分や苦手な部分は、他に出来る人や得意な人にお願いするのもいいかなって。頼ろうと思う気持ちが芽生えてきたかも。自分で自分を満たせるようになると、こんなに心が楽になるんだね。」

「そかそか。自分の良いところを見つけること、今、優海が言った気がついたこと、これからも意識しながら過ごせるといいね。」

「ありがとう、ヒロキ。幸せな人生を過ごすために継続していくね。」

自分で自分を満たすだけで、少し幸福感を感じられるようになった優海。そんな優海を見たヒロキの身体は、嬉しさが全身に広がっていくのを感じたのであった。


「ただいまー!ゴメンね、ヒロキ!遅くなって。」

「おかえり、優海。『ちょっと買い物行ってくるー!』って出て行ってから、帰ってきたのは夜。全然『ちょっと』じゃない気がするんだけど…。寂しかったよ~。遅くなるんだったら連絡して~(泣)」

「ご、ごめん。楽しくてつい忘れちゃったの。次は気をつけるから。」

「約束だよ?はい。」

ヒロキは、むくれながら小指を優海に向けると、優海も小指を絡ませた。

「指切り拳万嘘ついたら…、嘘ついたら…、うーん…、優海に膝枕してもらいながら耳かきしてもらう!指切った!」

「うわっ。膝枕なんて、物凄く恥ずかしい。」

「優海が嫌がりそうな物をセレクトした。ムフフ、楽しみだなぁ♪早く約束破らないかなぁ~。」

「絶対破らんわ。」

「で、どうして遅くなったの?」

ヒロキは話題を戻し、帰りが遅くなった理由を優海に聞いた。

「あぁ、目的地に向かっている途中で、この間話した新人さんに会ったの。真田千佳ちゃんっていうんだけど…。」

「あぁ、優海が一時期劣等感を感じていた相手だね。」

「そう。千佳ちゃん、コミュ力高いからねぇ~。見た目もふわふわしているし、まさに癒し系って感じ。ヒロキにも一度会わせたいくらい素敵な人だよ。で、買い物途中で千佳ちゃんを見かけたから、そのままランチに誘って、映画見て、ショッピングしてきた。」

「そかそか。」

「とっても楽しかった。千佳ちゃんのこと深く知れたし。」

いつも以上にテンションと声色が高いので、ヒロキは優海が楽しく過ごしたのはすぐにわかった。

「で、ちょっと相談があるの。千佳ちゃんと夕飯を食べてた時にこんな話をしたの。」


-回想-

『まさか、優海さんから誘ってもらえるなんて嬉しいです。』

『一度、千佳ちゃんとこうしてお話してみたかったの。見かけたときはどうしようかと思ったけど、勇気出して誘ってよかった。』

優海は日用品を購入するために外出したところで、たまたま千佳を見かけた。50m先で見かけたのだが、それでも千佳の癒しオーラを感じることが出来た。そんな雰囲気が好きな男性にとって注目の的だ。

『優海さん、仕事楽しいですか?』

千佳が真面目な顔つきで優海に問いかける。

『んっ?突然どうしたの?まぁ、好きなゲームの仕事に関われているから、楽しいかな?』

『私、大学まで進学しても特にやりたいが見つかりませんでした。ですので、就職活動の時もお給料の高さからIT業界に足を踏み入れて、とにかくプログラミング言語の勉強をしながら成果物を作成しました。そのおかげで様々な業界のことを知れましたし、開発のお仕事に携わることが出来て嬉しかったんです。おかげでお給料は申し分ないのですが、ただ…すみません、うまく言えないのですが心が満たされないんです。ただ生きるために働いている気がして、心に充実感がないといいますか…。私、このままIT業界で働いていて良いのでしょうか…?』

-回想終了-


「なるほどね。」

「私、千佳ちゃんに『へ、へぇ、千佳ちゃん、そのようなこと考えていたんだね。』としか言えなくて、具体的なアドバイスが出来なかった。ただ、共感出来ることが『ただ生きているために働いている気がする。』こと。あと、システムエンジニアに昇進するように上司に言われているけど、このまま進んでいいのか違和感があるのも事実なんだよね。」

「優海、ゲーム会社で働けているのは嬉しいんだよね?」

ヒロキがそう優海に質問したのは、優海が小さいころからゲームが好きだということを思い出したからだ。

「うん。それは100%間違いない。内定もらった時は本当に嬉しかったもの。」

「じゃあ、何が違和感なんだろうね?」

「それがわかったら、こんなにモヤモヤしないよー。ヒロキ、助けて(泣)」

「じゃあ、ヒント。優海は何をすることが好き?」

「いや、だからゲーム…。」

「他にもあるはずだよ?さあ、頑張って見つけてね。」

とびっきりスマイルを喰らった優海は反論できず、改めて自分を見つめるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る