第3話 ~優海と弘貴~
「そんなわけなのよー!急展開過ぎて頭がついていけなくて…。」
「すごいね。アンドロイドを渡すなんて。しかも無料だし。国も恋愛に本腰入れているのがわかるよ。」
優海と一緒に飲んでいる男性、黒瀬弘貴は優海の幼馴染である。実家が隣同士のため小さいころからよく遊んでいたが、現在はお互い一人暮らしをしている。
「だけど、アンドロイドと一緒に過ごしていれば本当に良い恋愛が出来るのかなぁ~?」
「別にそんなことをしなくても、目の前にいるのに…。」
弘貴は優海に聞こえるか聞こえないかの声量でつぶやいた。
「へっ?今、何か言ったぁ~?」
「ううん。何でもないよ。それより優海、飲みすぎじゃない?」
「らいじょうぶらよ~(大丈夫だよ~)。」
弘貴は優海のことが好きなのだが、自分に気持ちが向いていないことは明らかだった。今はこうして優海と定期的に一緒にお酒を飲みながら愚痴を聞くという関係で落ち着いている。
「ほら、優海、そろそろ帰るよ。」
「え~、もうちょっと飲む~。」
「これは、かなり飲んでいるなぁ。いつも以上かも。」
優海はお酒に強くない。普段だったら一、二杯飲んだらソフトドリンクに切り替えるのだが、今日はビールやらワインやらハイボールやらアルコール度数が高めのものを飲んでいた。弘貴は、優海が取り巻く環境の変化に相当ストレスを感じているのを察した。
「全く…、仕方がないな。おやっさん、お会計お願いします。」
「はいよ。優海ちゃん、完全にのびちゃったねぇ。こんなに飲んだの初めてじゃない?」
おやっさんも心配そうに優海を見つめていた。
「そうなんですよね…。じゃあ、これで。」
「毎度。気をつけて帰るんだよ。」
お金を払い終えた弘貴は優海を自宅まで送ることにした。
その頃、優海の自宅ではヒロキが退屈そうにしていた。
「いくら何でも僕を置いていくなんてひどくない?優海、早く帰ってこないかなぁ。」
-ピンポーン-
インターホンの音が部屋中に鳴り響く。
「優海、帰ってきた♪今開けるから待っててね~♪」
ヒロキは主人の帰りを喜んで出迎える犬のようにダッシュで玄関に向かい、ドアを開けた。
「優海、お帰り~♪んっ?」
ヒロキがドアを開けると、そこには優海をおぶった弘貴が立っていた。
「君は…。あぁ、幼馴染の…。」
「黒瀬弘貴です。あなたがアンドロイドのヒロキさんですね。」
「優海、どうしたの?」
「珍しく飲みすぎてしまったようでして…。早く寝かせてあげたいんですが。」
「わかった。優海を連れてきてくれてありがとう。」
「それでは、僕はこれで…。」
「待った。僕、弘貴クンと少しお話ししたい。少しだけ時間くれないかな?」
「わかりました。それではお邪魔します。」
優海をベッドに寝かした後、ヒロキは弘貴の前に飲み物を置き、ダイニングテーブルに弘貴と向き合うように座った。そして弘貴に話しかける。
「だいぶ遅い時間に引きとめてしまっているから単刀直入に聞くけど、弘貴クンは優美のこと好きなんでしょ?」
「ゴホッ!ゴホッ!」
弘貴は思わずむせてしまう。
「図星のようだね。優海からは『小さいころからの幼馴染』って聞いていたけど、付き合いたいと思ったことはないの?」
「優海は僕に1ミリも気持ちが向いていない。そんな状態で告白したって結果は目に見えていますからね。」
「だからって、いつまでも幼馴染ゴッコをしたいわけじゃないでしょう?」
「もちろんですよ。だけど、まだ告白する時期じゃないだけです。」
「要は告白して断られるのが怖いのと、うまくいかなかった時、自分が傷つくのが嫌なんだよね。自分が傷つくことを恐れて行動しない人間は多いからね。」
二度も図星を疲れ、弘貴はぐうの音も出なかった。
「さすが、恋愛サポート型アンドロイドだね。その通りですよ。」
「本当は優海以外の人にアドバイスはしないんだけど、もっと自分の気持ちにわがままになってもいいと思うんだ。ネガティブな感情に支配されちゃうと何も行動できなくなるよ?まずは自分の気持ちに向き合うことから始めてみることをオススメするよ。」
「…そうしてみます。」
「引きとめてごめん。帰っていいよ。」
「優海をお願いします。」
玄関のドアを閉じた音が何となく空しく響き渡った。
「あいつも何とかしてやりたいけど、僕は優美専属だしなぁ。優海が変われば、あいつも優海に対する行動が変わるはず。さて、頑張るか、僕。」
そう自分自身に誓ったヒロキは眠りについた。
次の日、優海は正午ごろに起きてきたが、昨日飲みすぎたせいか顔色が少し悪かった
。
「あー、頭が痛い…。」
こめかみに指を押し付けながら優海がつぶやいた。
「今日、日曜日でよかったね、優海♪」
「うん。月曜日だったら確実に再起不能だったわ…。」
「弘貴って人がここまで運んでくれたんだよ?」
「弘貴に会ったの?」
「うん。少しお話もしたよ。」
「弘貴、何か言ってた!?」
「『普段、こんな大量にお酒を飲まないから珍しい』って言ってた。」
弘貴の優海に対する気持ちを伝えるのはやめておいた。
「そっか。確かに昨日、いろいろ飲みすぎたしなぁ…。やってしまった…。」
「あとで弘貴クンにお礼言うんだよ?弘貴クンがここまで運んでくれなかったらどうなっていたことか…。僕、心配で怖かった…。」
「心配させちゃってごめんね。」
ヒロキの真っ直ぐな気持ち、弘貴の優しさに触れた優海は、自分のことをこんなに心配してくれて、優しくしてくれる人がいるんだ。愛されている人間なんだと自覚し、温かい気持ちになったのであった。
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