第9話 ~自分と向き合う Part3~

次の日、優海はテストパターンを作成しながら、昨日ヒロキから出された課題を振り返っていた。

「(私って、こんなに好きなことなかったっけ?えー?私、普段何を楽しみで生きてきたん?)」

好きなものがゲーム以外思いつかず、優海は軽くショックを受けていた。

「今回のテストは、技の当たり判定の時間と範囲が仕様通りになっているか確認しないと…。」

「優海さん。今行っているテストですが、今日中に終わりそうなのでご報告しておきますね。」

千佳が優海に業務の進捗状態を報告した。

「早いね。OK。明日には新しいテストパターンが出来ると思うから。」

「ありがとうございます。…わぁ、優海さん、ノートに描いてあるキャラクター、確か新しく登場しますよね。6月登場でしたっけ。ウエディングドレスの衣装がとても綺麗です!男性キャラのタキシードもカッコイイ!でも、優海さん、絵が上手だなんて知りませんでした。」

優海は考え込んでしまうと絵を描いてしまう癖がある。これに関しては優海も無意識でしていたことだった。

「(これじゃん!私、絵好きじゃん!)」

「優海さん、ここまで絵が上手ならデザイン系に進もうとか思わなかったんですか?あれ?優海さん、どこに行くんですか?」

その頃、ヒロキはソファにゴロゴロしながら優海のことを考えていた。

「ちょっとヒントの出し方、適当すぎたかなぁ…。このまま進展がなければアドバイスしなおした方が良いかも。」

その時、ヒロキのスマートフォンに着信音が鳴った。

「あれ?優海からだ。仕事中のはずだけど…。もしもし?優海、どうしたの?」

「ヒロキ!私、好きなこと見つけたよ!」

その声は、今まで聞いたことがないくらい希望に満ち溢れていた。ヒロキは優海が好きなことを見つけたんだと確信した。

「よかったね!今、結構ワクワクしているでしょ?」

「うん!とても!ゴメン、今仕事中だから電話切るね!」

「お仕事頑張ってね。」

好きなことを見つけて意気揚々となっている優海に、安堵したヒロキであった。


「ただいまー!」

勢いよく玄関のドアが開いた。今までに感じたことのない勢いだ。

「優海、おかえりー♪…って、どうしたの!?その荷物!?」

ヒロキは優海を見てギョッとした。両手に抱えるほどの大量の本や雑誌が入った袋を持っていたのだ。

「連絡してくれたら、荷物持つの手伝ったのに。」

「そうしようと思ったけど、たまたまタクシーが通りかかったから、それに乗って帰ってきちゃった。早く読みたいと思っていたから、本当にラッキーだったよ。」

「そうなんだ。本当にラッキーだったね。で、そろそろ好きなことを聞かせて?」

「私、絵を描くことも好きなんだ。考え事をしている時、無意識に絵を描いていることが多いんだよね。特に、漫画やアニメ、ゲームのキャラクターを描いているの。私のいる会社はゲーム会社だからキャラクターデザインに挑戦してみようかなって。」

「うんうん。」

「で、上司にもキャリアチェンジの相談をしたの。そうしたら水面下でいくつか新しいプロジェクトが出来るらしくて。新しいプロジェクトのキャラクターデザインは社内外で募集するみたいだから、そこのコンペに参加するのはどうかって。コンペに通ればそのプロジェクトでキャラクターデザイナーお仕事が出来るから、コンペに向けて本格的に頑張ってみようかなって。」

「そっか。コンペ、通るといいね。」

「うん。私、今までに感じたことないくらい心が高ぶっているよ。」

それから優海は購入した本を片手に、少しでも時間があれば絵を描くようになっていったのだった。

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