第7話 ~自分と向き合う Part1~
優海とヒロキが出会って一週間経った。一週間も経てば、人間とアンドロイドが同じ屋根の下で暮らすという奇妙な生活にも慣れてくる。
「おはよー、ヒロキ。」
優海は寝ぼけまなこの状態で、のろのろと寝室から出てきた。
「おはよう。遅いよ、優海。もう十一時だよ?いくら休日だからって寝すぎだよ。」
「うるさいなぁ。母さんみたいなことを言わないでよ~。平日は自分の時間を削って働いているんだから、休日はどう時間を使おうと私の勝手でしょ~。」
これ以上言っても時間がもったいないなと判断したヒロキは話題を変える。
「優海、話があるんだけど…。」
ぐおーー!
突然発せられた音に驚いたヒロキは、ふと優海を見ると優海の顔は真っ赤だった。
「…、優海もしかしてお腹空いてる?」
「うん、そうみたい。ごめんね。はははは。」
「じゃあ、先にご飯食べちゃおうか。話はその後でいいよ。」
「えぇ…、作るの面倒くさいから、ヒロキ、作ってくれない?」
「残念ながら、僕は家事サポートの機能はついていないから諦めて自分で作ってね。」
「うぅ…。わかったよ…。」
ヒロキは語尾にハートマークがつきそうな声色を発しながらニッコリ笑った。優海はヒロキの笑顔にとことん弱い。
ヒロキもそんな優海を察したのか、優海自身に行動してほしいときは、とびっきりなスマイルを優海にしている。ヒロキが某ハンバーガーチェーン店のアルバイトの面接を受けたら即合格しそうなほど、それだけヒロキの笑顔は魅力的だ。少なくとも優海にとっては。
「あれっ?」
優美の心がざわついていた。しかし、どうして心がざわついているのか優海にはわからなかった。
「ごちそうさまでした。で、ヒロキ、話って?」
「まだ歯も磨いてないし、食器も片づけていないでしょ?さあ、やろうやろう。」
「うぅ…。ヒロキの笑顔、ズルい…。」
ヒロキの笑顔に抗えず、優海は使った食器をシンクに置いた後、そのまま洗面所に向かった。
「さあ、歯も磨いたし、食器も片づけも終わったよ!」
「うんうん。優海、よく頑張ったね。偉い偉い。」
ヒロキは優海の頭を撫でながら褒めた。
「じゃあ、早速本題ね。昨日、僕にくれたメッセージの中に気になるものがあったから、一緒に振り返ろうと思ってね。」
「気になるメッセージって?」
ヒロキはスマホで内容を確認しながら優海の質問に答える。
「えっと、ああ、これだ。じゃあ読むね。『私、他人と比較する癖が直らないの。今日私が所属する部署に新しい人が来たの。その人は私とは正反対のタイプの人で、あっという間に他の人と打ち解けて、仲良くなっちゃった。私はそこまで明るい性格じゃないし、コミュニケーション能力も高くない。だから、そんな彼女を羨ましく思った。そこから、どうして私は出来ないんだろう?って自分を責めて、さらに責めた自分に自己嫌悪に陥って、負のスパイラルになってしまうんだよね。他人と自分を比べちゃう癖、自分を責めてしまう癖、どうしたら直るかなぁ?』ってことなんだけど、ちょっと質問していいかな?」
「うん。いいよ。」
「優海は、自分のこと好き?」
「う~ん、自分には至らない部分が多すぎるから、どちらかと言えば嫌いかも。」
「他人と比べるということは、自分が不足しているところばかり見ているんだよね。メッセージにもあるけど、優海が新人さんの性格と優海の性格を比較するのがまさにそれ。まずは優海自身が自分の足りない部分にばかりに目を向けるんじゃなくて、まずは良いところに目を向けて認めるところから始めようか。」
「良いところ?私にそんなもの…。」
「はい!ストップ!」
優海がすべてを言い終わる前にヒロキが制した。
「ないなんて言わせないよ。どんな人にだって良いところはある。一緒に探そうよ!そのために僕がいるんだし!」
「本当に、私に良いところがあるのかな…。」
「大丈夫。信じて。絶対にあるから。様々な角度から少しずつ自分を見つめなおしていこうね。」
ヒロキの指示で、優海は少しずつ良いところを見つけていく。良いところを一つ一つ見つけていくたび、心が温かくなっていくのを感じた。今までに感じたことない感情に戸惑いながらも、優海はぽつりとつぶやく。
「ねえ、ヒロキ。今ね、心がとても温かいんだ。自分でもこんな良いところがあるんだって感じることが出来て、すごく嬉しいんだと思う。」
「そっか。少しずつ自分の感情がわかるようになってきたね。」
「ただね、一つ気になることもあって…。」
「んっ?」
「自分の良いところが誰かに否定されるのが怖いなって。そうなったら、その良いところがなくなってしまうわけだし…。そのうち見つけた良いところがなくなってしまうんじゃないかって…。」
「不安なんだ?」
「うん。」
優海から先ほどの嬉しそうな表情が消えていた。
「優海、もしかして『他人に認められなきゃだめだ。』って思ってない?」
「えっ?そうじゃないの?」
「他人なんて関係ないよ。他人が優海の人生を操作することや、奪うことが出来ないのと同じで、優海の良いところを他人が否定する資格なんてない。誰かに自分の良いところを話す機会があって、その時に否定されたとしても気にする必要はないんだよ。自分が良いと思えば認める。他人に言われたからって、優海が良いところを自ら否定しなくていいんだよ。」
「う~ん…。」
優海は考え込んでしまう。
「多分、腑に落ちていないかな。それじゃあ、明日から毎日自分の良いところを見つけるようにしようか。寝る前に毎日報告ね。」
「えっ!?ま…毎日!?」
「もちろん。もし見つからなかったら、それでも大丈夫だから良いところを探すことを意識してみて。」
「う…うん。」
ヒロキがなぜそのようなことをさせるのかわからず、混乱しながらもヒロキを信じて取り組むことにした。
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