エピローグ2

 薄暗い地下室で、布袋を被って顔を隠した男が電子機器に囲まれていた。

 男は台に乗せた物に銅線の繋がった針を刺しては機器を操作している。

 針の刺さった物は何かの動物の脳のようだったが、それにしては半分しかない。

 機器に映し出される波形が目まぐるしく動く様を、調整するように凝視していた。

「よう先生。客が来たぜ」

 学生風の少年がドアを開けてそう告げたが、覆面男は返事もしない。

 少年は構わず客を通して自分はさっさと退室する。

 客の男は部屋に入り、珍妙な物が並べられた室内を見渡した。

 少し口髭を生やした渋めの雰囲気だが、恐面と言うほどではない。

 柔らかい表情をすれば爽やかに人と打ち解けそうだ。

 人と接する事に慣れていそうで、喫茶店のマスターをやらせれば似合いそうだ。

 だが今はやや厳し目の表情で室内をうろつく。

「中々連絡を寄越さないからこっちから出向いたってのに、挨拶一つ無しか」

 少しトーンを落としたような声で言う。

「ちょっと予定外のトラブルがあってね。その穴埋めに忙しかったのだよ」

 覆面は手を止める事なく答える。

「まさか。約束を守れないわけじゃないだろうな」

 客の声が危険な色を帯びる。

「それはないから安心したまえ。失ったのは力の半分だよ。君との約束を守れないなら、私はとっくに雲隠れしている」

 客はふんと鼻を鳴らす。

「遅れている事なら謝るよ。だがそんな事は必要としていないだろう? 君が必要とするのは結果だけだ。だからこうして急いでいる」

 そのまま覆面は作業に没頭し、客の男も黙って待つ。

「よし、必要なものは全て揃った。……それで。新しい力が欲しいと言うのは誰だね?」

「連れてきている」

「明日でよいのなら、より安全性が高まるが? すぐ始めるならそれ相応のリスクを覚悟した方がいい。どうするね。決めるのは君だ」

「今だ。もし何かあったらお前さんには死んでもらうだけの事だ。結果を出すのはお前さんだ」

 さっきよりは明るい調子で言うものの、冗談でない事は覆面の男もよく分かっていた。

 しばしの沈黙の後、ごくりと唾を飲み込む音がする。

「だが完全な変異種を作るのには時間がかかる。時間をかけて定着させないとまた戻ってしまうようでね。完了時期については言及していなかったのだ。問題あるまい?」

 客はしばらく沈黙していたが、

「……まあいいだろう。そのくらいは大目に見よう」

 覆面の男は小さく笑い、客の男もそれにつられて笑い出す。

 それでも客の男の目は笑っていない。

 覆面の男もその下の表情までは分からなかった。

 室内では、しばらくの間乾いた笑いが続いていた。

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シノブシ2 九里方 兼人 @crikat-kengine

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