第6話 ~家族と向き合う Part3~

優海は夢の世界にいた。そこは、360度霧が立ち込めていて何も見えない。

「えっ?ここどこ?確か、ヒロキに両親のことを話していたら泣いちゃって、ヒロキが励ましてくれて…それからどうしたんだっけ?」

優海は自分が夢の世界にいることに気づかず、周囲を見渡しながら今日の出来事を振り返っていた。

「ヒロキ、どこなのー?」

そう言いながら180度方向転換しようと後ろを振り返ったら、そこには死んだはずの両親がいた。

「えっ?…父さん?母さん?」

優海の呼びかけに二人はピクリとも動かず、何も言葉も発することもせず、ただじっと優海を見つめていた。そんな二人に優海は一瞬たじろいでしまったが、勇気を出して正直な気持ちを伝えてみることにした。

「…父さん、母さん。私はあなたたちを恨んでた。あなた達は自分の価値観を私に押し付けて私を意のままに操ろうとしていたよね。私がお医者さんになるように、そのために私が好きなもの全て奪っていったよね。私の好きなものを奪う度に、『あなたの為なのよ。』って言っていたよね。何が『あなたの為なのよ。』よ。私はそんなこと一切望んでいなかったのに。当時は本当に腹が立って仕方がなかった。あなた達が死んだときはホッとしていたくらいだし。」

優海は強く握りしめていたこぶしをほどいた。

「でもね、わかったこともあるの。その方が幸せな人生を送れると思ったから、そのようなことをしたんだよね。結局二人が望んだ道には進まなかったけど、それでも私、幸せだよ。好きなことで働ける。プライベートを快適に過ごせる住まいがある。おいしいものを食べることが出来る。欲しいものが買える。何よりも、こんな私を見守ってくれるヒロキや弘貴もいる。私、こんなに恵まれているんだってことに気がついたの。そう思えるようになったのは、父さんと母さんのおかげだよ。本当にありがとう。私、もっと幸せな人生を送れるように頑張るね。」

優海は泣きながらも最高の笑顔を二人に向けた。心なしか二人がわずかながら微笑んでいるように見えた。そして、二人からまばゆい光が放たれ、優海を包み込んでいった。

「う…うぅん…。」

「優海!?」

「ヒロキ…、ここは?」

「寝室だよ。優海、あの後泣き疲れて眠ってしまってたんだよ。」

「そうだったんだ。ねえヒロキ、信じられないかもしれないけど、両親に会ったの。正直な気持ちを伝えてきたんだ。」

「伝えてみて、どうだった?」

「うん、思ったことをちゃんと伝えることが出来たよ。なんだか今まで感じたことがないくらい、心がとても軽くなった気がするし、清々しいかな。」

「(思わぬ展開だったけど、どうやら両親に対して自分の気持ちと向き合えたみたいだね。)そうなんだ、よかったね。」

「ヒロキ、父さんと母さんの話を聞いてくれてありがとう。写真を破ってしまったのは少し後悔しているけど、今でも心の中で生き続けているから、この想い出たちを忘れないようにこれからも過ごしていくよ。」

「今日は一生忘れられない日になるね。」

「うん。」

出会ってからまだ一日しか経ってないが、優海の顔つきが少し明るくなっていた。その表情を見たヒロキは、恋愛サポートアンドロイドとの立場とは別の感情が芽生え始めていることにまだ気がつかなかった。

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