第16話 豊橋の詰所

 魁は誠司のいる詰所に赴く。

 一応燐花が無事だった事を伝えようと思ったのだが、

「あいつはもうウチの預かりじゃないそうで。まあ殺しても死ぬようなタマじゃないんで心配してませんけどね」

 と素っ気ない。

 どうしてか誠司はあまり燐花の事が好きでないようなので、それとなく聞いてみるが、元々敵対派閥の連れてきた助っ人だからのようだ。

 幼くても変異種なのでか弱いと言うのにもほど遠い。

 加えて不躾で横柄。

 確かに年功序列の中で育ってきた誠司に好きになる理由はなさそうだった。

 燐花のその後を誠司に聞いても分からないのだろう、と話を切り上げて帰ろうとすると、先日サクラと一緒に顔を合わせた二人組がやってきた。

「お、坊主。今日はあのでかい乳の彼女はいないのか?」

 彼女というわけでは……、とお決まりの返答をした魁だったが、彼らの胸に見た事のある光があるのに気が付いた。

「それは……」

 二人は魁の視線に気が付くと、胸に付けたプレートを指す。

「いいだろ」

 プレートには輝く宝石が二つ。

 もう一人は、と見るとそこには三つはめ込まれていた。

「よう。これは多いほど、世界の終焉を生き残れる確率が増えるんだぜ」

「マジかよ。オレも買いに行かなくっちゃ!」

 二人はコントのような会話を始める。

「買ってきたぜ。見ろよ。二つも」

「何言ってんだ。オレは三つだぜ。二つより三つの方が偉いんだぜぇ」

「こりゃ失礼。もしもの時はお願いしますよ。一つ譲って頂戴」

「おうよ。だからオレの言う事には従いな」

 と言って笑い合う。

 そこへ背後から少し恰幅のいい中年男性がやってくる。

「何を言ってる。終焉が来たらお前らなんかザコだ」

 中年は胸のプレートを見せる。

 そこにはざっと二十個はあろうかというくらいに並んでいた。

 二人はへへーっと平服する。

 誠司はこの連中が燐花を預かっていた奴らだと言う。

 という事は誠司とはあまり仲の良くない派閥だという事だ。

「あの……。皆さん集会に行かれたのですか?」

 中年は魁の言葉にふふんと鼻を鳴らす。

「見ての通り。ワシはすぐハーデス・ゲートの幹部になる男だぞ」

「本当ですか? マホメドさんに遭わせてほしいのですが!」

 詰め寄る魁に、若干たじろぐ様子を見せるも、中年はどうしようかなーと渋る素振りを見せる。

「坊ちゃん。真に受けない方がいいですぜ。この連中は何も知りませんよ」

 誠司が耳打ちするように言う。

「ああ? なんだ? 誠司」

 いえ、なんでも……と濁す誠司に魁は落ち着きを取り戻す。

 魁も証は持っているのだ。

 証を買ったからと言って信者というわけではないだろう。

 むしろヘタに彼らを巻き込むべきではないのではないか、とその場を後にした。

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