第23話 ~優海の本当の気持ち~
しばらく時間が経過し優海が再び目を覚ました。時間を確認すると、普段家を出発する時間だが、出発する気力が湧かなかった。優海は、スマートフォンを持ち上司に電話をかける。
「もしもし。」
「もしもし、おはようございます。持田です。申し訳ございませんが、本日体調がよくないのでお休みさせていただきたいです(嘘です。本当にごめんなさい。)。」
「うん。わかった。持田さん、有休使う?今年度になってから一度も使っていないよね?」
「そうでした。では有給使います。」
「了解。じゃあ、ゆっくり休んでね。コンペも近いから、無理しないように。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
「お大事に。」
優海は後ろめたさを感じながら、通話を終了した。
「…仕事をサボるなんて初めてだな…。心の整理をしようかな。どうしてこうなったのか全く分からない。」
優海はぶつぶつ独り言を言いながら、ダイニングの扉を開く。
『優海、おはよう♪』
「おはよう、ヒロキ。って、嫌だなぁ。ヒロキはもういないのに何言ってるんだろう。幻聴まで聞こえるなんて…。」
ハッと我に返りながら自己嫌悪に陥る優海。こんな気持ちになるのも久しぶりだった。それだけ今までヒロキと取り組んでいたワークが功を奏していたのだろう。ダイニングテーブルの椅子に座り、ノートを広げ、ボールペンを持った。優海が見つめなおすことは、
1. ヒロキに対して正直な気持ち
2. 弘貴に対して、違和感を覚える理由
この2点だ。
優海は、まずヒロキに対して正直な気持ちに取り掛かった。
「ヒロキは恋愛サポート型アンドロイド。恋愛向上委員会が開催している無料相談会で記入したアンケートをもとにプログラミングされたもの。そのおかげか、見た目も性格も本当にタイプなんだよね。感情とか物事に対する考え方とかだけじゃなく、皮膚の質感も本物の人間みたいだったなぁ。コードもかなり細かそうだし、仕様書も見てみたい…って、そうじゃない!」
物珍しいシステムを見たとき、そのシステムのコードや仕様書を見て詳しい仕組みを知りたくなるのは、システムの開発のお仕事をしていると、よくあること…だと思う。
「えっと、ヒロキにはいろいろ情けないところを見せちゃってたなぁ。他人に自分の本性や弱みをさらけ出すなんて、悪いこと、恥ずかしいことって思ったけど、ヒロキは受け入れてくれたんだよね。そこから、弱くてもいいんだ。見せてもいいんだなぁ。って気がついて、一気に心を開いたんだよね。ワークも楽しく取り組むことが出来たから、これからどう過ごすか、何を改善するべきか見えてきたから、生きることも楽しくなってきたし。キャラクターデザインの研究の一環として、何度か一緒にお出かけもしたっけ。ただただ楽しかったなぁ。ヒロキは外の世界が初めてだったから、すぐにどこかに行こうとするから、それで私がイライラしてしまって。でも、ヒロキがいなくなった理由を知った時、申し訳ない気持ちで泣いちゃったんだっけ。そのとき、相手の行動の理由を考えることの大切さを教えてくれた気がする。なんかな~。弘貴よりヒロキの方が自然体でいられる気がする。」
ふりかえっていくうちに重大な事実に優海は気づく。
「んっ?そもそも弘貴と付き合えて嬉しいハズなのに、ヒロキがいなくなって悲しい気持ちの方が上回っている…?ということは、私、本当は…。あぁ、そっか。私、弘貴よりヒロキの方が好きなんだ…。はは…。認めざるを得ないね…。」
優海の目から大粒の涙が流れてきた。涙は止まることなくノートを湿らせていく。
「いや、泣いちゃダメ!弘貴と付き合うことに決めたじゃない。ヒロキのことは忘れなきゃ…!」
そう決心した時、ヒロキとのやり取りが脳内によみがえる。
『沸き上がった感情をごまかすとか、蓋をしちゃだめなんだよ。』
『どうして?』
『嬉しいとか楽しいなどのポジティブな感情を感じられなくなるからだよ。特にネガティブな感情が沸いたら寄り添ってあげてね。』
「…ヒロキがいなくなって悲しい。会いたい。なんで、もっと早く自分の気持ちに気がつかなかったんだろう。今更、気持ちを伝えたいって思うなんて…。うぅ…。」
優海は再び泣き崩れてしまった。
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