第25話 逃れる方法


 12畳程度の畳が空中に浮いており、その周りはまるで旅館の中のようになっている。

 一見すると巨大な旅館の内部の吹き抜けに畳が浮いているようにも見えるが、廊下や階段が騙し絵のように出鱈目に繋がっているので、亜空間のようになっている。



 そんな現状を見てたらりと冷や汗を流す瞬。


「これって……『パワハラ会議』の態勢よね?」

「だよねぇ……」


 刹那が顔を青くして答える。


 説明しよう!

 

 『パワハラ会議』とは『鬼〇の刃』の名シーンの一つでラスボスが部下の鬼を粛清しまくったシーンである!

 リストラに必死で言い訳して抵抗する中間管理職を容赦なく殺していくというラスボスの冷酷さが垣間見えるシーンである!


 それに気づいたチーボが青い顔で呟く。


「容赦なくリストラを敢行する無〇様には恐怖を感じたなぁ……」

「必死で忠誠心を見せる部下を容赦なく殺しまくってたな……」


 圭人も顔を青くする。

 


「あんな上司からは逃げたいと心の底から思ったが……」

「……まさか、同じ目に遭うとは思わなかった……」


 英吾と嘉麻も顔を青くする。

 英吾が圭人に言った。


「どうするべきだと思う?」

「原作準拠なら「殺されて光栄です」って悦に入った顔で答えないと死ぬな……」


 圭人も思案しながら答えるが……


「問題はここの主が同じことを求めているかだよな……」

「やはり違うと思うか?」

「ああ」


 英吾の言葉に圭人も渋い顔で答える。

 刀和が不思議そうにぼそりとつぶやく。


「今までの対応はダメだったのかな?」

「どういう意味だ?」


 怪訝そうな英吾。


「今までのって全部思惑通りに動いてるような気がしたから……あれ以外の対応って何があったのかなって思って……」

「……言われて見りゃ、それ以外の対応って出来なかったな……」


 刀和の言葉に英吾も唸る。

 引き出しを開けろと言われて引き出しを開け、演劇を見ろと言われて演劇を見る。

 嘉麻とチーボも困り顔で答える。


「散々振り回されてばっかって感じだな」

「あんだけ人をバカにした真似されて他にどうしろと……」


 嫌そうな顔の二人。

 瞬も困り顔でつぶやく。


「あんなのただの虐めだよ……」

「もう帰りたいよぉ……」


 刹那も眼鏡を曇らせて泣きそうだ。

 その時だった。


カチリ


 圭人の中で歯車がかみ合った音がした。


「ちょっと待て! 今誰か何か言わなかったか?」

「うん?」

「何の話?」


 訝し気な全員。


「すまん。もう一回、今言ったことを言ってみてくれ」


 圭人の言葉に全員が首をひねるが、訝しみながらも答える。

 刀和から順番にもう一度言う。


「思惑通りに動いているって言ったよ?」

「それ以外のこと出来なかったなって言った」

「振り回されてばかりと言った」

「バカにされたと言った」

「虐めみたいだって言った」

「帰りたいって言った」


カチリ


 再び圭人の中で歯車がかみ合う。


(間違いない! やっぱり何か意味があるんだ! 今言った言葉の中に!)


 何かがわかりそうな圭人。

 だが、奥の襖が開いてさきほどのおっさん仲居が現れた。


「女将の無残様がもうすぐ来られます」

(くそう!)


 もう少しで答えが出そうなのに邪魔が入って舌打ちをする圭人。

 英吾は慌てて言った。


「とにかく!殺されて光栄ですみたいなこと言ってこの場を乗り切るぞ!」

「「「「おう!」」」」」

「全員土下座するぞ!」


 そう言って慌てて全員が土下座体勢を取る。

 それとほぼ同時におっさん仲居が言った。


「女将が来られました」


 仲居がそう言うと同時に足音が聞こえる。


ドスドス!


(((((((うん?)))))))


 やけに大きな足音に訝しむ全員。

 すると、前の方から大きな声が聞こえた。


「ガッでぇェェェぇェェェむ!!!!」


 その声を聞いて全員が凍り付いた。


「俺が女将の無残だ! 全員顔を上げろ」


 その言葉を聞いて顔を上げた全員の目にサングラスに強面髭面の謎の着物男が居た。


((((((こっちかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!)))))))


 先ほどの対策が木端微塵に砕け散ったことを全員が理解した。


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