第29話 縦横無尽


 旅館の壁が崩れてあっという間に吹雪で覆われてしまう一同!


「マジか!」

「どうする!」


 慌てふためく全員だったが……


ブロロロロ……


 突然、車のエンジン音が聞こえた。


「車か!」


 そう思った英吾が目を見開くと……


「えっ?」


 目の前にスキー場へと続く道路があった。


「あ、あれ?」

「何で?」


 慌てて辺りを見渡す全員。


 そこはスキー場の林に隣接した道路脇だった。


「晴れてる……」

「本当だ……」


 空は吹雪なんか欠片も感じない天気で、スキー場もテカテカに光っており、雪が振った痕跡すらない。


「あれ?服も……」

「元のスキーウェア……」


 今まで着ていたはずの服すら見当たらない。


「あんたたち何やってるの?」


 引率の女先生がいつの間にか近くに来ていて不思議そうに尋ねる。

 不思議そうな先生に英吾が首を傾げながら尋ねる。

 

「あ、いや、今、吹雪いてませんでした?」

「雪すら降ってませんよ? 何を言ってるんです?」


 不思議そうに答える先生。

 先生は何故か花束を持っていた。


「それより、あなたたちは何をやっていたのですか?」

「あ、いや……」


 しどろもどろになる英吾だが、圭人がさっとあるものを見つける。


「こんなところに相合傘があったんで変な名前だなぁって……」


 そう言って相合傘が書かれた木を指さす圭人。

 するとそれを見て苦笑する先生。

 

「嫌なもの見つけるわねぇ……」


 そう言って先生は花束をそこに置いた。

 それを見て凍り付く全員。


「先生……それは一体……」

「昔、ここで友達が自殺したの……」


 悲しそうに答える先生。


「頭の良い人だったけど、ちょうど就職氷河期でね。悪徳企業に入ってしまって、鬱になってそのまま自殺しちゃったの……大事な友達だったのよ……」


 そう言って相合傘にそっと触れる先生。


「先生それって……」

「私の旧姓は金棒っていう珍しい名前なのよ」


 悲しそうに愛しそうに相合傘を撫でる先生。


「子供の頃は虐められて負けるものか勉強したのに、大人になっても良い会社に入れなくて同じように虐められて……私達の世代って本当に酷い目に遭ってきたのよ……」


 諦めた顔で手を合わせる先生。

 目を開けて相合傘を懐かしそうに見る先生はぼそりとつぶやく。

 

「何でこんな世界になったんだろうね……責任は他人。功績は自分。そんな上司に虐められて彼は首を吊ったわ」


 悔しそうに顔を歪める先生は木をばんっと叩く。

 英吾は少しだけ顔を歪ませてこう言った。


「その上司ってのはどんな奴ですか?」


 それを聞いて憎たらしそうにスマホを取りだす先生。


「この男よ」


 英吾達が画面を覗くとサングラスを着けた蝶〇によく似た強面の男が居た。

 どうやらニュース画面ようで、こんなことが書かれてある。


『石川県における巨額横領事件の犯人はオアルミラか!?』


 サングラスに髭面の蝶○に似ている男で、明らかにあの時の女将の顔だ。

 思わす手に取ってニュースを確かめる英吾達。


『大手企業○○の取締役代表の百田被告は楽器ケースに入って検察の監視を逃れ逃走。違法に出国して現在は中東のオアルミラ国に居る模様』


 そんなことが画面に出てきた。

 嫌そうに憎々し気に唸る先生。


「上手いことオアルミラは政情不安になってくれたから……ざまぁだわ」

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」


 英吾達はちょっとだけ悲しそうな顔になる。

 この女先生は気さくで優しい先生としてみんなに慕われていた。

 そんな先生ですら、こんな顔をすることもあるのだ。


「変なこと言ったわね……携帯返して」

「どうぞ」


 そう言って英吾はスマホを返す。

 先生は少しだけ深呼吸して言った。


「そろそろ時間よ。あなたたちも片付けして早くバスに来なさい」


 それだけ言って去っていった。


 後に残された英吾達が微妙な顔で花束の置かれた木を眺める。


「……辛かっただろうな……」


 英吾は手を合わせて名も知らない男の冥福を祈る。

 自分たちのスマホでニュースを色々見てみるがロクな情報が書かれていない。

 それほどのドクズだったらしい。

 刀和が不思議そうにぼやく。


「何でそんな奴が会社の社長になれんだろ?」

「そんな奴だからだよ」


 圭人が腹立たし気に答える。

 チーボが少しだけ苛立たし気に唸る。


「真面目に頑張ってる奴が虐められて自殺するのに、人を貶めるだけの人間が出世するのか……」

「嫌な時代だな……」


 嘉麻も嫌そうに自分のスマホ画面を見ている。

 実はこの男が横領で捕まったのも部下の密告だった。

 そしてその密告した部下の顔はあのおっさん仲居である。


「配役から考えるとこの追い出したおっさんも……」

「多分、悪いことやってるんだろうねぇ……」


 やるせない顔の瞬と刹那。

 一方、不思議そうに刀和がぼやく。


「でも、なんで僕らだったんだろ? 他の人でも良いような……」


 それを聞いて英吾は悲しそうにぼやく。


「俺たちが……全員、虐めを受けて辛い思いをしたからじゃないか?」

「「「「「「………………」」」」」」


 それを聞いて全員が顔を顰めた。


 刀和はそのやさしさから。

 瞬は男勝りなところが。

 チーボは真面目過ぎるから。

 圭人は片親だから。

 嘉麻は肌が黒いから。

 刹那はヲタクだから。

 そして英吾は生意気だから。


 それぞれがそれぞれの理由で虐められていた。

 このグループはそういった仲間が寄せ集って行く内に出来たグループだ。

 嫌な思い出を思い出している全員に英吾はパンパンと手を叩く。


「さっ、帰ろうか」


 それを聞いて少しだけ圭人は疑問を感じた。


「お前は何も感じないのか?」

「俺たちに出来ることはたかが知れてるよ?」


 そう言って英吾はにやりと笑う。

 そして……


ぶんぶん


 手に持った黒い棒を軽く振る。

 棒には『縦横無尽』と書かれていた。

 それを見た全員が驚愕する。


「それって……」

「まさか……」

「夢じゃなかった?」


 先ほどおじさんから貰った棒である。

 それをパンパンと手で叩いてこう言った。


「報いは受けてもらおうぜ?」


 そう言って英吾は笑った。


 そして数日後、オアルミラに逃亡した百田が日本からの謎の隠し財産情報を信じた現地人に襲撃される事件が起きた。

 命だけは助かったものの、それを聞いて英吾は悠々と言った。


「自業自得」


 それを聞いた全員が苦笑した。


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