第23話 叩く達人


「ちょぉ!」

「きゃあ!」

「あわわわわわわ!!!」


 瞬、刹那、刀和が床の傾きに耐え切れず壁に当たる!


「ぐお!」

「ふん!」

「やべぇ!」


 慌ててしゃがんで体勢を安定させるチーボ、嘉麻、英吾。

 圭人は壁際へ逃げながら考える。


(本家に比べれば少し傾くだけで済んでるが……早い!)


 ポンポンポンポン♪


 何しろ曲に合わせて叩いているのでスピードが段違いである。

 他のメンバーは回転について行くだけで精いっぱいだ。


 ばしゅ


 圭人は壁際の障子に穴を空けて、手を突っ込んで掴んで何とか体を固定する。

 そして観察した。


「えーと……あの鼓がこっち回りであれがあっち回りか……」

 

 幸い、鼓を二つしか叩いてないのですぐにわかった。


(後は「間奏」を待つだけ……あそこだけは比較的穏やかになるだけ……)


「目が回るぅ……」

「ぐおおおお……」

「これ以上はキツイ……」


 バッタンバッタン左右に傾く部屋に全員が苦しそうだ。

 

「ぼぉくをぉ♪ つぅれぇてぇ♪ すぅすめぇ♪ 」


 ぽん♪


(えっ?)


 突然三つ目の鼓もたたく少年。

 すると、襖の一つが開いた。


 プシュッ!


 煙と共に黒子の鬼が現れた。


「ここからはハンターが出てくるポン!」


 アナウンスに流れる言葉に圭人はげんなりとした。




 そして数分後…………




 

 何度もエンドレスで続く紅〇華に広間の中は阿鼻叫喚と化していた。


 パァン!


「いたぁい!」


 刹那が尻への一撃を受けて痛そうにしているがお尻をさする暇も無い。

 前後左右に回転する部屋に遠慮なく襲ってくるハンター。

 全員が対応に苦しんでいた。


「ちくしょう!どうやってあれを止める!」


 チーボが回転に振り回されながらも何とか檀上に向かおうとするのだが……


 ぽん


 ズルドテシャァ!


「くそ!」


 スッ転んで体勢を立て直す。

 先ほどから全員こうなので全然先に進めないのだ。


 しかも……


「わわっ!」

「くそ!」


 前後にも傾くので体勢を崩すと後ろの方へと転がって、壇上からどんどんと遠ざかる。


「ちくしょう!」


 圭人も必死で壇上へと向かっていくのだが失敗する。


(折角の間奏もハンターに邪魔された!)


 ハンターが山盛り現れてしまってそっちに追われてしまったのだ。


(どうすればいい?)


 必死で考える圭人の横を通り過ぎる男が居た。


「嘉麻か!」


 嘉麻がヨタヨタと歩きながら前へと一歩一歩進んでいく。

 

「どうやって……うん?」


 ぽん♪

 ぴょん♪


 鼓の音に合わせてジャンプしている。


「そういやあいつ、歌が上手かったな……リズム感優れてるし」


 嘉麻は黒人の血を引いているせいか、リズム感には優れていた。

 一歩一歩ではあるが近づいていく嘉麻。

 だが、そんな嘉麻にハンターが近付いていく!


 タタタタ


「まずい!」


 今、嘉麻をやられると止める奴が居なくなる!

 慌てる圭人の耳に叫び声が聞こえた。


「英吾!」

「わかった!」


 たんっ!


 チーボが叫ぶと英吾がチーボを踏み台にジャンプして嘉麻を襲おうとしたハンターを取っ捕まえようとする!


「行かせねーよ!」


 そうカッコよく言って英吾はハンターにタックルをかますのだが……


 ヒュン。パァン!


「いてぇ!」


 英吾の尻が叩かれるだけで終わる。

 そして……


「あぁぁぁあぁぁぁ……」


 ゴロゴロゴロゴロ……バギ!


 転がって壁に当たって止まった。

 そうこうする内に曲は最高潮へと達する。


 うぅんめぇいうぉ~♪ てらして♪


「まずい!」


 ここから連打タイムが入る。


(折角ここまでうまく行ったのに!)


 一気に振り出しに戻らされてしまう!

 だが、嘉麻はここでにやりと笑う。


「ここだぁ!」


 そう言って嘉麻は駆けだした!


 ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン……


「ぐお!」

「くそ!」

「くぅ!」


 左右へと揺れる室内。

 だが、嘉麻は揺れる室内を物ともせずに走り切る!

 そして……


「ようやくついたぁ……」


 壇上へとたどり着いた!


「よっしゃぁ!」

「よくやった!」


 全員が安堵の息を漏らす。

 嘉麻が演奏を止めようと壇上へと上がると……


「面白かったね。お兄ちゃん」

「またやろうね。お兄ちゃん」

「そうだな」


 三人の少年はそのまま去っていく。

 一方で叩かれていた大男は……


 スクッスタスタスタスタスタ……


 そのまま舞台袖へと去っていく。


「あ、あれ?」


 嘉麻がきょとんとしていると襖を開けておっさん仲居が現れた。


「お客様。本日の演芸会は終わりでございます」


 それを聞いた全員が腰砕けになってしまった。


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