第2話 ~プロローグ part2~

相談会に参加してから一週間が経った休日。

スマートフォンのアラーム音で優海は目が覚めた。

「うう~ん…。えぇっ?今日お休みなのにアラーム解除するの忘れちゃってた。はぁ、まだ七時だしもう一回寝ようっと。」

「ピンポーン」

数時間後、インターホンの音が部屋中に響き渡る。

「(誰よ…。人が気持ちよく寝ていたのに。いいや。パジャマだし出るの面倒くさいから居留守しようっと。)」

「ピンポーン、ピンポーン」

「(うっるさいなぁ…いい加減帰ってよ!)」

優海がそう思った瞬間インターホンが止まった。ほっとしたのもつかの間、今度はスマートフォンに着信が入る。

「(本田さんからだ。どうしたんだろう?)もしもし?」

「もしもし、本田です。持田さん、今、家にいますよね?出てきてください。どうせ寝ていたのでしょう?」

「どうせって…せっかくの休日を邪魔しないでほしいです。」

「僕は今、持田さんの家の前にいます。」

「えっ?どうして!?」

「あなたに良いものをお届けに来ました。着替えたらドアを開けてください。」

「良いもの?…わかりました。少々お待ちください。」

「お待たせしました…えっ!?」

身支度を整えた優海は玄関のドアを開けると、そこにはたくさんの人と大きい段ボールがあった。

「本田さん、ちょっと待ってください!何ですか、この荷物!?」

その大きな荷物は優海の身長をはるかに超えていた。

「さてと、それでは搬入お願いします。」

本田の合図とともに、あっという間に荷物の搬入が完了し、荷物を運んだ運送会社は撤退した。残ったのは優海と本田と、スーツを着た男性だけだった。優海はその男性を不審そうにジロジロ見ていた。

「持田さん、人の顔をジロジロ見るのは失礼ですよ。彼は生活向上省副大臣の狩谷満孝さんです。」

「初めまして。狩谷と申します。」

狩谷は優海に名刺を渡した。

「初めまして、持田です。副大臣の方がどうして私に?」

「持田さんにお届けした荷物について、本田さんと直接ご説明したくお伺いしました。」

「狩谷副大臣は、お忙しい中時間を割いていらしたのに、待たせるとは何様のおつもりですか?」

「いや、あらかじめこんなお偉い方がいらっしゃるとわかっていれば、お待たせさせるようなことはしなかったですよ!」

「さて、本題ですが…。」

「スルーしないでくださいよ!」

「こちらの段ボールを開けてみましょうか。」

「…わかりました。」

優海はふてくされながら段ボールを開けた。

「…えっ、えっ!?なんですかこれ!?死体!?」

優海はパニックになっていた。

「あの、少しは落ち着いたらいかがですか?」

本田は皮肉交じりに言った。

「思ったんですけど、本田さんカウンセリングの時と雰囲気が全く違いますよね?普段はSなんですか?」

「死体を持ってくるなんてありえません。そんな状況で副大臣を連れてくると思いますか?」

「またスルーですか…。」

「こちらは恋愛サポート型アンドロイドです。持田さんのカウンセリング内容を考慮した結果、アドバイスできる存在をそばに置いた方が良いだろうという結論になりました。」

「はぁ…ってちょっと待ってくだい!アンドロイドを買うお金なんてないですよ!」

「こちらは持田さんが良い恋愛をするために開発されたものです。お金は取りませんよ。」

「でも、いいんですか?」

「大丈夫です。」

「よかったー。」

「アンドロイドの起動方法や取扱については狩谷副大臣からお話しします。」

「このアンドロイドは動力が空の状態です。付属のコンセントで充電を行いましょう。数分後には動き出しますので。」


数分後、アンドロイドが起動し始めた。

「初期設定を行ってください。」

「…しゃべった!!」

「それでは設定を始めましょうか。」

狩谷が設定用のパソコンをアンドロイドに接続した。

「では、こちらに必要事項を入力いただけますか?」

「わかりました。まずは、アンドロイドの名前かぁ。」

「好きな名前をつけて大丈夫ですが、記号だけは使わないようにお願いします。」

「…じゃあ、ヒロキにしようかな。さっきの声が好きな声優さんに似ているので。あの、思ったのですが、顔のパーツから体型、声質、全て私好みなのですが、もしかして先週私が記入したアンケートの内容を…。」

「その通りです。持田さんが記入した内容をもとに、製作・プログラミングをしております。」

本田が会話に入ってきた。

「プログラミングしているといえ、人間の性格、感情、思考を完璧に表現できるなんてとても思えないです。」

「人間の精神や思考に関するシステムは私が監修しました。ですので、楽しみにしていてください。きっと驚かれると思いますよ。なんにせよ自信作です。」

本田が誇らしげに語った。

「全て入力が終わりましたね。それでは完了ボタンをクリックしてください。」

完了ボタンをクリックすると、アンドロイドがデータのアップデートを開始した。


そして数分後…。

「データのアップロードが完了しましたね。これで全ての設定が完了しました。このUSBケーブルを抜くとアンドロイドが起動します。心の準備はよろしいですか!?」

「は、はい。大丈夫です!」

「それでは、抜きますよ!」

狩谷がアンドロイドをつなげていたUSBケーブルを抜くと、アンドロイドが優海に話しかけてきた。

「初めまして!僕、ヒロキ!優海、会いたかったよ!」

ヒロキがそう言いながら、優海に抱きついてきた。

「えぇ!?ちょっと急に何!?離して!」

驚いた優海はとっさにヒロキを突き飛ばしてしまう。

「優海、急に突き飛ばすなんてひどいよ。僕のこと嫌いになっちゃったの…?」

ヒロキは落ち込んでしまった。その姿はまるで耳を垂らしてシュンとした犬のようだった。そんなヒロキの姿を見た優海は、思わずキュンとときめいてしまう。

「べ、別に急に抱きついてきたから驚いただけだよ。今後は過度なスキンシップは禁止ね!」

優海にとって、ハグは過度なスキンシップのようである。そう言われたヒロキは落ち込んだまま反論する。

「過度って、どこまでが過度なの?それじゃあスキンシップ出来ないよね…?」

うるんだ瞳で見つめられて優海は困惑してしまう。

「そ…そんなこと言われたって…。」

「なーんてね☆冗談だよ!冗談!」

「へっ?」

「僕は優海が良い恋愛が出来るようにサポートするためにいるんだから、頼まれない限りそんなことはしないよ。たぶんね。」

「なんか気になる言い方だなぁ。」

優海がなんとなく不満げになっていると、本田が再び会話に入ってきた。

「あれっ?持田さんのご要望通り、性格をムードメーカーなワンコ系にプログラムしたのですが、どこかおかしいところはありましたか?」

本田は有無を言わせない圧力をかけながら優海に尋ねた。

「いえ。ありません…。完璧です…。」

「よろしいです。これからヒロキと一緒に住むことになりますが、彼からアドバイスがあった時は反論せず日常生活に取り入れるようにしてください。」

「そうそう。優海の人生を変えられるのは優海だけだからさ。とりあえず、僕のアドバイスは取り入れるようにしてね。」

「わかりました。…んっ?ちょっと待って!一緒に住むって!?」

「僕は優海の専属アンドロイドだよ?とーぜんでしょ?」

「仮にアンドロイドだとしても、お、男の人と一緒に住むなんて…。」

「さっきも話したけど、過度なスキンシップは絶対しない。逆に優海が望むならするけどね。」

「わかった。信じるよ。」

「すみません、説明を続けてもよろしいでしょうか?」

会話が落ち着いたタイミングを見計らって、狩谷が優海に声をかけた。

「はい。すみません。いろいろ取り乱しました。」

「持田さん、ダウンロードされているメッセージアプリでヒロキを友達追加していただけますか?追加の際はこちらのQRコードを読み取ってください。」

数分後、友達追加を終えた優海は狩谷に声をかける。

「狩谷副大臣、追加終わりました。」

「それでは、ヒロキに何かメッセージを送ってください。」

「わかりました。…はい、送りました。」

ヒロキはスマホを操作し、メッセージの内容を確認した。

「『優海です。ヒロキ、これからよろしくね。』優海は本当に真面目だね。はい、返信したよ。届いてるかな?」

「『優海、こちらこそよろしくね♪』って届いてるよ。」

「うん、アプリ内のメッセージのやり取りは大丈夫そうだね。」

「狩谷副大臣、どうしてヒロキを友達追加したのですか?」

「持田さんが外出中にヒロキに用件を思いついたら送るのももちろんなのですが、日常をお過ごしの際、他人にされた内容とそれに対して湧き上がった感情をヒロキに知らせてください。」

「うーん、『湧き上がった感情』と言われてもよくわからないのですが…。」

「例えば、『目の前で歩きタバコをしている人がいる。臭い。ムカつく。』とか、『上司に褒められた!嬉しい』など、嬉しいこと、楽しいこと、悲しいことや怒り全てですね。」

「あと、自分を責めてしまった時もヒロキに伝えてください。」

「自分を責めるってどういうことですか?」

「そうですね、例えば、持田さんが仕事で失敗して上司の方に怒られたとしましょう。その時『あーあ。失敗しちゃった。なんて自分はダメなんだろう…。』みたいな感じですね。」

「あっ、毎日のようにやってます。それ。」

「そうでしたか…。今後は自分を責めてしまったときはスルーせず、必ずヒロキに伝えてください。」

「わかりました。」

「私からは全てお伝えしました。本田さんから他に伝えたいことはございますか。」

「そうですね…。ヒロキは精密なアンドロイドなので、少しでも異変を感じましたら私にご連絡ください。担当部署がメンテナンスに向かいますので。では、私からも必要事項は伝えましたので、帰りますね。ヒロキ、持田さんをお願いしますよ。」

「はいは~い。僕におまかせ♪」

本田と狩谷が優海の部屋からいなくなり、ヒロキと二人きりになった。

「優海、改めてよろしくね♪」

「ははは…。よろしく。はぁ。…どうしてこんなことになったんだろう…。」

優海は小声でぼそっとつぶやいた。現実をいまいち受け取れていないからだ。

「うん?何か言った?」

「ううん。何でもないよ。」

こうして、優海とヒロキ、人間とアンドロイドの奇妙な生活が始まった。

良い恋愛をする。優海の恋愛はこれからどうなっていくのか、不安が募るばかりであった。

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