第1話 始まりは遭難

 話を少しだけ遡る。

 ほんのに二時間ほど前までは彼らは何をしていたのか?

 実は遭難していたのである。


 ゴォォォォォォォォ……


 強風と雪が混じり、恐ろしい轟音を立てている。

 辺りは完全に真っ白に覆われており、かろうじて雪原だとわかる状態である。


 こうなってしまうと方向感覚を完全に失ってしまい、ホワイトアウトになると上下の感覚も分からなくなるので大変危険な状態である。


 そんな中に、雪がこんもりと盛り上がった雪塊がある。

 

 高さが数m程度の雪塊で、辺りが真っ白なのでそれほど気になるような物ではない。

 だが、その雪塊に穴があり、男女が入っているなら話は別だろう。


 5人のスキーウェアを着た若い男女が窮屈そうに入っている。


 そして外には2人の男が壁を順番に作っており、雪を積み上げて壁を作っている。

 一番大柄な男がふぅっとため息を吐く。


「何とか風は防げそうだな」


 こんもりとしたスキーウェアの中には端正な顔立ちが隠れている。

 彼の名前は大上悠久と言い、金剣町という近く町に住む少年であだ名はチーボと言う。

 正確に言うと、ここに居る男女全員が金剣町の幼馴染である。


 彼がそう言うともう一人の大柄な浅黒い肌の男が、帽子からアフロをはみ出させながらぼやく。


「一時はどうなることかと思ったぜ」


 彼もまた、外から壁を作っていた。

 彼の名前は嘉麻一石と言い、黒人ハーフの少年である。

 一番大柄な二人なので、穴からはみ出しやすいのだ。

 自分たちが入れるように必死で壁を立てている。

 すると嘉麻が下の方に向かって言った。


「英吾~。そっちはどうだ?」

「もうちょい掘った方が良いかも?」


 穴の床の部分は左目の下に涙ボクロのある少年がさらに下へと掘り下げていた。

 彼の名は久世英吾と言い、このメンバーのリーダー格に当たる。


 彼は下へと穴を掘り、そうやって穴を大きくしていたのだ。

 そして穴を掘って出来た雪は内側に居る二人が内側から壁を固めている。

 冷たい目に眼鏡をかけた癖毛の男が英吾に向かってぼやく。


「英吾。もっと掘って雪をよこせ」

「わかってるよ」


 仏頂面になって再び掘り進める英吾。

 眼鏡をかけているのは九曜圭人と言い、見た目通り冷静なタイプの少年だ。


「大体、お前が変なことやり始めたからこうなったんだからな。責任取って穴掘れ」

「うっせーな。わかってるよ」

「ストーップ。喧嘩は止めなよ」


 そう言って痩せぎすで小柄な少年が間に入る。

 万代刀和という名前の少年で、彼もまた圭人と一緒に雪で壁の内側を固めている。


「最初に言い出したのは英吾でもみんなノリノリだったんだから一緒だよ」


 刀和に言われて圭人は口をつぐむ。

 この刀和と言う少年は優しすぎる故に人に責任を被せたりしない。

 それを聞いて中に居た女の子の一人が声を上げる。


「圭人もノリノリで転がしてたんだから一緒でしょ? 人の事ばっかり悪く言わない」


 胸が平坦だけど綺麗な顔立ちの少女は玉響瞬と言う。

 彼女に睨まれて圭人は流石に仏頂面になる。


「わかってるよ」


 そう言って口を尖らせる圭人。

 彼とて、他人にばかり悪く責任を押し付ける人間ではない。

 だが、そうも言いたくなる理由があるのだ。


「まさかあんな理由で遭難するとは思わなかったなぁ……」


 眼鏡をかけた大人しそうな少女がぽつりとぼやく。

 彼女の名前は天沼刹那。

 見た目通り大人しい性格をしたヲタク少女である。


「『人間が転がったら本当に雪玉になるか試そうぜ!』って言って本当に雪玉になるなんて……」

「本当にびっくりだわ。しかもそれに全員が巻き込まれて遭難するなんて、まるで漫画よね……」


 未だに現状が信じられない刹那と自虐気味にぼやく瞬。


 今日はスキー合宿の日で金剣中の二年生は全員、白山市の七里野スキー場に来ていた。

 まあ、そうは言っても昔は大人気だったスキーも今ではする者も少なくなり、スキー合宿も適当になりつつある時代である。

 適当に遊んで終わりになるはずだった。


 実際に七人全員が貸しスキーを使ってやっただけで、昼からの自由時間は適当に遊んでいた。

 それだけだったのだが……


「流石にあんな場所でこんなことになるなんて思わなかったよ……」


 刀和がそうぼやくのも無理からぬことで、山の中とは言え、温泉が近くにあるスキー場である。

 よほどのことが無い限り遭難などまずありえない。


 だが、それが起きた。

 刹那が不思議そうにぼやく。


「何で下に降りる道が無いんだろ? それに朝にスキー教室やってた時は普通に晴れてたし、雪玉で転がる前も曇ってただけなのに……」

「本当に不思議よね……いきなりこんな吹雪になるなんて……」

 

 金剣町は毎年雪が降る街である。

 流石に山よりは少ないというだけで、金沢市などに比べれば雪は降る方だ。

 七人全員が雪に慣れているし、吹雪の前兆も無かった。


「それが何故か雪玉から脱出するころには雪が降り始めて、全員で建物に戻ろうとするとこうなっていた」


 圭人も不思議そうにぼやく。

 全員が雪玉になって転がっていった先は林の中だった。

 スキー場の端っこに転がっていっただけなので山の中のまだ木を切っていない所に入り込んだだけである。

 刀和もぼやく。


「この林のど真ん中に道路が通っていたはずなのに……」

「あの位置からなら、そのまま下りれば道路に着くはずなのにな……」


 なのに何故か林を出たのに道路に辿り着かなかった。


「こんな広い場所あった? 山間の小さな村だよ?」

「間違いなくおかしいな」


 圭人も訝しく思案する。

 どう考えても頭にある地図とこの場所の説明がつかない。

 そんなことを思案していると外から声が上がった。


「おい!あっちに灯りが見えるぞ!」

「えっ?本当?」

「行ってみようぜ!」


 外に居たチーボの言葉に全員が外へと向かった。



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