第15話 ~夢VS恋心 Part1~

月曜日になり、優海はいつも通り溜まっている業務をこなしていた。夢中で業務をこなしていき、間もなく終業時間なろうとしたところで、上司に呼び出された。

会議室に通され、向かい合わせに座ったところに、上司は『社外秘』と書かれた資料二部を優海の前に置く。

「持田さん、これは、新プロジェクトのキャラクターデザインコンペの概要よ。一次コンペは一か月後。どちらのプロジェクトも主人公と相方のデザインで、キャラクターの詳細等は、概要に記載があるから確認してね。あっ、概要は外に持ち出さないようにお願いね。」

「ありがとうございます。」

「忙しい中、時間を縫って絵の練習頑張っているわね。必ずコンペを勝ち抜きなさい。」

「はい。」

上司との会話も終わり、概要を抱え、ウキウキしながら自席に戻った優海に千佳が声をかける。

「優海さん、聞きましたよ。新プロジェクトのキャラクターデザインのコンペに参加するとのことで、応援してます!私、絵心がないので羨ましいです。」

「ありがとう。後悔しないように頑張るね。」

満面笑顔の優海を見ながら、千佳も仕事に戻ったのであった。


仕事、コンペの準備に明け暮れ、あっという間に弘貴との約束の日になった。優海は待ち合わせ時間の30分前に到着した。

「うーん、また早く到着してしまった(汗)電車が遅延するとか、不測の事態が起こって遅刻する可能性を考えて家を出発すると、いつも30分前に到着しちゃうんだよなぁ。早く着いたし、コンペに提出する用の絵を描くかな~。」

優海は近くのベンチに座り、スケッチブックを広げる。

「新プロジェクトのうち、片方が女性主人公なんだよね。女性主人公のゲームなんて珍しいかも。まぁ、私は女性の方が描くのは得意だから問題ないけど…うーん、だけど、ちょっとありきたりな衣装になっちゃうなぁ…。」

完全に手が止まってしまったため、なんとなく顔を上げたら、目の前に弘貴が立っていた。

「うわ!?びっくりした…。驚かさないでよ…。」

「ゴメン。優海があまりにも集中しているものだから、どこまで近づけば気づくかな~?って思って距離を詰めてみた(笑)」

「だからって詰めすぎだよ。もし私が立ち上がったら、私の頭と弘貴の顎がぶつかるところだったよ。」

弘貴的には、距離を詰めることによって優海をドキッとさせる作戦だったが、別の意味でドキッとさせてしまったため、作戦は空振りに終わってしまう。

「(優海は僕のこと何とも思っていないのかな?もしかしたら意識すらされていない?)はぁ…。」

「弘貴?ため息ついてどうかした?体調悪いなら今日は帰る?」

優海は心配そうに弘貴を見つめながらそう言った。

「いや、大丈夫だよ。さあ、行こう。」

絶望しかけている気持ちを奮い立たせながら、弘貴は優海にそう言った。


「…うわぁ。なんか人が沢山いる。」

「オープンしたばかりっていうのもあるけど、先週、『白馬様の贅沢なひととき』って番組で放送されていたから、その影響かもね。」

「えっ!?『白馬様の贅沢なひととき』で放送されていたの!?それは、混んでいるのも納得だね。」

「このショッピングモール、日本最大級だし、マスコミもこぞって取材依頼をしているって噂だよ。」

「へぇ~、取材依頼が殺到しているんだ。地元がちょっと有名地になるのは嬉しいね♪」

「(優海、本当に明るくなったなぁ。良い表情をしている)そうだね。」

「あっ、あのお店見ていい?」

「うん。いいよ。」

立ち寄ったお店はゴシックアンドロリータの服の専門店。普段の優海だったら立ち寄ることすらしないが、キャラクターデザインの為とならば話は別だ。

「うわあ、思ったよりカワイイ服がたくさん!へえ、このワンピース、中はどうなっているんだろう?」

優海は弘貴を差し置いてはしゃいでいる。それでも弘貴はそんな優海を見て楽しんでいた。

「うーん、ちょっとトイレ行きたくなってきたなぁ。優海、僕、トイレ行ってくるから動かないで待っててね。」

優海は店員と会話をしていた。弘貴は自分の声が優海に届いたかどうか不安だったが、我慢の限界だったため、その場を離れてしまう。弘貴の心配をよそに、優海と店員の会話が続いていた。

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