第3話 謎のルール
目の前の人物の異様さに英吾は眉を顰める。
(何なんだこのおっさん?)
50歳ぐらいの頭頂部が禿かかっているおっさんで、何故か仲居の恰好をしている。
実際、全員が微妙な顔でそのおっさんを見ている。
(何だろう? このおっさんは何でわざわざ女装して仲居の格好してるの?)
(さあ? 普通に従業員で良いよね?)
ひそひそと話す刀和と瞬。
全員が訝し気にしているとおっさんは声を上げた。
「当館は現在貸し切りとなっておりまして、自由にお使いいただいて構いません。ですので、どうぞご自由に動き回って構いませんので」
「いや、別に貸切るつもりは一切無いから」
圭人が不審そうに声を上げる。
眼鏡の奥の冷たい目に疑いがありありと出ている。
「俺達は遭難しただけで、警察か自治体か、どこでも良いけどちゃんとした機関に連絡出来れば良いだけだけだから」
圭人が不審そうにそう言うのだが、そのおっさんは何故か人差し指を頬に当てて答えた。
「そうは言われましても、当館は電話線が繋がっておりませんし、外部との連絡手段は一切ありません」
「どこの秘境だよ……」
圭人がおっさんを睨みながらぼやく。
当り前だが、いくら田舎とは言え、スキー場もあるし、電話線もネットも電気も問題なく使える程度の田舎である。
そんな屋敷が存在する訳が無いし、先ほどからセリフも棒読みでいかにも適当に答えている感が満載の怪しいおっさんだ。
チーボが戸惑いながらも尋ねる。
「その……俺達はスキー合宿で来てるから早く引率の先生に連絡しないといけないんだ。何とか連絡を取る方法は無いか?」
「ありませんねぇ」
困り顔のチーボの言葉に棒読みで答える困っていないおっさん。
「それでしたら、吹雪が止むまで当館でのんびりされては如何ですか? どう頑張ってもここから出られないんですから」
「それはそうだけど……」
棒読みで言うおっさんに微妙な顔になる瞬。
確かに全員が疲労して辛い状態で、ゆっくりしたいのが全員の本音だ。
だが、明らかに怪しいおっさんの物言いに全員が躊躇する。
英吾はしばしの間、思案してから答えた。
「じゃあ、中に入ろう」
「英吾?」
圭人が不審そうに困り声を出すが、英吾は静かに答えた。
「よくわからんけど、外に出られないのは事実だ。この状態じゃ吹雪で逃げることも出来ない」
「……だから全員悩んでるんじゃないか?」
嘉麻が強面の顔を渋面にして言うのだが、英吾は冷静だ。
「多分だけど……俺たちが中に入らないと吹雪が止まないんだな?」
そう言っておっさんに尋ねる英吾。
それを聞いて苦笑する嘉麻。
「おいおい。バカなこと言ってんじゃない。そんな訳「その通りでございます」な……」
嘉麻が全部言う前におっさんがあっさり答えた。
全員の顔が引きつっている。
「この吹雪は当館の主があなた方をお招きするために起こしております。当然ながらあなた方にやって頂くことが終わらない限り出ることはありません」
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
英吾を除く全員が絶句した。
英吾だけが静かに尋ねる。
「俺達はどうすれば良いんだ?」
「とりあえず中に入ってください。お着替えを用意しておりますので」
「……わかった」
そう言って英吾はスキーウェアを脱いで雪をバタバタ払う。
「お、おい英吾……」
「よくわからんがとりあえず前に進むしか無いようだ。俺が一番前を歩くからついて来いよ」
そう言って上がる準備をする英吾。
するとおっさんが立ち上がってこう言った。
「おっと忘れておりました。当館には一つルールがございまして、それだけは守っていただけますか?」
「何を?」
英吾が鋭い目で尋ねるとおっさんは棒読みで静かに言った。
「当館内では決してわらってはいけません。笑うとお尻を叩かれます」
おっさんの言葉に全員の目が半眼になった。
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