第27話 鬼の正体は鬼


 その時の全員の心境は一言で言えば「失敗した」だろう。

 つい、見覚えのある光景に状況を楽観視してしまったのだ。

 そのせいで英吾が殺されかけようとしている。

 全員必死で考えていた。


「「「「「「どうやって助ける?」」」」」」


 流石にこの状況はシャレにならんと必死で考える。

 嘉麻は何かできないかと考えている。


(距離は……無理だ! 跳んで助けに行けない!)


 両者の間には4m以上の幅の奈落の空間がある。

 とてもでは無いジャンプでは超えられない。

 チーボも何かできないか考える。


(何か投げてこっちに興味を引くか? 無理だ!)


 投げるような道具も何もないので方法が思いつかない。

 一方、瞬と刹那にいたっては完全に思考停止していた。


((どうしよう……))


 二人とも逆境に弱いタイプである。

 特に刹那は逆境で無くても弱い。


 そうこうしている内に女将がにたりと笑う。


 否、にたりと

 そして……


メキメキメキメキ……


 顔つきが変化して、体も顔も完全に『鬼』と化した。


「くそ!」


 慌てて逃げようとする英吾だが……


ガシッ!


 呆気なく足を捕まえられる!

 そして鬼はその足を捕まえた左手一本で高らかに掲げた。


「じゃあ、愛のビンタだ……諦めて受けろ!」

「嫌だァァァぁぁァァァ!!!!」


 必死で暴れる英吾。

 全員がどうするか悩んでいたその時だった!


「僕です! 笑ったのは僕です!」


 

 それを見て全員が凍り付く。

 最初に声を上げたのは瞬だった。


「刀和!」

「い、いくらなんでも英吾を犠牲になんて出来ない!」


 刀和は優しい性格で、何かと人の代わりに貧乏くじを引く男でもあった。

 その優しさ故に虐められることもあったが、その時は英吾達が守った。

 案の定、鬼はニタリと嗤いながら刀和の方へと向く。


「じゃあ、お前もだ!」


ガシッ!ぐわん!


「くぅ……」


 少しだけうめき声を上げて刀和が鬼の前へと連れていかれる。


「自分から名乗り出るとはいい度胸だ……その度胸に免じてお前からだ!」


どさ!


 英吾はそのまま床へと捨てられる。


「刀和!」


 英吾は自分の身代わりになった刀和を見て目を見開く。

 一方、圭人はそれを見ながらも考えていた。


(ちくしょう! どうすればいい!)


 目の前の刀和を救うために必死で考える圭人。

 だが、先ほどまででそうだった答えが遠ざかってしまった。

 巻き毛の頭をくしゃくしゃにして考える。


(大体なんで『笑ってはいけない』なんだよ! おかしいだろ! 何で笑っちゃダメなんだよ!)


 圭人がそこまで考えたその時だった!


(笑っちゃダメ?)


カチリカチリカチリ……


 歯車が色々とかみ合い始めた。

 その時点で圭人は声を上げる。


「笑っちゃダメだったんだよ!」

 

 圭人のことばに鬼以外の全員が振り向く。


!」

「……なに?」


 嘉麻がきょとんとする。


!」

「……えっと……えっ」


 チーボも圭人の言わんとすることが段々わかってきた。


「言いなりになって、言われた通りの事しか出来ないんだ!」

「それは……」


 瞬もそれを聞いて硬直する。


「奴隷みたいに扱われてたんだ!」

「奴隷って……」


 刹那はそれを聞いて顔を顰めた。

 そして圭人は言った。


!」

「……そう言うことか!」


 それを聞いて英吾は跳び起きて……


「おりゃぁ!」


 ゲシッ!


 鬼の顔にジャンプキックを食らわせた!


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