第30話 ~重なったキモチ~

「といった感じです。」

「わかりました。どちらかに何かしらの変化があれば、片方が戸惑いを感じるのも無理ないですし、乗り越える覚悟がなければそういう結末になるのも仕方ありません。」

「弘貴も自分の感情に支配されているようですし、私も弘貴の気持ちを考えず、優しさん甘えてしまいました。ですが、キャラクターデザインの仕事をすることを諦められないですし、…残念ですけれども。」

「それで、ヒロキのことはどうするおつもりですか?」

「その件についてもお聞きしたいことがあります。」

「聞きたいこととは?」

「ヒロキがどこにいるかわかりますか?もう、廃棄処分されてしまったのでしょうか…?」

「…ぷっ。あははは。なんですか、廃棄処分って!」

想像もしなかったことを言われ、本田は思わず笑ってしまう。

「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。急にいなくなればそう思ってしまうのも無理ないですよ!」

「す、すみません。ヒロキは元気ですよ。会いたいですか?」

本田にそう尋ねられ、優海の答えは即決だった。

「はい!会いたいです!」

「わかりました。何とかしてみますね。」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

優海は本田との会話を終えた。

「もしヒロキに会えたら、正直な気持ちをきちんと伝えよう。振られたとしても納得してこの恋を終わらせることが出来るから。もし、会えなかったら…。いや、本田さんの連絡を待とう。」

会えなかった時、ヒロキの恋心をどうするべきかわからなかった。抑え込んでいたのによみがえった恋心。優海はヒロキと再会できると信じて今日を終えることにした。


優海との電話を終えた本田は再び電話をかけ始めた。

「もしもし、狩谷副大臣でしょうか?恋愛向上委員会の本田です。」

「本田君、こんばんは。どうされましたか?」

「突然すぎるのは承知なのですが、大事な話がありますので、近日中にお会いできませんでしょうか?」

「近日中ですか…。スケジュールを確認しますので、そのままお待ちいただけますか。」

本田のいつもと違う雰囲気を感じた狩谷は、すぐにスケジュールを確認した。

「お待たせしました。明後日の15時はいかがでしょうか?」

「大丈夫です。ではその日程でそちらに伺います。」

「ちなみに、話したいことというのは、いいことですか?悪いことですか?」

「僕にとってはとても素晴らしい話だと思います。」

「…そうですか。では明後日、楽しみにしてますよ。」

ここで電話は終了した。

「絶対にヒロキと優海さんを再開させてみせる!」

本田は、ヒロキと優海の想いに応えるため、いつも以上に張り切っていた。


弘貴と別れてから一か月経った次の休日、いろんな意味で燃え尽きていた優海は、お昼手前になっても布団の中でゴロゴロしていた。

「もう12時かぁ。今日も、ごはん食べてデザインの練習をして…、あ~…今日こそは掃除をしないと…。」

優海はデザインの情熱が燃え尽きることはなかった。コンペに落ちたのが相当悔しかったのかひたすら練習をした結果、床には努力の産物が散乱していたである。

「はあ~。でも、まだやる気が起きないから、もう少し寝ようっと。」

そう思った矢先、優海のスマートフォンの着信音が部屋中に響き渡った。寝ぼけ気味だった意識が一気に引き戻される。

「う~ん…。まだ寝たいんだけど…。誰だろう?」

スマートフォンのディスプレイを見てみると、そこには『本田さん 恋愛向上委員会』と表示されていた。ヒロキの件で進展があったのかと思った優海は、すぐさま電話に出る。

「もしもし、持田です。」

「本田です。もうお昼ですよ。こんな時間まで寝ていられるなんて羨ましいですねぇ。」

「…嫌味を言うために電話してきたんですか?」

久しぶりの本田の嫌味に、優海は本気でキレそうになっていた。

「とりあえず、大切な話があるので、玄関開けてもらっていいですか?もう持田さんの家の前にいるので。」

「前も申し上げましたが、急すぎますよ。はあ…。着替えてきますので少しお待ちください。」

優海はしぶしぶ着替え始めるのであった。

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