第10話 ~ヒロキとデート!? Part1~

次の休日、優海は出かける準備をしていた。

コンペ通過に向けて、様々なジャンルの最新のトレンド情報を集めようと考えていたのだ。準備を終え、玄関のドアノブに手をかけたところにヒロキが声をかけてきた。

「おはよー。あれ?優海、どこか行くの?」

「ヒロキ、おはよう。うん。林宿と渋川。」

優海がそう答えると、ヒロキが目を輝かせた。

「林宿!?テレビで見たことあるよ!最新の食べ物とかファッションが集まっているところだよね!道路に人が密集していて一瞬お祭りかと思ったよ!へえ~、いいなぁ~。」

「うん。そうね。よく知っていたね。」

優海はヒロキの言葉を適当に聞き流し、適当に会話をしていた。この時点でヒロキが一緒に行きたがっていたのはわかっていたが、コンペ通過に向けての情報収集による外出の為、できれば一人で行きたかったのである。

「じゃあ、行ってくるね。悪いけど留守番よろしく。」

「ま、待って!優海!」

ヒロキは優海の手首をガシッと掴んだ。

「お願い!僕も連れてって!林宿と渋川に行ってみたい!!」

「(うーん、やっぱりそうきたか…。)ヒロキ、申し訳ないんだけど、今日はやることがあって出かけるから、また今度一緒に行こう?」

「優海の邪魔をしたり、困らせるようなことは絶対しないから!お願いお願い!ねっ?ねっ?」

ヒロキは手のひらを合わせてお願いポーズをしながら、上目遣いで優海を見た。

「(そ、そんな潤んだ目に上目遣いで見られたら断れないじゃない!ズルい!)」

ヒロキは優海にお願い事をするときは一気に甘えん坊な犬になる。優海はそのことを認識していながらも、その表情には抗えなかった。

「はあ…。わかったよ。」

「やったぁ!」

「ただし!これから行く場所は人が沢山いるところだから、勝手にいなくならないこと。約束。」

そう言いながら優海は右手小指をヒロキに向けると、ヒロキは小指を絡ませた。

「指切り拳万嘘ついたら針千本飲ます。指切った。」

「えっと、約束破ったら針千本飲まなきゃいけないの?」

「うん。そーだよ?」

「そうなの!?」

「そう。だから出かけている間は勝手にいなくならないでね。」

「う、うん。わかった。」

優海はヒロキからの質問に淡々と答えた。怖気ついてしまいながらも、これから初めて見る外の世界にワクワクが止まらないヒロキは、優海との約束を守れる自信がなかった。


出発してから4時間後…。

「(ヒロキ…!どこ!?)」

優海は渋川の町を走り回っていた。あれ程約束したのにヒロキがいなくなってしまったのだ。先に林宿に行ったときは、おとなしくついてきていたからもう勝手にいなくなることはないだろうと思い、完全に油断していた。服を見ることに夢中になってしまい、ヒロキに意識が向かなくなった結果、ヒロキを見失ってしまったのだ。

「(あぁ、もう、私のバカ!コンペのためとはいえ、服に夢中になりすぎでしょ!というか、ヒロキも勝手にいなくなるなんて信じられない!とにかく、この街はあまり治安が良くないから、日が暮れる前にヒロキを見つけなくちゃ!)」

角を曲がったところで、優海は何かにぶつかった拍子にしりもちをついてしまう。

「いったぁ…。」

「よぉ、姉ちゃん。随分派手にぶつかってくれたじゃねぇか。」

優海が鼻とおしりをさすっていると、上からドスの利いた声が聞こえてきた。恐る恐る顔を上げてみると、強面の男性が三人、優海を睨みつけながら立っていた。

「すっすみません。」

優海は男達の圧力にすっかり怯えてしまっていた。

「お前がよそ見してぶつかってきたから、兄貴が足を痛めてしまったじゃねぇか。」

「慰謝料払えよ!」

取り巻きの男たちに罵声を浴びせられ、ますます恐怖心が膨らんだ優海は、下を向き今にも泣きだしそうになっていた。その時だった。

「ねぇ。」

聞き覚えのある声に顔を上げると、男達の後ろにヒロキが立っていた。

「ヒロキ!」

「一人にさせてゴメン!少しだけ待ってて。」

「お前、この女の連れか?」

「それが何?」

「この女が兄貴にぶつかってきたせいで、兄貴が足を怪我したんだよ!どうしてくれるんだ!」

「だからって、屈強な男三人がかりで女性一人を責めるなんてみっともないって思わないわけ?同じ男としてあんた達の行為が恥ずかしいよ。」

ヒロキの言葉に憤慨した男達はヒロキに殴りかかってきた。

「てめぇの生意気な面と口、めちゃくちゃにしてやるよ!」

「ヒロキ!」

場の殺伐とした雰囲気と男たちの気迫に耐えられなれなくなった優海は、思わず目を閉じ、耳を塞いでしゃがみ込んでしまう。

「暴力はしたくなかったけど…、そっちがその気で来るなら僕もそうさせてもらうよ。こっちは時間がないからね!」

この言葉が耳を塞ぐ前に優海が最後に聞いた言葉であった。

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