前半4
第15話 信仰の証
魁達は真一の家に集まり、今後の事を話し合う。
魁の姉、楓の話では紗耶香はショックで寝込んでいるらしく、晴美の消息は分からないそうだ。
下着はあの夜回収しているので、当初の問題自体は解決している。
もっとも事の発端である晴美自身の行方がしれないので、それ以前の問題ではあるが。
真一は魁が十万円で購入した『証』を光にかざす。
証は指でやっと摘まめるほどの小さな宝石だ。
落としてしまったら大騒ぎになるだろうが、販売されている時は名刺サイズのプラスチックのプレートに入れられていたのでその心配はない。
要はたくさん購入すればプレートにたくさん並べられるようになっている。
会場には。多くの証を並べたプレートを名札のように胸に付けて、これ見よがしに見せつけている人もいた。
プレートは簡単に開けられるので宝石は手に取る事が出来る。
怪しい団体の売りつける物なのでガラス玉かと思ったが、そうでもなかったらしい。
「実は、鑑定してもらったんです」
真一は証を魁に返して言う。
「これは本物の宝石ですよ。まあ価値としてはそれほどではないですけど。販売価格で精々二、三万ってとこです。ガラスで偽造しようとしてもバレます」
「宝石店に持って行ったのか? よく通報されなかったな」
「えへへ。親が怪しい団体から買ってきたけど偽物かもしれないから、こっそり見てほしいってお願いしたんです」
実際似たようなものかもしれない。
「でも三万円で買えるなら、団体から買わない方が、三倍買えるじゃない」
サクラが普通の感想を言う。
「それが、宝石にシリアル番号みたいな物がバーコードで刻印されていて、暗号のようなので、偽造はまず無理ですね」
さして興味無さそうだった蟇目が顔を上げる。
「そいつは、妙だな」
「そうなんですよ。インチキ金集めなら、プラスチックでも、紙製でもいいと思うんです。信憑性を持たせる為の投資かもしれませんけど、刻印まで埋め込むなんて念が入りすぎています」
「つまり、この証にはちゃんと意味があると?」
魁は手に取った証を凝視する。
「そうですね。シェルターは嘘っぱちだと言ってましたけど、後で本物を買った人が分かるようにしてあるのかもしれません」
「私達をシェルターに入れたくなかっただけじゃないの?」
サクラの意見に、それもあるかもと真一は苦笑する。
「世界の終焉は本当だと言ってましたからね。普通ならそっちを嘘だと言いそうなもんですよ。そして変異種をさらっている事からも、何か企んでるのは間違いないでしょう」
「センソーよセンソー。第三次世界大戦。それって世界のシューエンでしょ? それを変異種の軍隊作って起こそうとしてるんじゃない?」
優美が無邪気に子供じみた事を言うが、一瞬誰も反論できなかった。
「ま、イカレた奴らだ。戦争が起こせるかどうかは分からんが、そんな事考えてても不思議じゃない」
さすがに宝石で集めた資金で戦争は……、と苦笑いする皆に、
「いえ、彼らは軍隊に匹敵する力を持っているかもしれません」
真一の眼鏡が光を反射させて光る。
「あれですよ。『アインシュタインの脳』」
「アインシュタインって。……映画に出てくる博士が飼ってる犬?」
サクラの言葉に苦笑しながら、その基になった人物だと真一は続ける。
「相対性理論を提唱した有名な科学者ですよ。実はアインシュタインの脳は彼の死後、研究のために検体として保管されているんです」
解剖され、どの分野が発達していたかなど検証が行われ、現在はバラバラに保管され、一部は行方が分からなくなっていると言う。
「それが彼らによって集められ、元通りに復元されたとしたら?」
「したらどうなんの?」
サクラのもっともな問いに、
「いや、それは分かりません」
と苦笑し、皆も呆れた様にため息をついた。
「でもアインシュタインの理論によって核爆弾は作られたんです。それを使って何かしようとしているかもしれません」
実際、信じられない事をして見せた。
「あれマジックじゃなかったの?」
サクラの言葉にあんなマジックは聞いた事がないと真一は頭を振る。
「薬物なんかの幻覚かとも思ったんですが、その可能性も低そうです」
サクラや優美の記憶は曖昧だったが、それ以外の者も見たものは同じだった。
そんな事をする奴らのやる事を止めようと言うのだから、せめてその謎を解いておかないと動けないと言う。
「父は生前こう言ってました。この世にまやかしなどという物は存在しない。全ての事象には理由がある。理屈によって起きるべき事が起きるだけだと」
魁の父親らしい、と皆感心する様子を見せる。
「その後でこうも言ってました。見るものを自分の常識に当てはめて考えるな。物事は自分の理解を超えるものと知れ。この世のすべての理屈を自分が知っているはずはないのだから」
……それも親父さんらしい、と皆嘆息する。
「魁って……、どうやってそんなに真っ直ぐに育ったの?」
サクラの言葉に魁は「は?」という顔をするが、皆それ以上は深く聞かない。
「考えてみれば、変異種も十分常識を超えてるもんね」
優美が蟇目に全く気を遣う様子もなく言った。
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