第24話 ~決別と違和感~
「うぅん…。」
ふとスマートフォンで時間を確認すると、画面には17:00と表示されていた。泣き疲れてそのまま眠ってしまったようである。
「そっか。いつの間にか寝ちゃったんだね。」
優海は目線を下に向け、ノートに書いた内容を見返した。
「…ヒロキのことが好き。だけど、いなくなってしまった以上どうすることもできない。弘貴も私にとっては大切な人だし、せっかくの関係がなくなるのは嫌だな。ヒロキのことは想い出として心の中にしまっておいて、弘貴と関係を築いていくことに専念しよう。うん。」
優海は過去の恋心ではなく、これからの関係を選択したのであった。
次の週末。弘貴と付き合い始めて初めてのデートだ。
前回と同様、海老原橋のショッピングモールでウインドウショッピングをし、モール内のレストランで食事をしていた。
「そっかぁ。もうすぐコンペなんだね。」
「そうそう。主人公のキャラクターデザインも提出したから、あとは結果待ち。はあ~、ドキドキする~。」
「このコンペに通れば、そのプロジェクトのキャラクターデザインの部署に行けるの?」
「ううん。一次コンペを通過した後、さらに二次コンペを通過すると、プロジェクトに配属されるよ。今回提出したのは一次コンペね。」
「一次コンペ、通過するといいね。」
そんな他愛のない会話が、優海の部屋に到着するまでずっと続いていた。
「じゃあ、今日もありがとう。」
優海が部屋に入ろうとドアノブに手をかけた瞬間、
「優海。」
呼び止められ振り向くと、弘貴の顔が少しずつ近付いているのがわかった。
「(こ、これは、弘貴、キスしようとしてる…?)」
「優海?どうしたの?」
優海は顔を逸らしていた。
「(あれ?どうして?)ご、ごめん、弘貴。今はそういう気分じゃなくて…。」
「そ、そうなんだ。僕の方こそ、ごめんね。気持ちが先走っちゃったみたい。」
「…。」
「…(き、気まずい!)。」
何とも言えない空気感にいたたまれなくなった優海は口を開く。
「じゃ、じゃあ、今日はこれでお開きってことで。今日もありがとう、弘貴!バイバイ!」
自身の行動に対して動揺を隠すように、優海は急いで自宅に入った。
「ちょっ…、優海!?…おやすみ。またね。」
弘貴は、優海の行動を不思議に思いながらマンションを去るのであった。
三日後、優海は上司に呼び出されていた。
「今日もお疲れ様。早速、一次コンペの結果を伝えるわね。」
「はい。」
「…。」
「…。」
とあるクイズ番組の解答発表を待っている時のような重苦しい雰囲気が、優海と上司を包み込んでいた。
「…おめでとう!どちらのプロジェクトも一次コンペ通過よ!」
「えっ!?本当ですか!?しかもどちらも!?」
「そうよ、よく頑張ったわね!」
「あっ、ありがとうございます…。もう、嬉しすぎて…。」
優海は、泣きながら喜びをかみしめていた。
「お待たせしてすみません。二次コンペの詳細を教えていただけますか?」
優海は落ち着きを取り戻していた。
「二次コンペは、どちらのプロジェクトも一次コンペでデザインした、主人公以外の主要キャラクターのデザインよ。どちらのプロジェクトも主人公を含めて6人。この資料に書いてあるキャラクター情報を基にデザインしてね。提出期限は二か月後の月末まで。二次コンペの詳細は資料に記載があるから、確認お願いね。」
「主人公以外のキャラクターとなると…、あと10人デザインしなければならないのですね。わかりました。」
「二か月で10人のキャラクターデザインをするのは大変だと思う。体調管理には十分気をつけもらいたいけど、辛くなったら遠慮なく言ってね。じゃあ、頑張って!」
「はい!ありがとうございます。」
上司の表情、口調、仕草、全てにおいて自分の夢を応援してくれていると察した優海。やさしさに感動、感謝をしながら、改めて仕事とコンペ通過に向けて精進することを決心したのであった。
「おー、一次コンペ通過おめでとう!」
「ありがとう、弘貴!結果を知った時、物凄く嬉しかったよ。」
優海は弘貴と電話で話していた。一次コンペ通過の知らせから興奮状態が継続していたのだ。
「うんうん。電話越しでも嬉しいのが伝わってくるよ。次会うとき、優海の嬉しい顔が見れるんだね。」
「…あー、ちょっと悪いんだけど、二次コンペの内容が膨大すぎるから、作品提出が完了するまでコンペに集中したいの。」
「…えっ?それって期限はどれくらいなの?」
「二か月くらいかな。」
「二か月も優海と会うことが出来ないということ?」
「そういうことになるね。本当にゴメン!!このコンペ、必ず通過してキャラクターデザインの仕事をしたいの!」
「…そっか。じゃあ仕方がないね。わかった。頑張ってね。」
弘貴はしばらく優海に会えなくなる事実を受け入れることが出来ず悲しい気持ちだったが、優海の熱意に根負けするような形で受け入れた。しかし、これがきっかけで弘貴が少しずつ不満をため込んでいることをお互い知る由もなかった。
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