第17話 空間の歪み
翌週もハーデス・ゲートのセミナーは堂々と行われる。
魁達は外でマホメドの動向を探っていたが、セミナー終了と共に忽然と姿を消した。
今回は場合によっては危険かもしれなかったので女子達は留守番だ。
「会場も前と違いますからね。隠し通路ではないでしょう」
真一はうーん、と額に指を当てて唸る。
「やはり、マホメドは離れた所に物体を移動する力を持っているとしか……」
荒唐無稽だと思うものの、魁も蟇目も実際に体験したのだ。
「つまりアレか? 攻撃をかわしたのも僅かにオレを移動させて避けたってのか?」
そう考えると辻褄が合うと言う。
「アインシュタインは、この世のあらゆる所で時空の歪みが起きている事を発見したんです。マホメドは変異種には歪みがあると言ってました。もし、あの脳がその歪みを増強する装置だったとしたらどうでしょう?」
ここもか? と空中を指さす蟇目に真一はアッサリ「はい」と答える。
「空気も物質です。物質には重さがあります。重さは重力を発生します。重力の正体は時空の歪みなんですよ。ただ普通はあまりに微弱すぎて分からない。近くにある一番質量を持った物体は地球です。だから皆地球に吸い寄せられているんです」
姿を消す変異種と同様、科学的に説明できないわけではない。
ただそれを再現する方法は分からない。
分からないという事は、そのままどのくらいの力を持っているのか分からないという事。
「得体の知れない相手に、ヘタに仕掛けるのは危険だってのには賛成だ」
一つ言える事は跡形もなく消し去る能力ではないという事。
証拠を残さず消し去れるなら、とっくにそうされているのだろう。
「晴美さんを連れ去った時、蟇目さんはさらいませんでした。燐花さんに気絶させられた後に連れ去っている事から、物質移動は簡単には出来ないんじゃないでしょうか」
少なくとも動いている物には使えない。
余裕で逃げ場のない密室に通して謁見したのではない。密室だからこそまとめて移動させられた。
だから開けた場所である街中では大人しく引いて行った。
「動く物はその軌道をズラすのが精一杯だと考えられます」
それは十分に難攻不落なのですが……、と真一は眼鏡を上げ、
「それが変異種にある歪みを利用する力だと言うのなら……」
「私の攻撃なら通用するのかも」
「そういう事です」
真一は眼鏡を光らせた。
「さすが魁の相棒だな。大したもんだ」
と蟇目は真一の肩に手を回す。
「いえ、まだ憶測の息を超えませんから……。憶測だけで行動するのは危険ですよ」
蟇目は真一に不敵な笑みを見せ、
「分かってるじゃねぇか。その通りだよ」
真一はその様子に若干顔を強張らせた。
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