第21話 ~優海の想い Part2~
優海の案内で絶景が見える公園にやってきた。
「おおー!確かに絶景だね!」
「うん。カフェで話してもよかったんだけど、大事な話だし、大勢の人に聞かれるのは嫌だったからね。いろいろ探していたらここにたどり着いたんだ。」
『大事な話』。この言葉に反応し、弘貴の身体に緊張感が駆け巡っていく。落ち着こうと生唾を飲み込んだと思ったら、汗をかいた手のひらをスーツのズボンに皺が出来てしまうくらいこれでもかとつかんだ。そんな弘貴の様子に気がついた優海は、なんとか弘貴を落ち着かせようと声をかける。
「ちょ…ちょっと、弘貴が緊張しなくていいじゃない。」
「ゴ…ゴメン。なんか急に意識しちゃて…。」
緊張していることを指摘された弘貴の声は上擦ってしまっていた。その声を聞いた優海の緊張度は一気に高まり、心臓の鼓動が急にうるさくなる。何とか落ち着かせようと深呼吸をし、話を切り出した。
「弘貴、私ね、あたり前だと思っていたの。弘貴の存在が。」
「どういうこと?」
「私達って赤ちゃんの時から常に一緒で…って言っても、赤ちゃんの頃の記憶なんて正直ないんだけど。ずっと一緒に遊んで、同じ幼稚園に入園して、小学生、中学生と進学しても毎日一緒に登校して、何でも話す仲だった。常に一緒にいることが当たり前だと思っていたの。」
「うん。」
「ただ、中二の夏に両親が亡くなってから私の生活は一変した。学校のみんなに…弘貴に挨拶することが出来ないまま引っ越してしまったのが、ずっと心残りだった。」
「うん。」
「引っ越した後も出会った男性全員、弘貴を重ねるようになったの。告白された男性は私が相手に対して不快じゃなければ付き合っていたんだけど、やっぱり長続きしなかった。」
「そうだったんだね。」
弘貴は優海の話を一言も漏らすまいと真剣に聴いていた。
「当時は本当に無意識だったから男性と弘貴を比べている自覚がなくて、その時付き合っていた人には本当に申し訳ないことをしたなって…ははは。」
「今まで付き合っていた男性と別れたのって、どちらから切り出したことが多かったの?」
「私。判断基準が弘貴と過ごした日々になっていたから、それにそぐわなかったらすぐに分かれてた。ちなみにこれも無意識。」
「今まで付き合っていた人と僕を比べていたって気がついたのは、いつ頃なの?」
「弘貴に告白されたときかな。だからつい最近。返事どうしようかと考えていた時、今までの人生を振り返っていたの。その時『あぁ、私は常に弘貴の影を追いかけていたんだな。』って。だからどんな人と付き合っても弘貴を上回る人が現れなかった。だから、二年前にまた再開した時は神様が仕組んだ悪戯なのかと思ったよ。」
「優海…。」
「まぁ、そんなわけで、私の中で弘貴はとても大切な存在ってことに気がついたの。だから、よろしくね。弘貴。」
優海はそう言いながら弘貴に右手を差し出した。弘貴は状況を理解できていないようで、表情がポカンとなっている。
「どうしたの?弘貴?」
「えっ?えっと、僕と付き合っていいってことだよね?」
「もっちろん!」
優海はヒロキに教わった、とびっきりスマイルを弘貴に披露した。それを見た弘貴は、うずくまってしまう。
「ひ、弘貴…?大丈夫?」
弘貴がなかなか顔を上げようとしない為、優海がそう言いながら弘貴の肩に触れてみると、弘貴は小刻みに震えていた。
「弘貴?」
「やっ、やったぁー!」
弘貴はそのまま優海を抱きしめた。
「弘貴、ひょっとして泣いてる?」
「うん。だって、嬉しいんだ。長年の恋が実って。優海に告白してからこうして返事をもらえるまで本当に気が気じゃなかった。」
『長年…?』
その言葉が心の中に引っかかっている優海だが、今は大切な人と心から結ばれた喜びをかみしめていた。
しばらくして二人の身体が引き離され、見つめあう二人。
『こ、この流れは、キ…キスするの!?』
って思ったが、弘貴はこういった。
「さて、優海も明日は仕事だし、今日はこれで帰ろうか。送るよ。ほら。」
「うん。ありがとう。」
何となく拍子抜けしてしまったが、今つながれている二つの手は、先週つながれたときの手より、やけどをするほど熱く感じたのであった。
二人は優海のマンションの部屋の前に到着した。
「(あれ?部屋の電気が消えてる。ヒロキ、もうスリープモードになったのかな?)じゃあ、今日も送ってくれてありがとう。またね。」
「うん。じゃあ、おやすみ。」
弘貴の姿が完全に見えなくなるまで見送った優海は、部屋に入ろうとドアノブに手を伸ばした瞬間、物凄い勢いで戻ってきた弘貴に抱きしめられていた。
「きゃっ!?誰!?…って弘貴?どうしたの?」
「ゴメン。やっぱり離れがたくて…。もう少しこうしてても良い?」
「うん。いいよ。」
どのくらい抱きしめられただろう。時間の経過がわからなくなっていたところにお互いの身体が離され、向き合う体勢になった。
しばらく見つめあう二人。そして弘貴が切り出す。
「優海、キ…キスしていいかな…?」
弘貴の手が震えているのが肩から振動で伝わってきた。相当勇気を出したんだろうと優海は悟った。
「うん。いいよ。」
「ありがとう。」
弘貴は緊張で震えながらゆっくりと顔を近づけていく。
顔が離れ、目を開いた二人はお互い顔が真っ赤になっているのを認識した。
「は、はは。なんだか照れるな。」
「う、うん。顔が熱いや。」
「じゃ、じゃあ、僕はこれで。」
「うん、気をつけて帰ってね。おやすみ。」
「おやすみ。」
優海は再び弘貴の姿が完全に見えなくなるまで見送り、部屋に入ろうとしたが、ふと心に違和感が芽生える。
「あれ?キスされて、とても嬉しいハズなのに…。」
心はあまり嬉しそうではなかった。なんとなくわだかまりがある感覚だ。
「弘貴は大切な人…。いなければならない人…。だよね。」
優海は心を落ち着かせて、部屋に入った。
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