第32話 ~フィナーレへ Part2~

「…。」

ヒロキは緊張しているせいか、言葉を発することが出来ない。

「(たった二文字言えばいいのに、なんで言えないんだ…!)」

情けなさで眉間に皺を寄せるほど目を閉じてうつむいていると、固く握られたヒロキの手に温かいものが触れた。

「ヒロキ、教えて。あなたの気持ちを。」

優海は顔を強張らせながらも、ヒロキの手を優しく握りながら言った。本当は怖い。何を言われるのか優海にとって全く想像できないからだ。

つながれた手の温もりから、ヒロキは改めて優海に対して愛しさがこみ上げてきた。その気持ちが一粒の涙となってヒロキの頬につたう。決心がついたヒロキは顔を上げ、優海の目を真っ直ぐ見た。

「僕は優海のことが好きです。大好きです。だから、僕とずっと一緒にいてくれませんか?」

ヒロキは涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。優海のことが好きなのだと自覚してから、この思いをどう伝えるか考えていた。しかしながら、いざ気持ちを伝えるとなると、ヒロキを襲ったのは不安と恐怖だった。

「嫌われたらどうしよう。」

「断られたら二度と会えなくなるかも。」

「断られたとき、傷ついた気持ちとどう向き合えばいいのだろう。」

湧き上がった負の感情と戦いながら、ヒロキは何とか優海に気持ちを伝えた。

一方、優海は一瞬何が起こったのか理解できずにいた。とりあえず、頭の中で状況を整理しながら、ダイニングテーブルに置いてあるティッシュを取り出し、ヒロキのぐちゃぐちゃになった顔に手を伸ばす。

「優海?」

優海はヒロキの涙を拭き取りながらこう言った。

「ヒロキの気持ち、痛いほど伝わってきたよ。…うん。私もヒロキのことが大好きです。だから、これからもよろしくお願いします。あと、勇気を出して告白してくれて本当にありがとう。怖かったよね。」

「うぅ~~。優海ぃ~~~~~。」

「もう、大丈夫?」

優海は優しく呆れながら、改めて顔を拭いてあげている。」

「ごめ~ん。なかなか感情が追いつかなくて~。」

「そっか。じゃあ、気が済むまで泣いていいよ。」

優海は、そう言いながらヒロキを抱きしめる。

「ぐすっ。ありがとう、優海。」

「うん。よしよし。」

「…そろそろ落ち着きましたでしょうかね?」

頃合いを見計らって、狩谷が声をかける。

「あっ。」

優海とヒロキは、狩谷と本田がいることをすっかり忘れていた。

「す、すみません。ヒロキが落ち着くまでこのままでいたいので、お話の続きをお願いします。」

「わかりました。二人はめでたくカップルになりましたので、ヒロキは持田さんに差し上げます。返品不可になりますので、これからもいい関係を築き上げてください。」

「ヒロキは持田さんの家から恋愛向上委員会まで通勤してくださいね。」

「ぐすっ。わかりました。」

「持田さん。ご連絡いただいてから一か月以上お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。国で開発したものなので、譲渡の手続きに時間がかかってしまいまして。」

狩谷は本当に申し訳なさそうに優海に事情を説明し、頭を下げた。

「いいえ。本当にありがとうございます。こんなに幸せなことはありません。」

優海は再び目頭を熱くしながら感謝の気持ちを伝えた。

「いやぁ、本当に良かったですよ。それでですね、ヒロキに新しい機能を追加しておきました。持田さん、ちょっと耳良いですか?」

「あっ、はい。」

本田は優海に耳打ちでヒロキの新しい機能を説明している。

「…えっ!?」

驚きながら顔を真っ赤にする優海。思わず本田に反論する。

「そんなことを言うなんて、人によってはセクハラに捉えますよ。本田さん。」

「これで恋人らしいことが出来ますよ。素晴らしいじゃないですか。」

「そうかもしれないですけど…。」

「持田さんはこの手の話に本当に慣れていないから、からかいがいがありますね。」

「もう!いい加減にしてください!本田さん。」

「いくら本田さんでも優海をからかうのは止めてほしいですね。」

「おっ、ヒロキさん、ヤキモチ焼いてます?」

狩谷もヒロキをからかい始めた。

「ち、違いますって!狩谷副大臣!」

「ぷっ、あははは…!」

優海はみんなの笑顔を見て、これが自分の望んでいる人生なんだと実感した。

これから先、何が起こるかわからない。楽しいことばかりではないし、困難が待ち受けているかもしれない。それでもこの命が尽きるまで、関わってきた人たち全てを笑顔に出来るように人生を過ごしていきたいと思った優海であった。


Fin

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Auto Lover ~人間とアンドロイドの奇妙な恋愛革命~ @micro1987

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