Auto Lover ~人間とアンドロイドの奇妙な恋愛革命~

@micro1987

第1話 ~プロローグ part1~

この物語はフィクションです。

もし同一の名称があった場合も、実在する人物、団体とは一切関係ありません。



「…どうして、こんなことになったんだろう…。」

ぼそっとつぶやいたこの女性は、持田優海。三十歳。独身。彼女の部屋は散乱した段ボール、目の前には若い男性が優海に手を振っていた。


ことの発端は二週間前になる。

「以前から指摘がありました仕様書の変更に加え、機能追加もすることになりましたので、テスト内容も大幅に変更になりました。ですが、リリースまでスケジュール通りに進めてほしいと上から指示がありましたので、皆さんには申し訳ないですが、しばらく残業が続きますのでご協力よろしくお願いします。

「(…マジか…。絶望しかない…。だいたい、仕様書を大幅に変更するのも大変なのに機能の追加って何なのよ!それでスケジュール通りこなせ!とか鬼畜すぎる!)」

優海はそう思いながら肩を落としていた。彼女は現在ゲーム会社でシステムのテスト業務をしている。


何とかその日の業務を終え、優海は帰宅した。

「あー、今日も無事に終わった…。」

そう独り言を言いながら、メールBOXに入っていた郵便物を確認していると、

「んー?何だろう?このピンクの封筒?」

優海はピンクの封筒の封を開き、内容を確認した。

「恋愛向上委員会?あぁ、ニュースでやってたなぁ。恋愛離れしている人が全ての年代を通して多いから、国を挙げて取り組んでいるんだっけ?えーっと、なになに…。」

『このお知らせは、三十歳以上の独身の男女全員に送付しています。恋愛したいけど恋人が出来ないかた、恋人はいたが関係が長続きしなかった方、告白やプロポーズをしようと思っているが断られないか不安で行動できない方等、あなたの状況に合わせて専門家がアドバイスいたします。全国で相談会を開催しておりますので、こちらのQRコードからお近くの会場で相談予約を行ったうえで、会場までいらしてください。なお、相談料は無料です。』

「うーん、恋愛したくないわけじゃないんだけど、仕事が忙しいし…。でも気になるからとりあえず予約してみようかな?QRコードを読み取って…。よし!予約完了っと。さてと、お風呂に入ってさっさと寝ようっと。」


そして予約日当日。

優海は恋愛向上委員会の入り口前に到着した。

「ここかな?よし。」

入り口に入ると、受付の女性が声をかけてきた。

「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「相談会の予約をしました、持田優海と申します。」

「持田様ですね。はい、予約されていることを確認しました。ご案内します。」

「ありがとうございます。へぇー、随分たくさんの人が相談に来ているんですね。」

「この間、テレビで放送されるようになってから相談者が増えましたね。」

「それに相談スペースが個室になっているから、他の人が通っても顔を見られることがないですし、声が漏れていないのは嬉しいですね。」

「恋愛といえどもセンシティブなものですから、相談内容が漏れたり、他の相談者様と鉢合わせされないように工夫しております。」

「ここまで工夫してくださると、なんでも相談したくなりますね。」

「恋愛向上委員会は、恋愛で悩む皆様がより良い恋愛が出来るよう、全力を尽くす所存でございます。」

会話をしているうちに相談部屋に到着した。

「それでは、こちらのアンケートに記入をお願いします。記入が終わりましたら、こちらのボタンでお知らせいただければカウンセラーがそちらに向かいますので。」

「わかりました。ご案内ありがとうございます。」

受付の人がその場を去ったことを確認した優海はアンケートの記入を始めた。

「相談料無料ってあったからどんな感じかと思ったら、案外しっかりしていて安心した。えっと、名前、住所、電話番号、職業、恋愛の悩み、好きなタイプ(性格面)、好きな芸能人、好きな声質、好きな顔立ち、趣味、身長、体重、恋愛以外の悩み…他にも項目がある。なんか結婚相談所並みに質問が多いし、細かいなぁ…。」

ぶつぶつ文句を言いながらもアンケートの記入をすべて終わらせた優海。ボタンを押すと、カウンセラーが優海のいる部屋にやってきた。

「こんにちは。本日はお忙しいところ足をお運びいただきありがとうございます。本日カウンセリングを担当します、本田智明と申します。」

本田は軽く自己紹介をしながら名刺を優海に渡した。

「(笑顔が爽やかで良い印象だな。何でも話せそう。)」

「早速ですが、記入いただいたアンケートを元に相談を進めていきますね。えっと、恋愛の悩みは『恋愛したいけど、その気になれない。』っと。矛盾していますが、差し支えなければ恋愛したくない理由を教えていただけますか?」

「仕事が忙しいのと、人が苦手なんです。一人でいる時間の方が長かったせいか、他人と一緒にいると気疲れしちゃって…。」

他にも本田は優海に様々な質問をしたり、優海の悩みをヒアリングしたところ、相談時間が三時間を超えてしまっていた。

「こんなにたくさん話を聞いたくださったのに、相談料無料でよろしいのですか?」

「ええ。気になさらないでください。引き続き、皆さんが良い恋愛をしていただけるように我々は尽くしていきます。」

「ふふっ。受付の方と同じことをおっしゃってますね。理念を共有出来ていて素晴らしいですね。」

「それでは、今後も何かございましたら本田宛でご予約いただければ、再度カウンセリングいたしますし、急ぎでしたらお渡ししました名刺に記載されている電話番号にご連絡ください。」

「わかりました。本日はありがとうございました。」

「気をつけてお帰りください。」



カウンセリングを終えた優海の表情は晴れやかだった。

「話を聞いてもらえてよかった。少しスッキリしているし。まずは日常生活でムリしすぎないように頑張ろう。」

本田に、まずは自分をいたわるようにアドバイスをもらっていた。他にもその日の相談内容を振り返っているうちに優海は深い眠りに落ちていった。


一方、本田は本日のカウンセリングをすべて終え、相談者の内容を見直していたのだが、優海のカウンセリング記録に頭を抱えていた。そんな様子を見た受付の職員が本田に声をかける。

「所長、どうかしましたか?あぁ、持田様。落ち着いていてしっかりしている印象でしたが、どうして頭を抱えているのです?」

本田が深いため息をつきながら話し出した。

「持田さん、自己否定の塊でした。口癖が『でも』、『だって』、『私なんて』ばかりでして。これじゃあ、いくら恋人が出来たとしても、相手の好意を受けとめられない、他にも相手を信用できなくて関係が破綻するのは目に見えています。これは荒治療を行わないと状況を変えるのは不可能な気がしますね…。あっ、そうだ!」

本田は、ある人物に電話をかけた。

「あっ、もしもし、恋愛向上委員会の本田です。お世話になっております。実はですね、本日初めていらした相談者の中にですね…。」


電話をかけ始めてから十分ほど時間が経った。

「本当ですか?ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。相談者の詳細は明日お持ちいたします。では、また明日よろしくお願いします。」

「…所長。どうでしたか?」

「多分大丈夫だと思うけど、持田さんの詳しい情報と僕の見解を聞かせてほしいそうです。まぁ、初めての試みですから仕方がないですね。というわけで、明日、午前中からいないのでよろしくお願いします。」

「かしこまりました。」

本田のこの行動が優海の運命を大きく変えることになる。

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