第2話 お屋敷
七人が灯りを目指して歩くとそこに大きなお屋敷が現れた。
かなり古いお屋敷だが、小奇麗にしてあり、壊れていたりはしていない。
ぱっと見は旅館かと思ったがそうでも無いようだ。
各所に灯りが点いており、人が居そうな雰囲気がある。
「助かった……」
チーボがその端正な顔に安堵の表情を浮かべる。
「とりあえず凍死しないで済んだね」
刀和も小さな体を寒さに震わせながらも安心した顔になる。
「良かったぁ……」
「そりゃ、何かあるよね……」
刹那と瞬の女の子二人組も口々に安堵の声を漏らす。
「とりあえず中に入れてもらおうぜ!」
嘉麻が強面の顔を明るくさせながらも中に入ろうと戸を叩こうとするが……
「待て。何か書いてある」
圭人がそう言って冷たい目を光らせながら玄関の上を指さす。
英吾がそれを見て訝しむ。
「なんだ?……『笑滅館』?……ふむ……」
妙な名前が気になる英吾。
不思議そうに刀和が見あげながら尋ねる。
「どうしたの?」
「笑いが滅するって……そんな不吉な名前を付けるか普通?」
嫌な顔になる英吾。
圭人も同じように訝しむ。
「それにそんな名前の建物がこの辺にあると聞いたことあるか?」
「……無いな」
チーボも怪訝そうに首を傾げる。
全員が住んでいるのはこの七里野スキー場より、はるか下の金剣町ではあるが、この辺にある建物ぐらいは何やかやで知っている。
この屋敷は何かがおかしい。
少しだけ躊躇する七人だが……
「くしゅん……寒い……」
刹那がくしゃみでずれた眼鏡を直しているのを見て顔を歪ませる英吾。
「……選択肢は無いか……」
低体温症はかなりヤバいものだ。
簡単に人を死に追いやるだけでなく、生き残っても四肢切断になることもある。
このまま下手に外を歩き回るよりはよっぽどいいだろう。
英吾はそう決断して、戸に手を掛けるのだが……
「うん?」
玄関脇にある木を見て首を傾げる。
紐が縛ってある木をマジマジと見る英吾だが、圭人が声を上げる。
「早くしてくれよ」
「わかったよ。ごめんください」
そう言って中へと顔を出す英吾。
中は広い玄関になっており下駄箱には数字が振られている。
(家じゃないな。なんかの施設なのは間違いない)
受付らしきものは見つからないが、どうやら店舗か施設なのは間違いない。
「すんません!」
そう言って中へと入る英吾。
改めて中を見渡す。
(旅館の玄関みたいだ……スリッパも置いてあるし……)
ご丁寧にいくつものスリッパが並べてある。
「ゴメンください!」
さらに大きな声を出す英吾。
だが、中には誰も居ない。
(留守なのかな?)
そんなことを考えていると戸が大きく開き、外に居た仲間がどやどやと入ってくる。
「もう限界!」
「あー、あったかし……」
「助かった……」
口々にそう言って中の暖かさを噛みしめる面々。
英吾が訝しむ。
(暖房も効いてる。確実に誰かいるだろう)
雪国で暖房を使っているのに人が居ないということはまずありえない。
火事が怖いからそんな真似はまずしないだろう。
そんな英吾の顔を見て嘉麻が不思議がる。
「どうしたんだ英吾?」
「いや、誰も居ないからなんでかなと思って」
「??? そこに居るだろ?」
「……へっ?」
言われてくるりと英吾が振り返ると一人のおっさんが居た。
否、ただのおっさんではない。
仲居の女装をしたおっさんが正座していた。
「お待ちしておりました。本日はお足元が悪い中、当館に来ていただいてありがとうございます」
そう言って三つ指をついてお辞儀をするおっさんに英吾は不快感しか無かった。
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