第5話 ~家族と向き合う Part2~
「結論から言うと、両親はいない。私が中学二年生の時に死んだの。交通事故だった。」
「そうだったんだ…。ご両親はどんな人だったの?」
「二人とも、自分の思い通りにならないとヒステリックになる人達でね。怖かった。だから、私、いつも二人の機嫌を損ねないようにいつも気をつかいながら生活してた。」
優海の表情がだんだん悲しみに歪んでいくのを見ていたヒロキは、泣いている子供をなだめるような優しい口調で優海に話しかける。
「優海は、ご両親に言われた言葉や行為で傷ついた出来事ってある?」
「父さんと母さん、お医者さんだったの。だから私を医者にさせたくて勉強ばかりさせられてたっけ。だから勉強の時間を削られるからって言われて、大好きなゲームを目の前で壊されたときはショックだった。他にもテストの点数が低いと『なんでこんな問題が解けなかったんだ!』とか、『私達は、優海が馬鹿な人間になってもらうために育てたんじゃないのよ!』なーんて言われてね。親の医者になってほしい想いと、期待に応えられなくて私に芽生えた色々な負の感情が雁字搦めになって、…辛かった。」
「うん…。」
「もちろん、死んだ時は本当に悲しかった。だけど同時にほっとした気持ちもあったの。親が死んでほっとしている娘なんて最低よね…。」
「自分を傷つけるようなことをしたら、相手が誰であってもそういう気持ちになること、僕はあると思う。…ねえ、優海。ご両親の写真がない理由を教えてもらっていいかな?」
優海の話を聞いていくうちにヒロキの中でなんとなく理由が見えていたが、念のため聞いてみた。
「正直、父さんと母さんには恨みの気持ちしか残っていないの。だから、感情の赴くまま破って捨ててしまったの。」
「そっか…。」
「はぁ、両親が死んでからもう10年以上たっているのに、結局私の心は両親に縛られているなぁー。」
優海は少しでも気分を明るく振舞おうとしていたが、その反面、目から涙が溢れていた。
「あ、あれっ?なんで?どうして涙が出るの?お願いだから泣き止んで…。」
そう言いながら涙を止めようと必死に目をこすっていたが、ヒロキは優海の手を下ろし、ティッシュで涙を拭いた。
「教えてくれてありがとう。もう大丈夫だよ。今まで本当に辛かったね。よく頑張ったね。僕がそばにいるから、泣きたくなったら気が済むまでいっぱい泣いていいよ。」
そう言いながらヒロキは優海を抱き寄せ頭を撫でると、ダムが決壊したように、優海の中の感情が再び涙になって一気にあふれ出した。
「うぅ…。うわーーん。」
優海はヒロキにすがり、ヒロキのシャツを瞬時に濡らすほどの涙を流した。
「よしよし…。」
ヒロキは優海の30年分の感情を受けとめながら、ただただ優海の頭を撫でていた。
優海はあれから泣き疲れてしまったのか、眠ってしまった。ヒロキは優海の手を握りながら、優海が両親のことを話していた時の様子や内容を振り返っていた。
「やっぱり、幼いときの家庭環境がよろしくないと大人になっても引きずるんだね…。ゲームを壊されたことや否定的な言葉を浴びせられたことを話していた時が、優海一番辛そうだったな…。」
「うっ…。」
優海はうめき声をあげたが目が覚める様子はない。
「悪い夢でも見ているのかな?」
ヒロキは心配そうに優海を見つめていた。
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