第25話 ~ヒロキと弘貴のココロ~

その頃、ヒロキはどうしているかというと、お役御免で廃棄された…わけではなく、恋愛向上委員会でカウンセラーと事務仕事を兼務していた。今日はいつも以上に相談者がたくさん来ていた。

「ふぅ…。今、恋愛で悩んでいる人ってたくさんいるんだなぁ…。」

今は、屋上で缶コーヒーを飲みながら休憩中だ。

「…優海、弘貴クンとうまくやれているかな。コンペもどうなったのか気になるし…。」

「ヒロキ。」

背後から本田が声をかける。

「本田さん、どうしましたか。カウンセリングの応援要請ですか?」

本田は神妙な面持ちでヒロキにこう言った。

「僕は回りくどいことが嫌いですのでストレートに言います。最近、事務業務でミスが目立ちますが、何かありましたか?」

「申し訳ございません。ミスした時はメモを取り、同じミスをしないように気をつけようと意識しているのですが、どうも集中できなくて…。」

「プログラムの異常とか、そういう感覚はありますか?」

「いえ、そういった感覚はありませんね。」

「そうですか。ひろき、優海さんを素敵な恋愛に導くことが出来たとしても、自分のことが見えていなければ意味はないと僕は思います。ヒロキも普段から自分を見つめなおすことを忘れないでくださいね。」

「はあ。わかりました。」

ヒロキはそう答えながらも、本田の言葉の意味を理解していないようであった。


次の休日、優海は県境付近に新しくできたショッピングモールに来ていた。海老原橋より規模は小さいが、海老原橋にはないアパレルの出店があるという情報を得たからである。

「さあ、やってきたよ!どんなお店に出会えるのか、楽しみだなぁ♪」

優海は、意気揚々とモール内に足を踏み入れた。

「さて、まずはパンフレットっと。あっ、あった。」

普段の優海は効率よく店を回ることを重視しているため、新しい場所に行くときは、予めインターネットで調べながら、どのように回るか決めるようにしている。

だが、今回はしなかった。もちろんキャラクターデザインの服を参考にしたい気持ちもあるが、純粋に楽しみたいという気持ちが上回ったからだ。

「うーんと、三階建てで横がだいぶ長いね。とりあえず三階から回ろうかな。」

優海は軽い足取りで三階に向かった。


そんな優海を後ろから見ている人物がいた。弘貴だ。

弘貴は優海がキャラクターデザインのコンペが終了した後にどんなデートをしようか考えているうちに、このショッピングモールの情報を入手し、下見を兼ねて足を運んでいた。弘貴は優海に声をかけようと思ったが、

『コンペに集中したい』

という優海の言葉を思い出し、声をかけるのをやめていた。だが、

「コンペに集中したいっていうから会うのを我慢しているのに、来るんだったら誘ってくれてもよかったんじゃないか?」

と優海に対して不満の思いが湧き上がる。負の感情に取りつかれた弘貴は下見をやめ、優海のあとを追った。

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