第4話 奇怪な黒子


「当館内では決してわらってはいけません。笑うとお尻を叩かれます」


 おっさんの言葉に全員の目が半眼になった。


「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」


 全員が胡散臭いものを見るような目でおっさんを見ている。


(……えーと……ひょっとして大晦日にいつもやってるアレ?)

(多分……アレのことだよね?)


 刀和と瞬が不思議そうにひそひそと話す。

 圭人と嘉麻も胡散臭そうにひそひそと話す。


(笑いを取ろうとしてんのかな?)

(いや、思いっきり滑ってるだろ? 意味があるか?)


 刹那もチーボに小声でつぶやく。


(チーボ……私怖い……)

(大丈夫だ……俺が守ってやるよ)

(そういうセリフを英吾に言ってあげて。凄くはかどるから)

(何がはかどるんだ?)


 一人だけ何か違うことを期待している刹那。

 彼女は腐女子故にBLが何よりも大好きだ。


「それでは……」


 そう言っておっさんはそのまま奥へと去っていった。

 後に残された全員が呆然とするが英吾はパンっと手を打つ。


「よくわからんが仕方ない。中に入るか」

「お前、よくこんな状況でそんなこと言えるな? と言うかさっきのやり取りは一体なんだ?」


 不思議そうに嘉麻が尋ねるが英吾は言った。


「そもそもこんな吹雪自体がおかしいんだよ。何で俺たちがあんな場所で遭難するんだよ? そもそもおかしいんだ。だったら、怪奇現象とかそっちの方がしっくりくる」

「怪奇現象って……よくそんなもの信じられたな……」


 唖然とする嘉麻だが、英吾は平然としている。


「起きたことはまず受け入れる。そのうえで何故こうなったのかを考える。どんなに訳ワカメな状況でも必ず理由があるんだ。ありえない事は本当に起きないもので起きたことはあり得たから起きた。ただ、それだけ」

「そりゃそうだが……」


 未だに納得がいかない科学至上主義の嘉麻。

 それを無視して英吾が玄関に上がった。


「まあ、考えてもしょうがない。とりあえず中に入って着替えとやらに着替えよう」


 そう言ってスリッパを履いた英吾は……


 ドテン!


 思いっきりスッ転んだ!


「いてぇ! ちょっ! 一体何だよこれ! 」


 そう言ってスリッパを調べようとする英吾はあることに気付いた。


「スリッパが釘で固定されとる!」


 痛そうに足をさすりながらスリッパをパカパカさせる英吾。

 それを見て


「お前何やって……」


 嘉麻が笑いながら同じように調べようとしたその時だった!


 にゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅるにゅる……


 姿

 それを見て英吾が顔を引きつらせる!


「お前ら後ろ!」


 英吾はそう叫ぶがすでに遅かった。

 その連中は持っていた棒を6人の尻めがけて振り下ろす!


 パァン!


 綺麗に揃った打撃音が起きると同時に全員の顔が苦悶に歪む!


「あいた!」「いてぇ!」「うきゃ!」


 全員が苦悶の表情で後ろを振り向くと黒子が静かに影へと帰っていく。

 それを見て全員の顔が凍り付く。


「ちょっと今の何よ……」


 瞬が慌てて影に手をあてるがそこには冷たい玄関の土間しかない。


か……」


 大上が痛そうに尻をさする。


「何でこんなことが起きるんだよ……」


 嘉麻が納得いかないと言いたげに辺りを見渡す。

 当然ながら自分たち以外誰も居ない。


「どうやら笑うと本当に尻を叩かれるみたいだな……」


 圭人が苛立たしげにぼやく。


「本当に起きるとただのオカルトにしかならないんだね。これ……」


 刀和が困り顔でぼやく。


「いたたたた……乙女にやって良い罰ゲームじゃないよこれ……」


 ひたすらお尻をさする刹那。

 眼鏡が完全にずれているがそれを直す気力もない。


 そんなみんなの様子を見て絶句する英吾。


「本当に尻叩かれるとは思わなんだ……」


 そう言って苦笑する英吾だが、そんな英吾の後ろにも影鬼が再び現れた。


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