第26話 ~誤魔化せないキモチ~
ある程度モール内の店舗を回った優海は、レストラン街でランチを取ることにした。
「はあ♡今回もたくさんの服に出会えたなぁ。やっぱり人が集まるところに行くと、いい刺激になるよね。あの服はあのキャラに似合いそうだし、あのキャラクターはパステルカラーでまとめるのもアリかな~。あのキャラは心が広いけど芯が強いから大きい体格より、シュッとした方が良いかも。さっき行ったアパレルの店員さんの体格がちょうどいい感じかな~。」
とパスタをほおばりながら、キャラクターの構造を考えていた。
一方で、弘貴は反対側の店で優海を観察していた。
「どうして?どうして、優海はそこまで頑張れるの?どうして希望を持てるの?どうしてそんなに楽しそうなの?」
優海に対して疑問がどんどん湧き上がってきたのと同時に、
「僕と一緒にいるときより楽しそうじゃないか…。それなら僕と一緒にいる意味なんてないんじゃないのか…?」
弘貴の心は、疑問と一緒に嫉妬や絶望がグルグルと駆け巡っている。こうなってしまうと、弘貴は自分の気持ちと思考にブレーキをかけることが出来ない。
「僕は…、僕は、優海にとってどういう存在なんだろう?」
そんなことを考えながら改めて優海に目線を向けると、優海は会計を済ませようとレジに向かっているところであった。弘貴も急いで会計を済ませ、優海を追いかけた。
「さあ、早く帰ろう!せっかく浮かんだアイディア、形にしなくちゃ。」
ランチを食べながらキャラクターのアイディアがまとまった優海は、自宅でアイディアを形にすべく早足で駅に向かっていた。
エスカレーターでなんとなくフロアを見渡していると、優海の心臓が激しく跳ねた。見覚えある人物がいたからだ。
「あれは…、まさか!」
その人物を追うため、優海は猛ダッシュでエスカレーターを駆け下りていった。
「すみません、ごめんなさい。」
優海は人混みをかき分けながら、ただひたすら走り続ける。
「ヒロキ!」
優海は名前を叫びながら、その人物の腕を掴んだ。ヒロキが笑顔で振り向いてくれることを期待していたが…。
「あの…。」
「!…ご、ごめんなさい。人違いでした。」
優海は呆然としながら男性の後姿を見送った。
「いつまでヒロキを追いかけているの?弘貴と関係を築いていくって決めたじゃない…。」
改めて自身の決心をつぶやいたにもかかわらず、目から涙が溢れてきた。
「…っく、うぅ…。」
優海はその場に座り込んでしまうのであった。
弘貴は一部始終を見ていた。そして、怒りで身体を震わせていた。
「今、僕は何を見ていたの?優海は追いかけていた人に対してヒロキさんの名前を呼んでいた。優海は僕よりもヒロキさんが好きってこと?じゃあ、どうして僕の告白を受け入れてくれたの?僕のどういうところを好きになったの?」
優海と話さないと結論が出ないことを弘貴はずっと考えていた。
「…はあ。もう帰ろう。考えすぎて疲れたよ…。」
普段の弘貴だったら、優海に手を差し伸べて優しく抱き寄せていたかもしれない。だが、今はとてもそんな気分になれなかった。その場を去った弘貴の背中は、ひどく寂しそうであった。
弘貴がそばにいたことに気がつかず、体中の水分がなくなるのではないかというほど、優海はひたすら泣いていた。
「はあ。帰ろう。」
優海は重い腰を上げ、よろよろした足取りで駅に向かった。しかし、一度胸にしまい込んでいたヒロキへの想いは、今回の出来事でコップから水があふれるように止まることはなかった。ショッピングモールであれ程泣いたのに、電車の中でも涙が止まることを知らない。優海の様子に気がついた乗客達が発した気まずいに車内の雰囲気はどんよりしていくのであった。
部屋に到着した優海はそのままベッドに倒れ、そのまま眠りについた。そして、目が覚めたのは次の日の朝だった。
「うぅ~ん…、寝ちゃったか…って今何時!?…あっ、今日、日曜日じゃん。よかった…。」
優海は、朝ご飯、歯磨き、片づけを済ませ、デザインを再開した。
「ここは…、もう少しフリルつけた方がいいかな?このキャラクターはショート安津にしてレギンスにした方が活発になるかな?でも、ボーイッシュなキャラクターでもないのよねー。」
ヒロインのキャラクター像に悩んでいると、弘貴からメッセージが来た。
『調子どう?』
『うーん、まあまあかな。イメージも固まってきたと思う。』
優海はすかさず返事を出す。
『応援しているから、頑張れー!』
『ありがとう。弘貴。』
弘貴とは短いながらも毎日メッセージのやり取りをしている。メッセージのやり取りをしている時間が、優海にとって癒しであり、ガソリンにもなっていた。やり取りを見返し、改めて元気になった優海は、
「よし!コンペ通過に向けて頑張るぞー!」
こうして、優海は二か月間奮闘し、10キャラクターのデザインを完成させたのであった。
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