第19話 正気


「……うん?」


 散々圭人を罵倒したチーボが不思議そうに寝ぼける。

 そして。開口一番に尋ねた。


「何で俺が英吾と一緒に縛られてるんだ?」

「色々あったんだよ」


 あきれ顔の圭人だが、頭の中で思案する。


(ちゃんと名前で呼んでるな……)


 未だに警戒を解かない圭人を尻目にチーボが不思議そうに尋ねる。


「何で俺を警戒してんの?」

(本物みたいだな……)


 だが、圭人はこれぐらいで警戒は緩めない。


「さっきのベロチューでお前がホモになってしまってな。全員を襲ったんだ」

「マジか……」


 嫌そうな顔をするチーボに

 するとチーボは笑った。


「って嘘かよ!」

(本物みたいだな)


 ツッコミを入れるチーボを見てようやく警戒を解く圭人。

 で昔、プロレスごっこをしていた時の合図だった。

 さきほどもこれに気付かなかったので最初から疑っていたのだ。


「おかげでお前の恋人がこんな感じになってる」

「別に刹那と付き合ってな……なんじゃこりゃ? 何でこうなってんの?」

(間違いないな) 


 ようやく圭人は縄をほどき始めた。

 刹那とチーボは別に付き合ってはいない。

 こういった騙しのテクニックをさらっと使うのが圭人である。


 嘉麻が水道で口をゆすぐのを終えて嫌そうな顔で答える。


「まったく……何なんだよあのベロチューは。ホモが感染するのかよ……」

「あれ? 嘘だったんじゃないの? 本当にやってたの俺?」


 顔面蒼白になるチーボ。

 そんなチーボに圭人は縄をほどいて肩を叩いた。


「忘れろ」

「ちょっと口ゆすいでくる」


 そう言ってチーボは口をゆすぎに行った。

 とりあえずダメージから回復した刀和が嫌そうにぼやく。


「もう嫌だよ……この館はどうして精神にダメージ与える系が多いんだろ……」

「本当に嫌な感じだな……」


 圭人も嫌そうに顔を顰める。

 瞬はとりあえず刹那を正気に戻そうと声を掛けており、刀和も英吾を起こそうと色々やっている。

 それを見ながら考える圭人。


(何かをやらせたがっているか……)


 もう十分お腹いっぱいになるレベルの出来事が起きている。

 だが、圭人はこの引き出しの問題が何を意味するのかを考えてみた。


(まずは嘉麻の顔に落書きから始まり、刹那の謎の問題、俺のタイキック、刀和と瞬のエッチ、そしてこのベロチュー……)


 起きたすべての事を冷静に考えてみるが……


(ただの嫌がらせとしか思えん)


 普通の答えに行き当たる圭人。


(年末のあの番組と〇滅ネタで模倣されているのは何か関係があんのかな?)


 双方の共通する何かが無いかとも考えてみるが……


(面白い以外の共通点がねぇな)


 全くかすりもしない答えに行きついた。


(しいて言えば、どっちともパロディネタとしては出そうな感じだが、何か意味有るのか?)


 考えても全然答えが出ない。


(えーと……とりあえず掘り下げてみるか……まずは笑ってはいけないだが……)


ガシュリ


 何か引っかかるような音が圭人の中で感じた。


(うん?……今、何か引っかかったぞ?)


 圭人の中で思考は『歯車』のように感じている。

 理屈が合いそうなときに歯車が引っかかるのだ。


(俺は今何を考えていた? 年末のあの番組の事を考えていたよな?)


 歯車に引っかかった理由を考える圭人だが、今一つ思い浮かばない。


(なんか引っかかったんだがなぁ……)


 どうやら推理は空振りに終わったようだ。


「おっ? 英吾が目を覚ましたぞ……」


 嘉麻の声に圭人は現実に戻される。

 そして瞬も声を上げる。


「刹那も目を覚ましたわ」

「何だろう……とっても幸せな夢を見ていたみたい……」


 鼻血でぐちゃぐちゃになった顔に笑顔を浮かべる刹那。

 圭人はそれを見て苦い顔にしかならなかった。


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