第20話 最後の引き出し


「うぷ……俺が最後か……」


 まだ気持ち悪そうな英吾が嫌そうに自分の引き出しを見つめる。

 圭人がふと、あることに気付いて尋ねた。


「そういや何でチーボは先に引き出しを開けたんだ?」

「だって、コイツが最後に痛い目に遭う所を見てぇから」

「すでに何度も痛い目に遭ってんだが?」


 ジト目でチーボを睨む英吾。

 とはいえ、これ以上は引き伸ばしも無用だ。

 諦めて引き出しを開く英吾だが……


「これか……」


 中からDVDが出てきた。

 だが、英吾は少しだけほっとする。


「俺の場合は何を暴露されても快感に変化するから、これはご褒美だな」

「そのマゾ気質を何とかしろよ」


 英吾の言葉に呆れる嘉麻。

 とは言え、最後が一番ひどいので鋼のメンタルを持つ英吾が丁度良かっただろう。

 英吾はちょっとだけ嬉しそうにスイッチを入れる。


「スィッチオン」


 すると、先ほどのように前の黒板に画面が現れて映像が映し出される。

 嘉麻がそれをみてつぶやく。


「今度は洋館の中からか……」

「洋館?」


 不思議そうな英吾。

 圭人も不思議そうにする。


「今度はどんな世界なのやら」

「あーさっきみたいな異世界ってことか」


 チーボもそれを聞いて納得する。

 どうやら違う世界の話のようだが、先ほど大きく違う点が一つ。 


「カメラワークが完全に人だね」

「一人称視点ものみたいね」


 瞬と刹那が色々と話している。

 どうもカメラを持って洋館内を歩き回っているみたいだ。

 前の方から綺麗なメイドさんがあるいてきたら、カメラの人物も手をあげて言った。


『おはよう』

『おはようございます。ご主人様』

「良い響きだわぁ~」


 英吾が嬉しそうににやける。


「一人アウト」


パァン!


 英吾の尻に一撃入るが気にした様子もない。

 嘉麻があきれ顔になった。


「ご主人様って英吾がか?」

「あの声聞く限りだとそんな感じだね」


 刀和も困った顔になる。

 どうもこの洋館の主のようで、しかもそれが英吾のようだ。

 洋館の中を歩いているこの主はある部屋に入った。

 どうも本人の私室のようでそれっぽいものが置いてある。


『ご主人様おはようございます』

『やあおはよう。いつも可愛いね』

『ありがとうございます』


 主の言葉に無表情で答えるメイド。

 それを見て刀和がぼやく。


「何となく栗花落カ〇ヲに似てるね」

「本当だ。何か目に瞳入ってないし」


 刹那も不思議そうに見ている。

 すると、急にカメラワークがメイドに近づいて主が声を掛ける。


『あのさ、お願いあるんだけど良い?』

『?』

 

 不思議そうにするメイド。

 すると、カメラがいきなり床へとクローズアップした!


『お願い! やらせて!』

「「「「「「「ブフォッ!」」」」」」」

「全員アウト」


パァン!


 おもわず噴き出した全員の尻が叩かれる!

 嘉麻が思わず英吾の頭を小突く。


「お前どんだけ必死なんだよ!」

「いやいや! あれは俺じゃないから!」


 必死で弁明する英吾。

 弁明する間もビデオは回る。


『お願い!一回で良いから!』

『そういうのはどうでもいいの』

『この世にどうでもいいことなんて無いと思うよ!』

「「「「「「「ブフォォ!!」」」」」」」

「全員アウト!」


パァン!


 再び全員の尻が叩かれる!

 そして再度英吾の頭を叩く嘉麻。


「どうでもいいことあるわ! 今見てんのがどうでもいいことだよ!」

「いや、全然どうでもよくないことだと思う!」


 嘉麻の言葉に真剣な顔で反論する英吾。

 瞬がこまり顔で呟く。


「えーと……アダルトビデオ?」

「みたいだね」


 同じく困り顔の刀和だが、嫌そうな顔になる瞬。


「見たくないわー。英吾が出演するアダルトビデオなんて見たくないわー」


 嫌そうな瞬を置いて、話しはまだまだ続く。


『よし!じゃあコイン投げて決めよう!』

『何を?』

『これから僕とやることを!』


 困り顔の女の子に謎の提案をするビデオの主。


『指示されてないことはいつもこれで決めるんでしょ?』

『そうですけど……』


 女の子の困り顔とは対照的に嬉しそうなビデオの主。

 その様子を見て英吾に詰め寄る嘉麻。


「お前本当いい加減にしとけよ!」

「だからあれは俺じゃないっての!」


 最低なことを言いだすビデオの主とそれを否定する英吾。


ピィン!


 いい音を立ててコインを高く弾いた主。


『わぁ! 高く飛ばし過ぎた! 表! 表にしよう! 表が出たら君は心のままにおれと凄いことをやる!』


 それを聞いて首を傾げる圭人。


「心のままにしたら絶対断るんじゃないか?」

「どう考えてもそうなるわな」


 圭人の言葉にうんうんうなづくチーボ。

 一方で英吾と嘉麻もやり合っている。


「お前本当に最低だな!」

「だからあれは俺じゃないっての!」


 そう言ってぎりぎりと取っ組み合いを始める英吾と嘉麻。

 すると、圭人が横からぼそりと尋ねる。


「じゃあ、お前は決めるのにコイン投げる女の子が居てもあんな真似は絶対しないんだな?」

「やるに決まってんだろ!(真剣)」

「じゃあ、お前じゃねーか!」

「いや、絶対俺じゃない!」


 しまいには取っ組み合いしながらもギャーギャー言い合う英吾と圭人と嘉麻。

 そうこうする内にコインが落ちてそれを女の子に見せるビデオの主。


『表だぁ♪』


 そう言って嬉しそうにジャンプするビデオの主。

 奇しくもビデオの主と英吾が全く同じことを言った。


『「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」』


 嬉しそうに思いっきり拳を握りしめる英吾の姿を見て、全員が絶対コイツだと思っていた。

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