第14話 ~まさかの展開~

ガチャガチャと聞こえるカギの音からのガチャっと開く玄関。これらの無機質な音はヒロキにとって物凄く大切な音である。大切な人が帰ってくる音。自分以外の人が誰もいない優海の部屋に温もりが戻ってくる音…。

「んっ?あれ?優海のこと『大切な人』って思ってた…?『大切な人』ってどういうことだろう?『大切』って色々な意味があるけど、優海にとって僕は恋愛サポートアンドロイドであって、それ以上も以下でもない。でも僕は…?」

「ただいま~。」

「優海、おかえりなさーい♪」

「うん…。」

ヒロキがお帰りのハグをしても優海の意識がここにあらずといった様子だったので、不思議に思ったヒロキは声をかける。

「優海?どうしたの?何かあった?」

「…初めて弘貴からデートに誘われた…。」

優海と弘貴が会うときは、100パーセント優海が誘っている。ストレスをため込みやすい優海は、愚痴を話さないと爆発することがある。何でも話せるのが弘貴しかいない為、爆発する前に定期的に弘貴と会って話すことが習慣になっているのだ。

「おぉー!弘貴クンやるねぇ!で、優海はどうして元気ないの?」

「初めて弘貴から誘われて驚いている。どうしたんだろう?って思っているけどね。」

優海はどうして弘貴クンが誘ってきたと思っているの?とヒロキは聞こうと思ったが、混乱している優海の表情を見て聞くことが出来なかったと同時に、表向きでははやし立てていても、心はなぜかざわざわしていた。


~数時間前~

優海と弘貴の飲みはお互いの仕事の話で盛り上がっていた。

『優海はコンペ通過に向けて、意識していることってあるの?』

『そうだね…、キャラクターの性格、身体的特徴はこれからわかると思うんだよね。それに合わせたファッションを考えることかな。あと、服に使用する材質や流行りものを知ることかな。』

『流行りものを知るのってどうするの?』

『雑誌やテレビかな。あとは実際見に行ったり食べに行ったりとか。』

『へぇ~。行ってみたい場所や見たいものってあるの?』

『最近、海老原橋駅に大型ショッピングモールが出来たでしょ?今回、初めて日本に上陸した海外アパレルもたくさんあるみたいだし、行きたいなぁって。』

『じゃあ、行こうよ。』

『えっ?』

『来週、僕空いてるから一緒に行こうよ。』

『う、うん。私も空いてるし、行こうか。』

『じゃあ、来週の土曜日12時に海老原橋駅の改札前で待ち合わせね。』

『うん。了解。』

来週会う約束をし、今回はお開きになったのだった。


少し飲み足りなかった優海は、缶チューハイ片手にベランダで飲みながら、先ほどの弘貴との飲みを振り返っていた。

「優海~、僕、先に寝るね。飲みすぎないように気をつけて。」

「うん。おやすみ、ヒロキ。」

「おやすみ~。」

「…弘貴、誘ってきたとき、かなり真剣な顔をしてた。なんか表情に引き込まれて『うん。』としか言えなかったな。普段はもう少し柔らかくて優しいのに、急にどうしたんだろう。あんな弘貴初めて見た。もしかして怒らせた?でも怒らせるような要素なかったよね?う~ん、だめだ…考えてもわからないや。ふわあ~。眠くなってかも。」

優海はベッドに入り、そのまま深い眠りにつくのであった。

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