第22話 ~恋愛サポート型アンドロイドとは~
「ただいまー。んっ?」
いつもならヒロキが犬のごとく駆け寄ってきて、屈託のない笑顔を向けるのに、それがないことに不思議に思った優海は急いでダイニングに向かった。
「ヒロキ!?」
勢いよくダイニングの扉を開け明かりを点けたが、ヒロキはそこにいなかった。優海は寝室やトイレ、お風呂場もくまなく確認したがヒロキの姿は見えない。
「ヒロキ、どこに行っちゃったんだろう?痛っ!?」
鈍い音とともにダイニングテーブルの脚に足の小指をぶつけてしまった優海は、その場でうずくまってしまう。
「くぁ~。もう痛い、痛すぎる…。」
悶絶している優海の目の前に一枚の封筒が落ちてきた。封筒には『優海へ』と書いてある。
「手紙?もっ、もしかして…!」
優海は封を開け、内容を確認した。手紙はやはりヒロキが書いたものである。
『優海へ
優海がこの手紙を読んでいるということは、僕はもう優海の前からいなくなっているよね。驚いたかな?先に謝らせて。何も言わずに優海の前からいなくなってゴメン。
僕は依頼主(つまり優海)が幸せな恋愛を出来るように導くことが役目なんだ。だから、弘貴クンに付き合う意向を伝える今日にお役御免ということで出ていくことにしたんだ。役目を終えた恋愛サポート型アンドロイドは、依頼主の意思関係無くいなくなる決まりだから、突然のことになるけどわかってもらえると嬉しい。
優海の情報は予めプログラムに組み込まれているから把握はしていたけど、思った以上に自己否定の塊だったから正直驚いた。アドバイスをしても二言目には「だって」とか「でも」ばかり言うし、褒めても「そんなことない」とか「そんなの出来て当然だよ。」って謙遜ばかり言うから不安だった。優海を幸せな恋愛が出来るように導けるかどうか。どうアプローチすれば優海の自己否定が少しでも良くなるか、自身を持てるようになって優海が優海自身を好きになるか、そのことばかり考えてたなぁ。優海、人見知りだから、僕にどれくらい打ち解けてくれるか気が気じゃなかったし。』
「はは…。ゴメン、ヒロキ。その通りだよ…。」
『優海も僕の存在に戸惑っていたと思う。そんな中でも、ワークを一生懸命こなしてくれて嬉しかった。最初はやる気がなかったようだけど、やっていくうちに腑に落ちたのかな。自分の人生を変えたい。優海のその想いが伝わっていたよ。』
「うん…。今まで経験したことない考え方で、物凄く新鮮だった。やっていて楽しかったし、人生が少しずつ好転していくのが本当に嬉しかったっけ。」
『優海が課題に一生懸命取り組んでくれたから、優海自身でやりたいことを見つけることが出来たんだし、弘貴君と付き合うことが出来たんだよ。だから、これからも自分に自信を持って、自分の心に正直に生きることを忘れないでね。あと、今まで行ってきたワークは継続的にやるんだよ。人って不思議でね、価値観が根本的に変わらなければ以前の自分に戻ってしまうから。』
「そうだね。引き続きワークは継続するね。」
『それじゃあ、最後に。コンペ頑張って!弘貴クンとお幸せに!それじゃ! ヒロキ』
ヒロキからの手紙を読み終えた優海の目から涙が流れてきた。
「あれ?どうして涙が流れるんだろう?」
ヒロキが優海のもとから去ったということは、優海が精神的に成長したということになる。それは大変喜ばしいことなのに、なぜ涙が流れるのかわからず、止めることもできなかった。
『ピピピ、ピピピ、ピピピ…』
スマートフォンのアラームで起こされた優海。気がついたら泣き疲れて眠ってしまい、そのまま朝を迎えていた。
「そうだ、今日、月曜日だった。」
一気に現実に引き戻された優海だったが、起き上がる気分になれず、再び眠りの世界に誘われた。
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