第6話 紐の木


 まあ、そんなこんなで廊下を先へと進む7人だが、途中で立札を見つけた。


『久世英吾様ご一行』


 それを見て嘉麻が不思議そうにぼやく。


「いつの間にか代表者になってるぞお前?」

「それ以前に名前言った覚え無いんだけど?宿帳にQ太郎って書いてないし」


 そう言って部屋を覗いてみる英吾。

 そこには7人分の試着室が用意してあった。

 ご丁寧に全員の名前が書いてある試着室である。

 それを見て訝しむ全員。


「これは着替えろってことかな?」

「多分……」


 不審そうに眺める瞬に同意する刀和。


「汗が出始めていたから丁度良いとは思っていたが……」

「怪しすぎるな」


 熱そうにパタパタする嘉麻の言葉に圭人が続ける。


「何の着替えがあるのかな?」

「順当に考えれば浴衣だろうけど……」


 不安そうな刹那に答えるチーボだが、自分で言ってそれを信じていないのが明らかだ。

 英吾はため息を吐く。


「とは言え、着替えもこいつらの目的だから仕方ないな」


 そう言って中に入ろうとする英吾だが、チーボが声を上げる。


「そういや、お前は何でわかったんだ?」

「何が?」

「さっきのアレだよ。入らないと吹雪が終わらないとか」


 不思議そうなチーボの言葉に英吾が苦笑する。


「何となく……かな?」


 英吾も不思議そうに首を傾げた。

 圭人があきれ顔になる。


「おいおい。その程度でよくあんな言い方出来たな……」

「うーん……でも明らかにおかしかったからなぁ……」


 そう言って思い出すように上を見上げる英吾。


「明らかに存在しない平原だったし……それに気づいたか?」

「何が?」

「この館の玄関の前に一本の木があったろ?」

「……いや、特に覚えていないけど?」


 圭人の言葉に少しだけ眉を顰める英吾。


「あの木は俺らが最初にぶつかった木だぞ? 木に紐が結び付けられてたろ?」

「……えっ?」


 英吾の言葉に凍り付く圭人。

 確かに最初に雪玉として転がったときに木にぶつかって止まった。

 それはスキー場の範囲を決める紐が結び付けられていた。


「あの時に落書きがしてあったの覚えてたんだわ。相合傘の落書きで九鬼と金棒って書いてあったから驚いた」

「???どういう意味?」


 不思議そうな瞬に英吾は説明する。


「二つともレア苗字だから尚の事覚えていた。これをネタにボケようとしたけど、その時は全員怒ってたからそれどころじゃなかったし」

「まあ、お前と一緒に転がされたからな」


 チーボが苦い顔になる。


「林しか無かった場所にこんな館が建ってればおかしいだろ? だから絶対にオカルト的な何かだと思ってたし」

「そういう嗅覚って本当に凄いよなお前」


 英吾の言葉に感心する嘉麻。

 英吾はそのまま自分の試着室に入る。


「だからまあ、変な抵抗は無意味だ。潔く着替えるしかない」

「そういうことなら仕方ないね」


 刀和も困り顔のまま試着室へと入る。

 全員も諦めて試着室へと入っていった。


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