第31話 ~フィナーレへ Part1~
-数分後-
「はいはい、お待たせしま…」
「優海!」
優海が気だるそうに玄関のドアを開けた途端、急に目の前が真っ暗になったと思ったら誰かに抱きしめられていた。
「優海、会いたかった…。」
声の主に聞き覚えたあった。ずっとずっと会いたかった人。その人物と過ごしていた日々が走馬灯のように優海の脳内を駆け巡っていく。
「ヒロキ…?」
ヒロキは優海の身体を離し、お互い向かい合う体制になる。
「本当に、ヒロキなの…?」
優海はヒロキの顔をペタペタ触りながら質問した。
「そうだよ。」
ヒロキは微笑みながら答えた。
「どうしてヒロキがここにいるの?本田さんは?」
「ここですよ。」
本田がニコニコしながら手を振っている。その横には狩谷もいた。
「狩谷副大臣!?どうしてここに!?」
「ヒロキさんのことでお話しがございまして。よろしければ中に入れていただきたいのですが…。」
「あっ、わかりました。どうぞ。」
優海は、ヒロキ、本田、狩谷を部屋に招き入れた。
ヒロキ達をダイニングテーブルに着かせたところで、優海は話を切り出した。
「実はですね、約一か月前に本田君から電話がありましてね。ただならぬ様子だったのです。」
「ただならぬ様子というのは…?」
優海にとって本田は『常に冷静で相談者に的確なアドバイスをするが本性はドS』というイメージなので、『ただならぬ様子』というワードが引っかかっていた。
「本田君は、どんな相談者にも平等に素敵な恋愛が出来るよう日々取り組んでくれています。そんな中で、特定の相談者に対して情熱をもって『何としても成就させたい恋愛があるんだ』と言ってきたのですよ。」
「へぇ~、本田さんにも『情熱』という言葉が存在しているんですね。」
優海は茶化すように本田にそう言った。本田は顔を赤らめて、狩谷を制す。
「狩谷副大臣!!そこまでおっしゃらなくていいですよ!コホン。まあ、そうですよ。恋愛サポート型アンドロイドは、私が監修したものです。ヒロキは第一号というわけで、息子みたいなものなのですよ。そんな中、持田さんの役目を終えて戻ってきたヒロキの様子が明らかにおかしかった。もう、本当に心配でした。最初はプログラムにバグがあったのかと思ってヒロキが寝ている間にバグがないか確認したくらいですからね。」
ヒロキは本田の想いに驚いていた。
「本田さん、僕のことをそんな風に思ってくれていたんですか?ものすごく嬉しいじゃないですか。でも、寝ている間に中を見るのは止めてくれると嬉しいです。なんだか恥ずかしいし。言ってくだされば協力はしますから。」
本田は苦笑いをしながら、話を続ける。
「はは…。すみません。まあ、そんなこんなでヒロキの気持ちを自覚させ、さらに持田さんが付き合っていた相手と別れ、さらに新たな気持ちに気がついた。これは何もしないわけにはいかないと思いましたよ。」
普段は冷静な本田だが、だんだん話に熱を帯びてきている。
「それで持田さんと電話を終えた後、狩谷副大臣にご連絡しました。」
「では、本田君に経緯を熱く語ってもらったところで、私から今後のことについてお話ししますね。」
興奮冷めやらぬ本田とは対照的に狩谷は落ち着いた様子で話し始めた。
「本来、恋愛サポート型アンドロイドは、依頼者を幸せな恋愛に導くための存在です。見た目や性格は依頼者の好みで製作しているので、依頼者がアンドロイドに好意を抱くのはわかりますが、アンドロイドが依頼者に好意を抱くような仕様はありません。ですので、正直に申し上げると、私は本田君の言っていることが信じられませんでした。しかしながら、お二方のお話をするときの本田君は、先ほども申し上げたようにまるで別人でしたので、本当かどうか確認しに来たのですが、どうやら杞憂だったようですね。」
優海は本田や狩谷が結局何を言いたいのかわからなかった。そんな優海の様子に気がついた本田は、優海に声をかける。
「全く、あなたは何というアホ面をしているんです?」
「ア…アホ面って!もっとオブラートに言うことは出来ないんですか?」
「あなたの考えていることなんて、筒抜けなんですよ。『で、結局何が言いたいの?』とでも思っていたのでしょう?」
「あ、あははは…。」
図星を疲れた優海は笑ってごまかす。
「わかりました。それでは結論を申し上げます。ヒロキ、持田さんに伝えてください。あなたの正直な想いを。」
「はい。優海、こっちに来てくれる?」
「?う、うん。」
優海は戸惑いながらヒロキに向かい合うように立った。
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